福岡高等裁判所 昭和40年(う)686号 判決
判決理由〔抄録〕
原審および当審において取り調べた証拠によると、昭和三九年一〇月一七日午前一〇時五五分頃京都市下京区西七条南依田町三一番地付近道路上で被告人の運転する小型乗用自動車と大日健次の運転する第一種原動機付自転車とが衝突した現場は、中央に電車軌道の敷施してある南北に走る西大路通という道路(右軌道の西端から車道の西端まで幅員約七メートル)と東西に走る七条通一筋下る道路(幅員約五・八五メートル)との交差点内の西側部分であり、同所は交通整理の行なわれていない交差点であったこと、被告人は、七条通一筋下る道路を西進し、西大路通への入口付近で一時停車したのち、南行して来る車両がなかったので発進して交差点に入り、北進している数台の車両があったので、その通過を待つため、中央の電車軌道上で約三分間停車していたが、北進して来た貨物自動車が左斜前の交差点前に一時停車して、その運転者が手で被告人に先に行くよう合図したので、被告人は、右貨物自動車の左側蔭を注意することなく、発車し、右貨物自動車の前を通過して進行したところ、右貨物自動車の左側を進行して来た前記大日の自転車を左斜前方約三メートルに始めて発見したが、なんらの処置を講ずる余裕もなく、自己の自動車を同人の自転車に衝突させ、右衝突により同人が負傷したこと、停車していた右貨物自動車の左端から車道の西端まで約三メートルあったことを認めることができる。
ところが、右事実関係において、原判決は、被告人の自動車は道路交通法第三五条第一項にいう既に他の道路から交差点に入っている車両であるから、同条項により大日の自転車こそ被告人の自動車の進行を妨げてはならない義務があるから、既に交差点に入っている被告人の自動車の進行を妨げて本件交通事故を発生させた大日に本件交通事故の責任があるとしている。しかしながら、前記条項は交差点における優先通行順位を定めたに過ぎないものであるから、同条項により優先して交差点を進行する車両の運転者は、たとえ同条項に違反して進行する車両であるとしても、そのような車両の進行が予想されるときは、これに対し注意を払い、事故を未然に防止する処置を講ずる業務上の注意義務があるものと解すべきである。
すると、前記認定の場合、停車していた貨物自動車の左側にはなお約三メートル幅の車道が残っていたのであるから、右貨物自動車の左側蔭から他の車両が進行して来ることは十分予想できたところである。したがって、自動車運転者としては、その方向を注視し、進行して来る車両を発見したときは、何時でも停車できるようにして発車進行し、事故を未然に防止する業務上の注意義務があるものである。しかるに、これを怠り、右貨物自動車の左側蔭の注視を怠り、本件交通事故を発生させた被告人は、過失の責任を免れないから、被告人には注意義務違反がなかったとして無罪の言渡をした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり、破棄を免れず、論旨は理由がある。