福岡高等裁判所 昭和38年(う)146号 判決 1967年12月18日
本籍 北九州市小倉区萩崎町五番地
住居 同市門司区大里西新町四八九番地
参議院議員 小野明
大正九年四月六日生
本籍 福岡県宗像郡福間町大字福間二、七三一番地の六
住居 同所二、四〇〇番地の一一
教員(福間中学校長) 花田久男
明治四三年九月二八日生
<ほか一八名>
事件名 各地方公務員法違反
原判決 昭和三七年一二月二一日福岡地方裁判所言渡
控訴申立人 被告人全員に対し各検察官
被告人小野明、同島田二男、同田中勝美、同舌間正記、以上被告人四名の原審弁護人森川金寿、同諫山博、同柳沼八郎、同谷川宮太郎、同岩村滝夫、同立木豊地、同重松蕃、同尾山宏、同新井章
出席検察官 森崎猛、船津敏
主文
原判決中被告人小野明、同島田二男、同田中勝美、同舌間正記に関する部分を破棄する。
被告人小野明、同島田二男、同田中勝美、同舌間正記はいずれも無罪。
検察官の本件各控訴を棄却する。
理由
検察官の本件控訴の趣意は、福岡地方検察庁検察官石丸清見名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人森川金寿、同諫山博、同柳沼八郎、同谷川宮太郎、同立木豊地、同岩村滝夫、同重松蕃、同尾山宏連名提出の反論弁駁要旨記載のとおりであり、被告人小野明、同島田二男、同田中勝美、同舌間正記の本件控訴の趣意は、弁護人海野普吉、同森川金寿、同諫山博、同柳沼八郎、同谷川宮太郎、同立木豊地、同岩村滝夫、同重松蕃、同尾山宏連名提出の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は福岡高等検察庁検察官森崎猛提出の反論意見書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用し、これらに対し当裁判所は、次のとおり判断する。
弁護人らの控訴趣意第二節の第一、第二(法令適用の誤り)について。
所論は、原判決は、地方公務員法(以下地公法という。)第三七条第一項、第六一条第四号は憲法第二八条に違反しないとしているが、地公法の右条項で地方公務員の争議行為等を全面的に禁止しているのにその代償措置が不完全であり、公務員は全体の奉仕者であるとか公共の福祉とかで地方公務員の争議行為等を禁止することは許されないので、地公法の右条項は憲法二八条に違反するものであるというのである。
憲法第二八条に保障する労働基本権は、歴史的には資本制社会において、契約自由の原則を実質的に保障するため、富も生産手段も有しない勤労者に団結権等の労働基本権を認め、富と生産手段を有し利潤を追求して止まない使用者と平等かつ自由に雇用関係を決定させることを目的として認められるに至ったものであるが、憲法第二八条の労働基本権は憲法第二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とするものであることにかんがみれば、労働基本権は、私企業の勤労者のみならず、国家公務員、地方公務員にも原則的に保障されるべきものである。
公務員は全体の奉仕者であるという憲法第一五条の規定によって公務員の労働基本権をすべて否定することは許されないことは勿論であるが、私企業の勤労者も含めて勤労者の労働基本権も、絶対的なものではなく、基本的人権間の矛盾衝突の実質的公平な調整ないし基本的人権の内在的制約の見地から、制限を受けることのあるのはやむをえないところである。
そして、(1)地方公務員は国民全体の利益の維持増進をその職務とし、その職務の停廃は国民生活全体の利益を害し国民生活に重大な障害を招来するものであること、(2)使用者である地方公共団体に公務員側の争議行為に対する対抗手段としての作業場閉鎖等の争議行為が認められていないこと、(3)地方公務員の勤務条件は議会の定める法律または条例等により定められていること、(4)地方公務員の争議行為等の禁止の代償措置として地公法は人事委員会または公平委員会を設けて原判示(丁の第一の一の(四)の(1))のとおりの機能を営ましめていること、もっとも人事委員会または公平委員会の意見、勧告は地方公共団体や議会を拘束しないので、右代償措置は完全な代償措置とはいい難いが、一応の代償機能を果していること等を考量すると、地方公務員の争議行為等を禁止する地公法第三七条第一項が憲法第二八条に違反しているとはいえない。
もっとも、地方公務員の争議行為等を禁止することが憲法第二八条に違反するものではないとしても、そのことからただちに地方公務員の争議行為等の煽動行為者等に刑罰を科する地公法第六一条第四号が憲法第二八条に違反しないとはいえないが、地公法第六一条第四号の内容を後記(弁護人らの控訴趣意第三節に対する判断)のとおり解する限り、同条号は憲法第二八条に違反しているとはいえない。論旨は理由がない。
弁護人らの控訴趣意第二節の第三の一(理由不備)について。
所論は、原判決は、地公法第三七条第一項が憲法第二八条に違反しないことの判断をしてはいるが、罰条規定である地公法第六一条第四号が憲法第二八条に違反するかどうかについては判断を欠いており、かりに原判決が、地公法第三七条第一項が憲法第二八条に違反しないことから、ただちにその罰条規定である地公法第六一条第四号も憲法第二八条に違反しないとの見解をとものであるならば、その論理の飛躍は何人にも疑う余地はなく、原判決にはいずれにしても理由不備の違法がある、というのである。
地公法第三七条第一項が憲法第二八条に違反しないことから、ただちにその罰条規定である地公法第六一条第四号も憲法第二八条に違反しないと結論しえないことは勿論であるが、原判決は地公法第六一条第四号が憲法第二八条に違反しないことをも判断しているものと認められるので、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。
弁護人らの控訴趣意第二節の第三の二(法令適用の誤り)について。
所論は、原判決は、地公法第六一条第四号は憲法第一八条およびILO一〇五号条約に違反しないとしているが、地公法第六一条第四号は憲法第一八条およびILO一〇五号条約ひいては憲法第九八条第二項に違反するものである、というのである。
地公法第六一条第四号の内容を後記(弁護人らの控訴趣意第三節に対する判断)のとおり解する限り、同条号は憲法第一八条に違反しているとはいえず、ILO一〇五号条約は、我が国のいまだ批准していないところであり、国際慣習法を形成しているともいえないので、地公法第六一条第四号が憲法第九八条第二項に違反しているとはいえない。論旨は理由がない。
弁護人らの控訴趣意第二節の第三の三(法令適用の誤り)について。
所論は、原判決は、地公法第六一条第四号は憲法第二一条に違反しないとしているが、地方公務員の業種の多様性や地方公務員の争議行為がその時期、方法等にかかわらず一律に国会が刑罰をもって禁止するに値する社会的害悪といいえないこと等からすると、地公法第六一条第四号は憲法第二一条に違反するものである、というのである。
地公法第六一条第四号の内容を後記(弁護人らの控訴趣意第三節に対する判断)のとおり解する限り、同条号は憲法第二一条に違反しているとはいえない。論旨は理由がない。
弁護人らの控訴趣意第二節の第三の四(法令適用の誤り)について。
所論は、原判決は、地公法第六一条第四号は憲法第三一条に違反しないとしているが、地公法第六一条第四号のあおりの概念が不明確であり、また、右条号は刑罰法規として不適正、不合理であるから、地公法第六一条第四号は憲法第三一条に違反するものである、というのである。
地公法第六一条第四号の「あおり」とは煽動と同義で、特定の行為を実行させる目的をもって、文書もしくは図画または言動により、人に対し、その行為を実行する決意を生ぜしめ、または既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えることをいうものと解されるので、不明確であるとはいい難い。また、地公法第六一条第四号の内容を後記(弁護人らの控訴趣意第三節に対する判断)のとおり解する限り、同条号は不適正、不合理であるとはいい難い。したがって、同条号は憲法第三一条に違反しているとはいえない。論旨は理由がない。
弁護人らの控訴趣意第三節(法令適用の誤り)について。
所論は、地公法第三七条第一項、第六一条第四号は個別的労働関係を律する行政組織法規としてではなく、集団的労働関係を律する労働法規として解釈すべきであるが、地公法第六一条第四号を憲法第二八条、第三一条に違反しないと解するためには、次のように制限解釈をする必要がある。すなわち、第一にその主体として、職員団体の構成員である職員以外の第三者および職員であっても職員団体の共同意思に基かないで行動した者に限り、第二にその方法として、社会倫理的にみて反価値的な評価をうけるような、例えば言動が虚偽虚構にわたるとか、脅迫的であるとか、激越であるとかの場合に限り、第三にその対象として、その目的とする争議行為が地方公共団体の行政を麻痺停廃させ、社会的にも著しい害悪を与え、住民の安全および生活に深刻な影響を及ぼすことが明白な場合に限ると解すべきである、というのである。
地公法第六一条第四号は、憲法第一八条、第二一条、第二八条、第三一条の各規定の趣旨等からみると、次のように相当の問題点を含んである。
(1) 労働運動の歴史は、まず労働者の団結、争議行為等の労働運動の刑罰からの解放に始まり、ついで民事制裁の免除、さらに不当労働行為制度へと進んでいるのであって、争議行為に刑事制裁を科することは必要最少限度に止むべきであり、ことに同盟罷業のような単純な不作為に刑事制裁を科することは特別に慎重でなければならない。
(2) 地公法第三七条第一項、第六一条第四号はすべての地方公務員の争議行為を一律に禁止しその煽動行為等に刑罰を科しているのであるが、地方公務員の職務の停廃が国民生活に対して及ぼす障害の程度はその職種により一様ではない。すでにかつては地公法の右条項の適用を受けていた現業職員である地方公益企業に勤務する地方公務員については立法上その取扱を改めて右の点について刑罰を科することをやめているのであり、その他の地方公務員といってもその職種は種々雑多であり、その職務の停廃が一時も許されないような警察、消防等の職員もあれば、現業職員と大差のない職務に従事する職員もあるのである。
(3) およそ争議行為は、団体行動であるから、その実行について主唱、討議、説得、伝達がなければ事実上到底行われ難く、これらの行為のない争議行為というものは考えられず、しかもこれらの行為が地公法第六一条第四号の共謀、そそのかし、あおり、企て(以下煽動行為等という。)のいずれかに該当することは明らかである。したがって、争議行為の煽動行為者等を処罰することは争議行為を刑罰をもって禁止する結果となる。
(4) ところで、地公法が争議行為の実行行為者に対する処罰規定を欠いているのは、特別の理由がない限り、争議行為の実行行為者を処罰することは憲法第一八条、第二八条、第三一条に違反するので争議行為の実行行為者を不可罰的であるとしたものと考えられる。このように実行行為者を処罰しないのに、煽動行為者等のみを処罰し、しかもそれについて実行行為の有無を問わないというのは、一般の刑罰法体系からは全く特異なことである。一般に煽動行為等の予備的段階の行為を独立して処罰するのは既遂行為が重大な犯罪である場合に限られ、また教唆者、幇助者、煽動行為者等の共犯者を処罰するのは実行行為が可罰的なものであり、かつほとんど実行行為がなされた場合に限られている。したがって、争議行為の実行行為者を処罰しないのに、その煽動行為者等を処罰し、しかもそれについて実行行為の有無を問わないというのには、それだけの合理的理由がなくてはならない。しかも、争議行為は団体構成員の全員または多数の討議により決定され、団体の幹部はその決定に従って形式的に争議行為の実行の指令を発する等するに過ぎない場合もあり、争議行為は常に幹部等の煽動行為等によってのみ行われるものとはいえない。したがって、争議行為において常に幹部の行為が実行行為よりもより可罰的であるとはいえない。
(5) 憲法第一八条のその意に反する苦役とは、単に苦痛を伴う労役のみと解すべきではなく、本人の意思に反して他人のため強制される労役も含むものと解するのが相当であるから、労働者が単に労働契約に違反して就労しなかったとの理由だけでこれを処罰することは、結局刑罰の威嚇によって人の意に反する苦役に服させることになるので、憲法第一八条に違反するものである。したがって、個別的に労働契約に違反して就労しなかったことそのものを処罰するのではなく、集団的な争議行為の煽動行為等を処罰するにしても、前記のとおり煽動行為等のない争議行為というものは考えられないので、煽動行為者等を処罰するには違法性の強い争議行為の煽動行為等をした場合に限ると解するのが相当である。
(6) 憲法第二一条の観点からすると、地公法第六一条第四号は争議行為の実行行為の有無を問わず煽動行為者等を処罰するものであり、言論等の表現活動の段階にあるものを処罰しようとするものであるから、右煽動行為者等を処罰するには明白な危険を伴う違法性の強い争議行為の煽動行為等をした場合に限ると解するのが相当である。
以上の諸点を綜合して考慮すると、地公法第六一条第四号の処罰の対象となる煽動行為等は、煽動行為等がなされた争議行為が特に違法性の強い場合に限ると解すべきである。違法性の強い争議行為とは何であるかについては立法による解決が望ましいが、その限界は、(1)争議行為の目的が公務員の勤務条件の改善の目的ではなく、例えばいわゆる政治的目的のためなされる場合、(2)その公務員の職種からみて国民生活に対し明白かつ重大な障害をもたらす慮がある場合、(3)争議行為の手段方為が暴力を伴いまたは不当に長期間にわたるなど相当でない場合に、違法性の強いものであると解するのが相当である。そして具体的には社会通念に照し良識ある判断によって決すべきものと解する。結局争議行為の実行行為者にも煽動行為者等にも、民事責任または行政上の責任を問うことはともかく、煽動行為者等に刑事責任を問うには、右のように解さない限り憲法第一八条、第二一条、第二八条、第三一条に違反するものと解するのである。
そして、本件証拠によって明らかなように、被告人小野明、同島田二男、同田中勝美、同舌間正記が煽動した争議行為は、勤務評定反対を目的とするものであるから勤務条件に関するものであることその手段方法に暴力を伴う点はなく、自習計画をたてるなどして当日の児童生徒に対する配慮をしていること、争議行為に参加する者は小、中学校の教職員であり、争議行為の期間も昭和三三年五月七日の一日間の一斉休暇であること、小、中学校においては、研究発表会、研修会等のため多数の教職員が出張することもあり、児童生徒の年間平均出校日数は通常文部省の定める基準日数を相当上廻っていること等の小、中学校の年間の教育課程の編成等の学校運営の実態に照すと、右被告人四名が煽動した争議行為は違法性の強い争議行為とはいえないので、右被告人四名の原判決において有罪とされた本件行為は地公法第六一条第四号に該当しない。
そこで、右被告人四名の右本件行為を地公法第六一条第四号に該当するとした原判決は、法令の解釈適用を誤ったもので、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決中右被告人四名に関する部分は破棄を免れず、論旨は結局理由がある。
検察官の控訴趣意第一章(法令適用の誤り)および第二章(事実誤認)について。
所論は、原判決は、地公法第六一条第四号の「あおり」とは相手方の感情に訴える方法により行為実行の決意を創生または助長せしめることを意味するものと解すべきで、相手方の理性に訴える方法により説得を行うようなことはたとえ決意の創生または助長という効果を伴うものであってもこれに当らないとしているが、「あおり」とは行動の動因を与える慫慂行為であれば足り、感情に訴える方法による必要はないので、原判決には法令の解釈適用の誤りがあり、さらに、原判決が無罪とした。被告人村上を除くその余の被告人らの本件指令の通達伝達および措置要求集会通知書の配付行為ならびに本件証拠によって認められる被告人小野、同豊島、同宮崎、同藤田、同田中、同遠矢、同安永、同小畑を除くその余の被告人らの分斗長らに対する発言は、右の地公法第六一条第四号の解釈に従えば、同条号の「あおり」に当るので、原判決には事実の誤認がある、というのである。
被告人らが煽動した争議行為は、弁護人らの控訴趣意第三節に対する判断のとおり、地公法第六一条第四号に該当する違法性の強い争議行為とはいえないので、原判決が無罪とした被告人らの所論の本件行為は地公法第六一条第四号に該当せず、原判決の無罪部分は結局相当であり、論旨は結局理由がない。
そこで、弁護人らおよび検察官のその余の各控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条、第四〇〇条但書により原判決中被告人小野明、同島田二男、同田中勝美、同舌間正記に関する部分を破棄し、さらに次のとおり判決し、同法第三九六条により検察官の本件各控訴を棄却する。
本件公訴事実中、被告人小野明外九名に対する昭和三三年一〇月九日付起訴状のうち、
「被告人小野明は福岡県教職員組合の執行委員長、同島田二男は同組合組織部員、同田中勝美は同組合調給部員であるが、教職員に対する勤務評定に反対し、これを阻止する目的をもって、同組合の三二支部傘下組合員たる県下公立小中学校教職員をして昭和三三年五月七日年次有給休暇の名のもとに校長が休暇請求を拒否してもなお一斉就業を放棄し、同盟罷業を行わしめるため、
第二被告人小野明は、昭和三三年五月四日、北九州市八幡区中畑町四丁目一二番地同市立高槻小学校において、同校教職員たる同組合八幡市支部組合員一〇数名に対し、「八幡は脱落しそうだというが、皆足並を揃えて組織を割らないように是非斗争に入ってくれ。」と申し向けて、前記一斉就業放棄方を慫慂し、
第五被告人島田二男は、
一、同年五月一日、同市小倉区金田町同組合小倉市支部事務所において、同区内公立小中学校教職員たる同支部青年部代表者約四〇名に対し、「一斉休暇に協力して貰い度い。皆さんも全員脱落しないようにしっかりやって下さい。」と申し向け、
二、同月五日、福岡県行橋市大字大橋田町地区労会館において、京都郡および行橋市内公立小中学校教職員たる同組合京都郡行橋市支部各分会の分斗長等に対し、「一切の責任は中斗が負う。全組合員が心配しないで斗争に参加して貰い度い。」旨申し向けると共に、右各分斗長等を介し、その頃京都郡および行橋市内において傘下組合員たる右学校教職員約五八〇名に右趣旨を伝達し、
四、同月六日午後二時頃、北九州市小倉区金田町同組合小倉市支部事務所において、同区内公立小中学校教職員たる同支部各分会の分斗長等に対し、「勤評阻止には一斉休暇しかないのだから、突入して貰い度い。」旨を申し向けると共に、右各分斗長等を介し、その頃小倉区内において傘下組合員たる右学校の教職員約一、二五〇名に右の趣旨を伝達し、
五、同日午後九時頃、同所において、同区内公立小中学校教職員たる同支部各分会の分斗長等に対し、「いろいろ困難はあろうがどうしてもやらねばならないから、小倉も一斉休暇に突入する態度を決めて貰い度い。」と申し向けると共に、右各分斗長等を介し、その頃小倉市内において傘下組合員に右の趣旨を伝達して、
前記一斉就業放棄方を慫慂し、
第八被告人田中勝美は、同年五月六日、北九州市八幡区尾倉町一丁目同市立平原小学校において、同校教職員たる同組合員三〇数名に対し、「明日の一斉休暇には全員結束して参加して貰い度い。」と申し向けて、前記一斉就業放棄方を慫慂し、
もって、地方公務員たる公立小中学校教職員に対し、それぞれ同盟罷業を遂行すべきことをあおったものである。」
および被告人舌間正記に対する昭和三三年一〇月九日付起訴状のうち、
「一 被告人舌間正記は福岡県教職員組合八幡市支部書記長であるが、教職員に対する勤務評定に反対し、これを阻止する目的をもって、同支部傘下組合員たる公立小中学校教職員をして昭和三三年五月七日年次有給休暇の名のもとに校長が休暇請求を拒否してもなお一斉就業を放棄し、同盟罷業を行わしめるため、同年四月三〇日、北九州市八幡区祇園町一丁目前田小学校において、同区内公立小中学校教職員たる同組合八幡市支部各分会の分斗長等に対し、右一斉就業放棄の指令を通達する際、右指令の趣旨を強調すると共に、右各分斗長等を介し、その頃八幡区内において同支部傘下組合員たる右学校の教職員約一、二九〇名に右指令の趣旨を伝達し、もって地方公務員たる公立小中学校教職員に対し、同盟罷業を遂行すべきことをあおったものである。」との各地方公務員法違反の点については、前記のとおり罪とならないから、刑事訴訟法第三三六条により無罪の言渡しをする。そこで、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塚本冨士男 裁判官 安東勝 裁判官 矢頭直哉)