大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和40年(ネ)629号 判決 1966年3月23日

控訴人・原告 合資会社 中山車体製作所

代表者清算人 中山一二

被控訴人・被告 春田義治

訴訟代理人 山本茂雄

主文

原判決を取消す。

熊本地方裁判所昭和三七年(ヨ)第七九号立入禁止及建築禁止の仮処分申請事件に対する被控訴人の異議申立てを却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。熊本地方裁判所が同庁昭和三七年(ヨ)第七九号立入禁止及建築禁止の仮処分申請事件につき、同年六月二五日なした仮処分決定を認可する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張および疏明関係は、左記の点を削除、訂正、補足するほか、原判決の当該摘示のとおりであるからこれを引用する(原判決一枚目裏一二行目から、同二枚目裏一一行目まで。)。

一、原判決一枚目裏一二行目の「宅地九六坪二合二勺」とある部分を「宅地九六坪二合一勺」に訂正し、同二枚目表一行の「木造トタン葺」の下に「二階建」を補足し、同二枚目裏五行目の「申立人」以下同六行目の「否認し、」までの部分を削除し、この部分を「申請人主張の宅地がもと申請人の所有であつたこと、右宅地については、申請人の訴外中小企業金融公庫に対する債務担保のため、抵当権が設定登録されていたところ、同金庫の申立てにかかる競売(熊本地方裁判所昭和三三年(ケ)第九九号)により、被申請人が昭和三五年六月一〇日これを競落し、その所有権を取得したことは、いずれもこれを認めるが、申請人その余の主張事実を否認し、」と訂正する。

二、被控訴代理人の主張

(一)  本件当事者間の熊本地方裁判所昭和三七年(ヨ)第七九号立入禁止及建築禁止の仮処分申請事件につき、同裁判所が昭和三七年六月二五日なした仮処分決定(以下単に本件仮処分命令と略称する。)に対しては被控訴人から異議の申立てをなすとともに(同庁昭和三七年(モ)第三八五号)、他方、同裁判所に対し、事情変更による本件仮処分命令取消しの申立てをなしていたところ(同庁昭和三九年(モ)第四五二号)、後者については、昭和四〇年八月四日、本件仮処分命令を取消す旨の判決が言渡され、右判決は、控訴なくして確定した。

(二)  したがつて、本件仮処分命令は、右判決の確定によつて、すでに失効するに至つたものというべきであり、本件控訴は、すでに消滅している本件仮処分命令の認可を求めることに帰し、その理由なきことは明白である。よつて本件控訴棄却の判決を求める。

三、控訴代理人の主張

被控訴代理人主張(一)の事実はこれを認める。しかしながら、保全裁判に対する異議と事情変更による保全裁判の取消しとは、それぞれその法律上の性質を異にするのであるから、事情変更により本件仮処分命令を取消す旨の右判決が確定したとしても、なお本件仮処分命令は存続し、その認可を求める利益が消滅するものとは断じがたい。

四、疏明として、控訴代理人において疏甲第二二号証の一、二、第二三号証を提出し、当審証人若宮清二の証言を援用し、疏乙第二号証の成立を認め、被控訴代理人において疏乙第二号を提出し、疏甲第二二号証の一、二の成立を認め、疏甲第二三号証の成立は不知と述べた。

理由

本件仮処分命令自体の当否を判断するに先立ち、まず、保全裁判に対する異議と事情変更による取消しとの関係について検討することとする。

よつて按ずるに、保全裁判に対する異議は、保全裁判自体に存するかしを主張してその取消しを求めるものであり、他方、事情変更による保全裁判の取消しは、保全裁判発令後の新事実の発生によつて、現在、右保全裁判を維持することを不当とするに足る新事実を主張して保全裁判自体の取消しを求めるものであつて、この点において、両者には性質上の差異があるものと解せられる。しかしながら、両者は、その取消原因の発生時期を異にこそすれ、少なくとも取消当時においては、ひとしく保全裁判そのものを違法として、その取消しを求める点においては、共通性を有するのであつて、広く異議訴訟のうちに包括される同一性格の保全裁判に対する不服申立てにほかならないと解するのが相当である。したがつて、右各個の不服申立てが係属中にその一つが認容され、保全裁判そのものが無担保で取消された場合には、他の不服申立ては、もはや、これを求める利益ないし必要性を欠くに至るものとして却下を免れ得ないものといわなければならない。

これを本件について見るのに、本件仮処分命令に対しては、被控訴人から異議の申立てとともに、事情変更による取消しの申立てがなされていたところ、後者につき昭和四〇年八月四日本件仮処分命令を無担保で取消す旨の判決が言い渡され、右判決が控訴なくしてすでに確定するに至つたことは、当事者間に争いがないのであるから(無担保の点は成立に争いのない乙第二号証によつて明白である)これによつて本件仮処分命令はその効力を失つたものというべきであり、本件仮処分命令にして無担保で取消され、その効力を失つた以上は、他の不服申立である本件異議申立ては、もはや、その利益ないし必要性を欠くに至つたものとして却下を免れないといわなければならない。

よつて右と趣旨を異にし、被控訴人の異議を認容して二重に本件仮処分命令を取消した原判決は、他の判断をまたず失当であるからこれを取消し、右異議申立てをその利益ないし必要性がないものとして却下することとし、訴訟費用は第一、二審とも控訴人をして負担せしむべきものとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小西信三 裁判官 入江啓七郎 裁判官 小川宜夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例