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福岡高等裁判所 昭和40年(ネ)553号 判決 1967年11月11日

控訴人 王子田孝志

右訴訟代理人弁護士 松永初平

同 山崎辰雄

被控訴人 有限会社成半組

右代表者代表取締役 辻畑正

右訴訟代理人弁護士 篠原武夫

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金一四万七、〇〇〇円及びこれに対する昭和三九年七月一二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、被控訴代理人において「仮に本件手形が偽造ではないとしても、右手形は訴外岡村武雄が岡村建設株式会社の営業資金を得る目的で、被控訴会社の代理人として振出し、右訴外会社の代理人として受領したものであるから本件手形の振出行為は双方代理で無効である。」と述べ、立証として≪中略≫と述べた外は原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

理由

一、≪証拠省略≫によれば、訴外岡村武雄は被控訴会社及びその代表取締役辻畑正の社印、記名印及び辻畑印を使用して被控訴会社振出名義の額面金一四万七、〇〇〇円、支払期日昭和三九年七月一一日、支払地北九州市、支払場所住友銀行北九州支店、振出地築上郡椎田町、振出日同年四月一〇日、受取人岡村建設株式会社(以下、岡村建設と略称する)の約束手形一通(甲第一号証の一)を振出し、岡村建設は同年六月二日これを控訴人に裏書譲渡したことが認められる。

二、よって右岡村が本件手形を振出す権限を有していたか否かについて検討するに、控訴人は、岡村は被控訴会社の住友金属工業株式会社小倉製鉄所(以下住金と略称する)構内出張所長であり手形振出の権限を授与されていたものであるが、仮りに然らずとしても同人は被控訴会社の商法第四三条の使用人であるからその業務に関し手形振出の権限を有する旨主張するけれども、岡村が被控訴会社の出張所長であるとの≪証拠省略≫、原審及び当審における控訴本人尋問の結果は、原審及び当審における被控訴会社代表者本人尋問の結果に照らし措信し難く、その他岡村が被控訴会社から営業に関して特定事項の委任を受けた使用人であることを認めるに足る証拠はないから、控訴人の右主張は採用の限りでない。

三、そこで進んで商法第二三条にいわゆる名板貸の主張について判断するに、≪証拠省略≫を綜合すれば、(1)岡村武雄は北九州市戸畑区中原に事務所を有し建設業を営む岡村建設の代表取締役であるが、住金の発注工事は被控訴会社でなければ請負うことができなかったため、右岡村建設は昭和三五年六月一五日被控訴会社との間に、住金の発注工事は岡村建設が被控訴会社名義でこれを請負い、これに付随する一切の事務並びに施工の責任は岡村建設が負うこととし、住金構内にある被控訴会社出張所の建物及びこれに付属する機械器具備品等は無償で岡村建設に貸与し、岡村建設は名義料として住金の請負工事代金の五パーセントに相当する金員を被控訴会社に支払う旨の契約が成立したこと、(2)爾後岡村建設は住金構内の被控訴会社出張所の建物を使用し、同所に被控訴会社住金構内出張所の看板を掲示し、被控訴会社の名義を用いて住金より構内の道路工事、工場、社宅等の建築補修工事を請負うと共に、右工事に関して外部からの資材の購入等も、被控訴会社名義で取引していたこと、(3)岡村は前述の如く被控訴会社とは何ら雇傭関係はなかったが、被控訴会社の住金構内出張所長と称してその肩書を付した名刺を使用し、住金の資材課にその旨届出ると共に、住金発行の機関紙にも岡村を右出張所長として広告するなど外部に対してあたかも同人が被控訴会社より任命された出張所長であるかの如く振舞い、被控訴会社代表者も右事実を知りながらこれに対して異議を述べることもなく黙認していたこと、(4)勿論岡村は、被控訴会社名義で手形を振出す権限を与えられていたわけではなかったので、住金の請負工事に関して被控訴会社振出の手形が必要な場合には、その都度築上郡椎田町の被控訴会社に赴いて代表者印を押捺してもらって発行していたが、代表者が不在で手形の振出が遅れるような事もあったので、岡村は昭和三八年六月一〇日、被控訴会社の取引銀行である住友銀行に対し従来当座取引に使用していた印鑑を紛失したと偽って改印届を提出し、先に被控訴会社より、住金に対する工事見積書その他事務連絡等に使用することを許されて交付を受けていた辻畑印を新印鑑として右銀行に届出をなし、その後は住金関係の工事に関し資材の購入、運搬代金等の支払のために岡村が無断で右辻畑印を使用して被控訴会社名義で約束手形を振出し、支払期日には右銀行に現金を持参して手形を決済してきたこと、(5)控訴人は運送業者であるが、岡村より土木機械及び架設材料を戸畑区中原の前記岡村建設倉庫から住金構内まで運搬することを依頼されてこれを運送し、その代金支払のために本件手形を岡村から受取ったこと、(6)控訴人は住金構内に被控訴会社の出張所の看板が掲示されていて、岡村がその出張所長であると称し住金にもその旨届出ていることから控訴人もこれを信じていたが、他方控訴人は、同人が同時に岡村建設の代表者であることも知っていたので、右資材の運送にあたり岡村に対して右運送契約の当事者は被控訴会社であるか、それとも岡村建設であるかを確めたところ、被控訴会社である旨の回答を得たので、控訴人は岡村が被控訴会社出張所長として右運送契約を締結するものであると誤認し、かつその代金支払のために被控訴会社が真正に振出したものであると信じて岡村から本件手形を受取ったこと、(7)前述の如く岡村建設と被控訴会社との契約においては、岡村建設は被控訴会社名義で請負った住金の発注工事について一切の責任を負い自己の計算において工事を完成する義務があるのであって、本件資材の運搬の如きも被控訴会社とは関係なく岡村建設が自ら運賃を支払うべきところ、岡村が擅に被控訴会社の社印、記名印及び辻畑印を冒用して直接本人の記名捺印代行の方式により被控訴会社振出名義の本件手形を偽造し、右運賃の支払のために控訴人に交付したものであることが認められ、原審及び当審における控訴人、被控訴会社代表者各本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。

とすれば本件手形は偽造手形であるけれども、先に認定したように岡村建設及び岡村武雄に対し被控訴会社名義ないしは被控訴会社住金構内出張所長名義を使用して営業することを許諾した被控訴会社としては、被控訴会社を営業主と誤認して岡村武雄と取引した控訴人に対し商法第二三条により本件手形振出人としての責任を負うべきものと認めるのが相当である。

尤も本件手形は被控訴会社から岡村建設に対して振出され、岡村建設から控訴人に対して裏書譲渡されたように記載されているが、≪証拠省略≫によれば岡村建設は被控訴会社の手形債務を保証する趣旨で右手形に裏書したに過ぎず、右手形の実質上の受取人は控訴人であることが認められるから右事実をもって前記認定を左右することはできない。

四、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一号証の二によれば控訴人は本件手形を支払期日に支払場所に呈示したが支払を拒絶された事実を認めることができる。

五、よって被控訴会社に対し、本件手形の所持人として右手形金一四万七、〇〇〇円及びこれに対する支払期日の翌日である昭和三九年七月一二日から完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人の本訴請求は正当であるからこれを認容すべく、以上と趣旨を異にして控訴人の請求を棄却した原判決は失当であるからこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江崎弥 裁判官 浪川道男 藤島利行)

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