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福岡高等裁判所 昭和38年(ラ)66号 決定 1963年12月27日

抗告人 山田カツ(仮名)

相手方 山田タズ子(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告代理人の抗告の趣旨及び理由は別紙記載の通りである。

抗告理由第一点について。

原決定が本件遺産分割の審判をなすにあたり、その前提として抗告人の主張するように相手方が本件遺産を抗告人と共同して相続した後その二分の一の持分を放棄したことがあるかどうかについて判断したことは所論の通りである。しかし斯様に審判の前提問題につき当事者間に争のある場合、それが本来訴訟事件に属するからといつて、家庭裁判所がその審判手続において判断することができないとは解されない。けだし現行法上かかる判断を禁ずる趣旨の規定がないのみならず、家事審判法及び同法によつて準用される非訟事件手続法第一編の規定によれば、審判手続は前提問題を判断することが可能な手続構造を具えているからである。もとより審判には既判力がないから、右判断に不服のある場合は、更に別途に民事訴訟手続によつてその当否を争えばよいのである。しからば原決定には所論のように家事審判法及び民法の解釈を誤つた違法はない。

同第二点について。

原決定が亡山田一男の遺産であるとした物件の内所論の田二筆が登記簿上山田カヨの所有名義となつており、又同女が昭和一三年一一月二日死亡し、その遺産相続人が右一男の外所論の数名であつたことは、本件記録中の登記簿謄本及び除籍謄本によつてこれを認めることができる。しかし右田二筆が他の物件と共に一男の遺産であることについては、原審において抗告人の明らかに争わなかつたところであるばかりでなく、原審において取調べられた各証人の証言中にも右の点について特に反対趣旨の供述は認められず、むしろそれを当然の前提としているごとく窺われる。このような事実に徴すれば、右田二筆につき一郎以外の者はすべてその持分を放棄し、一郎において単独にこれを所有していたものと推定することができるから、原決定がこれを一郎の遺産に属するものと判断したことをもつて、失当ということはできない。

よつて本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 池畑祐治 裁判官 秦亘 裁判官 佐藤秀)

紙別

不服の理由

一 申立人は亡山田一男は昭和一九年一〇月一八日戦死し右公報は同二三年五月二四日届いたが同人は別紙目録記載の遺産があり共同相続人は配偶者たる申立人と母である相手方のみであるが分割について協議が調なわないから分割の審判を求める申立をなした

二 相手方(抗告人)は亡一男の遺産は右両名で相続しその持分は各二分の一であつたことは認めるが申立人は亡一男の出征留守中他男と情交を結び親族より甚不貞を叱責されいたく前非を悔い亡夫に対する謝罪と相手方に対する詑びる真意を披瀝するため相手方家より離籍し同時頃持分二分の一の権利を抛棄して郷里を去つて上京したので本件の物件は全部共有者の一人たる相手方の単独所有となつたものであるから今更遺産分割の問題は生ずる余地なくその申立に応ずることはできないことを主張している。

即ち本件物件が申立人主張の如く遺産であるが相手方主張の如く相手方の単独所有財産であるかが定まらねばならない此の決定をする裁判所は地方裁判所でなければならぬ。

家事審判法第九条第一項乙類一〇民法第九〇七条第二項及第三項の規定による「遺産の分割に関する処分」とは遺産の分割について共同相続人間に協議が調なわなかつたときその分割を家庭裁判所に請求することができるのであつて本件は遺産があるか否かに争いがあるのでその争を決定する権限は地方裁判所であるにかかわらず家庭裁判所で審判したのは家事審判法第九条第一項乙類一〇及び民法第九〇七条第二項(分割の実行)の解釈を誤つて審判した違法がある。

三 原審が遺産として審判物件の内玉名市伊倉南方字大竜○○番田五畝歩同所○○番田八畝三歩は申立人自供の如く山田カヨの所有であるが同人は昭和一三年一一月二日死亡した其遺産相続人は山田カヨの長男次郎の長男一男長女トミ、二女フミ子、三女トシ子及カヨの長女タネの長男太郎の五名が遺産相続人であるのに一男の単独所有として遺産分割の審判をなした違法がある。(戸籍謄本で証明する)

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