福岡高等裁判所 昭和40年(う)876号 判決 1966年6月07日
被告人 堀井栄一 外一七名
主文
原判決を破棄する。
被告人堀井栄一、同坂本一義を各懲役三月に、その余の被告人等を各懲役二月に処する。
但し、本裁判確定の日からいずれも一年間右各刑の執行を猶予する。
領置してある現金一万円(昭和四一年押第五八号符号二)は被告人嶌田喜佐蔵から、同現金一万円(前同押番号符号五)は被告人加藤政義から、同現金一万円(前同押番号符号一)は被告人本田正道からそれぞれ没収する。
被告人前田直夫、同松成広士、同徳田豊、同浅野俊三郎、同呉藤悟、同南仙一、同本多芳松、同浜田庄治、同末宗菊夫、同小幡信義、同浜永実雄、同久保英一、同森新、同宮本武士から各金一万円を追徴する。
原審における訴訟費用は全部被告人等の負担とする。
理由
検察官村上三政が陳述した控訴趣意は記録に編綴の原審に対応する検察庁検察官竹中知之作成の控訴趣意書に記載のとおりであり、被告人堀井栄一、同坂本一義の弁護人国府敏男が陳述した答弁は記録に編綴の同弁護人提出の答弁書に記載のとおりであるから、これを引用する。
検察官の控訴趣意第一点(法令の解釈適用の誤)及び弁護人国府敏男の答弁中同関係部分について
原裁判所が本判決の後段に説示する罪となるべき事実と同旨の公訴事実に対し、被告人等について公訴事実に指摘の各日時場所における各現金の授受の事実を認定しながら、これを社交儀礼に基くもので罪とならないとして被告人等全員に対し無罪の判決を言渡していることは記録上明らかである。
しかし、原判決を些細に調査すると、原判決は検察官所論の如く地方的慣習に従つた贈答であるから、社交儀礼であつて賄賂としての違法性はないと判断したのではなく、地方的慣習の存在と被告人等の所為がこれに従つた行為であることを認めたことの外に、原判決の指摘する他の要素をもこれに併せて検討した上で、本件金員の贈与が社交儀礼であると認定したものであることは極めて明瞭であり、また所論の如く右慣習が法的評価の基準に照らして違法でないことまで認定したものではなく、単に社会的、道義的に非難さるべきものかどうかについて言及せんとしたにとどまるのであるから、些末なところでは論理的背反も見受けられるにしても、右の点の判断のみから刑法第一九七条について解釈適用の誤を犯した違法ありというをえない。検察官の論旨は理由がない。
検察官の控訴趣意第二点(事実誤認)及び弁護人国府敏男の答弁中同関係部分について
所論に鑑み本件記録並びに原裁判所において取り調べた証拠を検討すると次の事実が認められる。
即ち原審第二回公判調書中被告人浜永実雄を除くその余の被告人等の各供述記載、被告人等の各検察官に対する供述調書(二通あるものは二通とも。被告人宮本に関する証拠としては被告人堀井、同坂本の右各供述調書を除く。)、捜査関係事項照会書写並びにこれに対する長洲町議会事務局長石橋嘉輝作成の長洲町議会本会議録抄本、被告人宮本関係につき原審第七回公判調書中被告人坂本、同堀井の各供述記載、被告人浜永関係につき浜永久子の検察官に対する供述調書を総合すると、昭和三八年七月一七日大分県宇佐郡長洲町長竹下留治は、同町議会に対し追加議案の一部として議第三九号助役の選任同意について、議第四〇号収入役の選任同意についての二議案を提出し、助役として被告人堀井、収入役として被告人坂本を選任したい旨提案し、その余の被告人等はいずれも同町議会議員として他の出席議員とともに右各案件を審議し、同議会は賛成一八名反対一名(岩本昭吉議員)で町長提案どおりの人選につき同意の議決をしたこと、そこで被告人堀井、同坂本は右議会の選任同意議決に対し謝意を表し就任披露をすることとし、たまたま、翌一八日議員一同が国鉄西部支社及び大分鉄道管理局に対し柳ケ浦駅に急行停車を陳情のため出張することになつていたので、これに便乗して帰路途中別府市観海寺の旅館朝日館に議員一同を招待し、披露宴を催し一泊してもらい、お土産代ということで現金一万円を贈ること、費用は折半とすることに相談をとりきめ、封筒に寸志堀井栄一、坂本一義と記載した上宛先各議員名を記入し、これに現金一万円を入れたものを用意し、議員等より一足先に右旅館に到り部屋割などして準備して待ち、同日午後六時過頃から同旅館大広間に被告人等を含めた議員一同(但し渡辺虎雄議員と被告人宮本は欠席。被告人本多、同浜永は遅れて到着し後記被告人堀井、同坂本の謝辞を聞いていない。)がそろつたところで、被告人堀井、同坂本が選任同意議決に感謝し、今後町のため努力する心算であること、指導鞭撻を願うなどの挨拶のことばを述べ、次いで同町議会議長坂本初助がこれに対する謝辞を述べて宴が始つたこと、同日午後八時頃宴も終りに近づき議員も席を立ち始めたので、被告人堀井、同坂本は手分して上記現金入封筒を議員等に配布することにし、まず被告人坂本は会場で席を立とうとしていた被告人松成に対し、これはほんの少しですがお土産でも買つて下さいといつて前記表記ある現金一万円入り封筒を贈り、また玄関前の自動車に乗つていた被告人浅野に対し私共があなた方に差し上げるものであるといつて前同様表記の現金一万円入り封筒を贈り、更に被告人堀井と同道して各議員をその部屋にたずね、被告人本田、同嶌田、同前田、同浜田、同徳田に対しこれでお土産でも買つて帰つて下さいとか、ほんのしるしですなどといつて前同各関係の封筒を贈つたこと、一方被告人堀井は同日同旅館客室に被告人呉藤をたずね、お土産代りに上げてくれといつて同被告人宛の前記封筒の外、被告人本多、同浜永、同森、同久保、同南宛の前同様封筒を贈り、よつて、被告人呉藤は自己宛の分を受け取り、同日被告人森の分の封筒を同被告人へ、翌一九日被告人本多、同南にそれぞれ右依頼の趣旨を伝えて関係の封筒を渡したが、被告人久保の分は同日被告人堀井に返戻し、被告人浜永の分は同月二〇日頃同被告人の肩書住居において同被告人の妻浜永久子に右依頼の趣旨を伝えて同女を介して同被告人に交付していること、また被告人坂本は同年七月一九日朝右旅館客室で被告人加藤及び被告人末宗に対し前同趣旨を申し述べて前同様関係の各封筒を右被告人等に贈つたこと、更に右旅館で贈ることができなかつたものについては同月二〇日頃長洲町役場において被告人小幡に対し、同月二七、八日頃長洲町議会事務局において被告人宮本に対し、同月下旬頃前記町役場において被告人久保に対し、それぞれ前同様表記の各関係の現金入り封筒を贈つたこと、供与を受けた議員の被告人等はいずれも被告人堀井、同坂本の前記朝日館における挨拶の言葉が単なるお世辞に非ずして、真実前示の同意の議決に対する感謝の意を表明したものであり、同趣旨の下に贈られる金員であることを察知し(原審公判においては否定しているけれども)、これを受取つたものであること、換言すると、同被告人等の助役又は収入役選任につき議会において議員として同意の表決をしたことに対するお礼として金一万円を受け取つたことを認めることができる。
すると、被告人堀井、同坂本は、その余の被告人等がいずれも公務員たる長洲町議会議員として地方自治法第一六二条、第一六八条第七項、第九六条第一項第一四号による助役収入役選任同意議決という同被告人等の職務に関し不法な報酬たる賄賂を供与し、議員たる被告人等はこれを収受したものというに充分である。
しかるに、原判決は右現金一万円の供与を純然たる社交儀礼と認め、その理由として、(一)長洲町においては従来助役収入役が選任されたときは披露として町議会議員全体を招待し饗応する慣習があつた(二)被告人堀井、同坂本は四年前助役収入役に就任のときも右慣例に従つて全議員を招待して饗応し、全議員に各三、〇〇〇円の土産品代を贈与した(三)本件の場合も前例にならつて再任後全議員を別府に招待し饗応宿泊させ土産品代として招待した旅館又はタクシー内或いは長洲町役場等において公然と交付した(四)右土産品代は本件選任同意に反対した議員にも洩れなく配布されたことをあげ、更に被告人本田、同森、同宮本に対する関係では(五)土産品代を受領した全議員はその翌日各自一、〇〇〇円宛出し合つて答礼として被告人堀井、同坂本に贈与した(六)長洲町におけるかかる慣例がよいか悪いかはさておき地方に慣習的に行われている以上、その慣例に従うことは非難に値するものではない。その慣習に従つての贈答は社交儀礼であるとし、その余の被告人関係では(五)市町村の助役収入役は当該市町村長と共にその市町村の政治の中枢を占めるもので物心両面とも各市町村の上位にあり、その交際上儀礼的に贈答が行われる場合は体面上五、〇〇〇円位は通例である(六)被告人堀井、同坂本は前任期四年間を通じて町議会議員たるその他の各被告人と親交があり、賄賂を贈らなくても再任されることは疑のない事実であつた。即ち、贈賄の犯意がなかつたとし、なお付加して起訴が土産品代の贈与部分のみを賄賂としそれと不可分の関係にある饗応宿泊(費用一人当一、八〇〇円余)を賄賂でないとしたのは饗応が長洲町の慣例であつた点を認めての上であろうが、それにもかかわらず現金の授受のみを賄賂としたのは前記のような実情を無視した観念的見解であるとして、本件における授受の金員について賄賂性を否定しているのである。
しかしながら、本件一万円は名目は土産品代とはいえ、前段で説示したとおり、選任同意議決に対する謝意を含めた報酬であると認められるのであつて、特に右各被告人の供述調書に現われている金員の趣旨についての当該被告人の認識をすべて合理的な説明を加えず無視して上記摘録の如き理由をあげて右現金一万円の贈与を社交儀礼によるものであると断定した原判決の認定にはにわかに同調し難い。
そもそも、刑法第一九七条以下の賄賂罪は、公務員の職務の廉潔性を保護法益とするものであつて、公務員の職務はその義務として行うものであるから、他人から報酬や謝礼を受けるべき性質のものでなく、正当な職務行為に対する感謝の意を表するものであつても、苟もそれが職務に関して授受せられるものである限りは賄賂性を否定し得ず、提供される利益の額の多少、職務執行の事前たると事後たるとに拘らず、たとえ社交上の慣習、儀礼に藉口するものであつても、それは私生活に関する社交上の儀礼による贈答たるに止まるものとはいえないのである。要はその授受が公務員の職務に関するか否かに存するのであるが、公務員に対する贈物であつても、職務には関係のない真実の社交上の慣習、儀礼によるものもあり得ることは否み得ないので、それが賄賂に該当するか否かを決するに当り、贈与の場所、態様、種類、程度、時期、人的社会生活関係、慣習、前例その他諸般の事情を参酌して健全な社会通念に照らし、その職務行為に対する対価性の有無を判定することは至当である。かくて原判決がこれらの諸事情を検討した上で本件金員の賄賂性の有無を判断しようとしたことは一概に排斥することはできない。しかし、原判決のいう慣習についていえば、本件は被告人堀井、同坂本が町議会において選任同意議決があつたのでこれに対する謝意を表するため就任披露宴を催し、宿泊させた上で、土産品代の名目で現金一万円宛贈与したものであり、就任披露と旅館宿泊という利益供与の上に更に現金一万円という多額の金員を土産品代に贈るということは、これまでにその前例があつたことにつき記録を検討しても証拠上しかく明確であるとはいえない。即ち原審第七回公判調書中被告人堀井、同坂本の供述記載、原審第三回公判調書中証人坂本初助の供述記載並びに被告人森新の検察官に対する供述調書によると、昭和三四年七月被告人堀井、同坂本が同町助役収入役に選任された際、同被告人等が当時の町会議員を別府市内の天鶴荘に招待し披露宴を催したことがあり、またその前任者である桐畑助役、加来収入役のときも、同人等の就任披露宴が別府の松葉屋別館であつたことが認められ、当審証人坂本初助の供述によると、以前被告人堀井が収入役をしたときも助役と一諸に披露宴を催したこと、坂本初助が昭和三三年長洲町議会議長就任の際にも、また再選された昭和三五年にも長洲町の料亭三林亭で披露宴を催したことがあること、町長も前回就任時には別府市内で、今回就任にあたつては長洲町内で就任披露宴をしたことが認められるので、これら役職は従来私費で議員等を就任披露宴に招待していたことが窺われるが、招宴の上に現金の土産品代まで出された例は、被告人堀井、同坂本等が供述する昭和三四年同被告人等が助役又は収入役として選任された時の招宴の際金三、〇〇〇円を贈つたことを外にして見当らない。この金三、〇〇〇円を贈つたことについては検察官指摘の各証拠に、所論のとおりこれを否定する供述が見られるが、原審証人坂本初助も当審において証人として右被告人堀井、同坂本の供述に副う供述をしており、この点については後で皆で考え合せてそうだつたのかと記憶を呼びおこしておりますと供述していることや、被告人宮本を除くその余の被告人関係で長洲町議会議長坂本初助作成の第二回定例町議会会議録謄本、原審第三回公判調書中証人岩本昭吉の供述記載、被告人徳田、同浜田、同浅野(昭和三九年一二月一六日付)、同加藤(同月一七日付)の各検察官に対する供述調書に現われている本件選任同意案議決前一時審議中断があつたもようで、その際関係議員等の間で議員運営委員会(正規のものではない)に類する集りがあり何らかの右議案についての取引工作がなされた疑いの存すること、被告人森の検察官に対する供述調書に現われている同被告人が本件現金一万円入りの封筒を被告人呉藤を介して受け取る際の問答などから考えてみると、右金三、〇〇〇円の供与についての被告人堀井、同坂本の供述を全く措信すべからざるものとして否定しさることもできないようである。この一例を除いては長洲町において他にこのような場合現金を贈つた例はないし、このように公務員の就任披露宴に引き続いて名目は何であれ招待を受けた者に現金を贈るのが長洲町においては慣例とされていたということは到底認められない。(なお原判決は右金三、〇〇〇円を土産品代と認定しているが証拠上は汽車賃の名目であつて土産品代と認むべき証拠はない。)
また、原判決は前例にならつて被告人堀井、同坂本が現金五、〇〇〇円宛支出したもので、この金額はその社会的地位、体面上通例儀礼的贈答と認められるというが、これは被告人等両名で議員一名当り金一万円を贈つたもので、あくまで一万円を基準として考えるべきであり、しかも、被告人等の上記地位、職務からみて、且つ両者の関係は単に助役、収入役と町議会議員という間柄だけで総てが個人的に特に親密であつたわけでもないのに、交際面において儀礼的に贈答が行われる場合においては体面上五、〇〇〇円位は通例であるとするのは些か納得しがたいものがある。のみならず本件は物品の贈答ではなく金一万円という高額の現金を贈つたもので、出張旅費の裏付ある公用出張の途中を利用したものであり、宴席を設け宿泊させた上に贈られたものであるばかりか、特別私費の交通費を出す必要もない場合であるのに、なおも土産品代名義で現金を贈つているのであるから、よしんばこれに交通費も含めていたにしても、そして当審において被告人堀井がいうようにその半額を乗物の実費と考えていたにしても、これは二重の利益供与であつて、もはや、これを目して社交儀礼というにはあまりにも社会通念を越えたものといわねばならない。しかも、右金員が被告人堀井、同坂本の助役、収入役選任同意の議決に対する謝意を含めた趣旨で供与されていることは証拠上疑を容れる余地はないから、職務の対価性は優に認められるところであり、職務に関して授受された違法な報酬として、これが賄賂であることは否定できない。そして、このように賄賂性が認められる以上、右金員の贈与が公然と行なわれたからとて賄賂たる性格を失うものではないし、また招宴、宿泊と金員贈与が引き続き行なわれているからといつて、必ずしもこれを不可分のものとみなければならない理由はなく、招宴、宿泊部分を切りはなして金員贈与の部分だけを起訴されたことから、必ずしも前者を賄賂でないものと認めたとし、もともと金員贈与はこれと一体となるべきものであるから金員贈与の点も賄賂でないものと認めねばならない筋合のものでもない。
ところで、原審第三回公判調書中証人岩本昭吉の供述記載並びに当審証人高橋康夫の供述によれば、被告人堀井、同坂本は選任同意議決があつた後間もなく岩本昭吉議員が独り反対の表決をしたことを知つていたこと、それにもかかわらず同議員に対しても現金一万円入り封筒を贈らんとしたことがうかがえる。議員全員一致の議決であつたと供述する右被告人等の各検察官に対する供述調書の当該部分については疑問があり、反対した議員に対しても現金を贈つたのは右被告人等が議員全員一致の表決であつたと錯誤したためであるという検察官の所論は当らない。けれども原判決の説示するところによれば、右議決に反対した議員に対しても金員を贈らんとしたことをもつて贈賂性を否定する一資料としているが、もともと右被告人両名は議会において助役、収入役選任同意議決があつたのでこれに対する謝意を表するため本件招宴宿泊と金員贈与を思い立つたものであることはさきに説示するとおりであり、結局は議会を構成する各議員が直接その対象となつたものと理解できるのであつて、ただ一人の反対議員に対しても謝意を表せんとしたことがあつても本件関係被告人に贈られた金員が贈賄でないということにはならない。
次に、原判決において、被告人堀井、同坂本が前任期四年間を通じて町議員たる各被告人等と親交があり、賄賂を贈らなくても助役、収入役に再任されることは疑のない事実であつたので、賄賂の犯意がなかつたと認定している点について按ずるに、もともと本件は選任同意議決後これに感謝して金員を贈つた事案であつて、事前に同意表決をうるため画策しなければならなかつたかどうかの点を問題にすべき事件ではなく、仮りに右同意議決がなされることに疑のない場合であつたとしても、なお議決があつたことに謝意を表することのありうることは否定できないところであるから、右原判決の説明は他の事情を考慮にいれても本件金員の賄賂性を否定する根拠とするには充分ではない。
また原判決は被告人本田、同森、同宮本関係で本件金員の贈与を受けた議員は全員その翌日各自一、〇〇〇円宛出し合つて答礼として被告人堀井、同坂本に贈与した事実を認定し、同被告人等のした現金一万円の供与を社交儀礼であることの一証左としているが、記録によると、議員の一部である十二、三名の者が招宴の四、五日後に原判示の金員を出し合つて贈つているだけであり、たとえこのように一部の収賄者等が返礼したからといつて本件金員の賄賂性が否定されるものでないことは言を俟たない。
叙上説示のとおりであるから、原裁判所は証拠の取捨選択、価値判断を誤り、事実を誤認したものというべく、この誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであつて原判決は破棄を免れない。検察官の論旨は理由があり、弁護人の答弁は排斥を免れない。
そこで当裁判所は刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条により原判決を破棄した上、本件記録並びに原裁判所及び当裁判所において取り調べた証拠によつて直ちに判決をすることができるものと認めるので同法第四〇〇条に但書従い更に判決をする。
(罪となるべき事実)
被告人堀井栄一、同坂本一義を除くその余の被告人等はいずれも大分県宇佐郡長洲町議会議員として法令に定める事件につき議決し、就中、同町長のする同町助役及び収入役選任について同意を与えるか否かを決する議事に関し議決に加わり表決する職務権限を有するものであり、被告人堀井栄一、同坂本一義は昭和三八年七月一七日右長洲町長から同町議会に右被告人等をそれぞれ同町助役並びに収入役として選任するについての同意を求める議案が提出され、即日同議会において出席した前記議員たる被告人等を含めて同町議員が表決して右選任について同意が与えられ、同町長からそれぞれ右のとおりの役職に選任されたものであるが、
第一、被告人堀井栄一、同坂本一義は共謀の上、別表記載の各日場所において前記の職務権限を有する同表記載の各相被告人等に対し、前示のとおりこれら相被告人等が右長洲町長からの被告人堀井、同坂本をそれぞれ同町助役及び収入役として選任するについて同意を求める議案を審議し同意の表決をしたことに対する謝礼の趣旨で各現金一万円を贈与し、もつて右相被告人等の職務に関し各賄賂を供与し
第二、被告人堀井、同坂本を除くその余の被告人等は別表記載の日場所において相被告人堀井、同坂本の両名から一括して前記第一掲記の趣旨で提供されるものであることの情を知りながら各現金一万円の贈与を受け、もつてそれぞれ職務に関し賄賂を収受し
たものである。
(証拠の標目)<省略>
(確定裁判)
被告人宮本武士は昭和三九年六月二二日宇佐簡易裁判所において道路交通法違反罪により罰金一、〇〇〇円に処せられ該裁判は同年七月一四日確定したものであつて、この事実は大分地方検察庁作成の同被告人の前科照会回答書により明らかである。
(法令の適用)
被告人等の判示所為中第一の点は各刑法第一九八条第一項、第六〇条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に、第二の点は各刑法第一九七条第一項前段に該当するが、被告人宮本武士には前示確定裁判があり本件はこれと刑法第四五条後段の併合罪の関係にあるから同法第五〇条により未だ裁判を経ない本件罪について処断すべく、判示第一の罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上各被告人の罪の所定刑期範囲内において被告人堀井栄一、同坂本一義を各懲役三月に、その余の被告人等を各懲役二月に処し、情状に照らし刑法第二五条第一項により本裁判確定の日からいずれも一年間右各刑の執行を猶予し領置してある現金一万円(昭和四一年押第五八号符号二)は被告人嶌田喜佐蔵の、同現金一万円(前同押番号符号五)は被告人加藤政義の、同現金一万円(前同押番号符号一)は被告人本田正道の各本件犯行により収受した賄賂であるから、刑法第一九七条の五前段によりいずれも各当該被告人から没収し、被告人前田直夫、同松成広士、同徳田豊、同浅野俊三郎、同呉藤悟、同南仙一、同本多芳松、同浜田庄治、同末宗菊夫、同小幡信義、同浜永実雄、同久保英一、同森新、同宮本武士が判示第二の犯行により収受した賄賂は費消していて没収することができないので刑法第一九七条の五後段によりその価額の各金一万円を追徴し、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人等をして負担させることとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 岡林次郎 山本茂 生田謙二)
(別表)<省略>