福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)288号 判決 1969年12月24日
第二八九号事件控訴人、第二八八号事件被控訴人
(以下、一審原告という)
山田ハナ
右代理人
下光軍二
外九名
第二八八号事件控訴人、第二八九号事件被控訴人
(以下、一審被告という)
山田良一
右代理人
水崎嘉人
外一名
主文
一審被告の控訴を棄却する。
原判決を次のとおり変更する。
一審原告と一審被告とを離婚する。
一審原、被告の長女A子、二女B子、三女C子、長男甲男の親権者を一審被告と定める。
一審被告は一審原告に対し、金二四〇万円及びうち金二〇〇万円に対する昭和三七年一〇月三日から、うち金四〇万円に対する本判決言渡の日から、各支払すみまで年五分の割合による金員を支払え。
一審被告は一審原告に対し金二、〇〇〇万円を支払え。
一審原告のその余の請求及び一審被告の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を一審原告の、その余を一審被告の負担とする。
この判決は、第五項に限り一審原告が金五〇万円の担保を供することを条件に仮に執行することができる。
事実
(双方の申立)
第一 一審原告の申立。
一 第二八九号事件につき
(一) 原判決(昭和三八年(タ)第一三号事件についての)を次のとおり変更する。
1 一審原告と一審被告とを離婚する。
2 一審原告、一審被告間の長女A子、二女B子、三女C子、長男甲男の親権者を一審原告と定める。
3 一審被告は一審原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和三七年一〇月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
4 一審被告は一原告に対し、金七五九万一、四六〇円及びこれに対する本件控訴審の判決言渡の日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
5 一審被告は一審原告に対し、別紙第一物件目録記載の物件を引渡せ。もし、右物件に対する強制執行不能の場合は、一審被告は一審原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和三七年一〇月三日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
6 一審被告は一審原告に対し、財産分与として、別紙第二物件目録記載の物件全部についての二分の一の持分権を移転するか、又は金二億円を支払え。
(二) 訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。
との判決(請求を一部減縮及び拡張)、並びに3ないし6項につき仮執行の宣言を求める。
二 第二八八号事件につき
控訴棄却の判決を求める。
第二 一審被告の申立。
一 第二八九号事件につき
一審原告の控訴を棄却する。
当審での拡張にかかる一審原告の請求(前記第一、一、(一)の4)を棄却する。
との判決を求める。
二 第二八八号事件につき
(一) 原判決を次のとおり変更する。
(原審第一〇号事件について)
一審原告と一審被告とを離婚する。
一審原告、一審被告間の長女A子、二女B子、三女C子、長男甲男の親権者を一審被告と定める。
(原審第一三号事件について)
一審原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。
との判決を求める。
(双方の主張)
当事者双方の主張関係は、左のとおり付加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
第一 一審原告において、
一 原判決九枚目表一〇行目ないし同裏二行目までの主張を「前述の如く(原判決)別紙第一物件目録一、記載の物件は一審原告の所有であるが、一審被告は現在右物件を占有している。よつて、右物件中1ないし5の物件(即ち本判決別紙第一物件目録記載の各物件)の引渡を求めると共に、執行不能の場合における填補賠償として、右各物件の時価合計金一〇〇万円及びこれに対する昭和三七年一〇月三日以降完済まで年五分の遅延損害金の支払を求める。」と訂正する。
二 同九枚目裏三行目ないし七行目までを削除する。
三 同九枚目裏八行目ないし同一〇枚目表四行目までの主張を「一審被告は、結婚当初は資産皆無の状態であつたが、一審原告の献身的協力により、現在本判決別紙第二物件目録記載の物件を所有又は支配するに至つており、月収も約三〇〇万円を下らない。もつとも、右第二物件目録のうち、
イ 第二目録記載の不動産は他人所有名義となつているが実質的には一審被告の所有である。
ロ 第三目録記載の不動産は、一審被告所有の不動産を医療法人X会に現物出資したもので、実質的には一審被告の所有物であり、X会が解散したときは一審被告に帰属する不動産であつて、一審被告が潜在的所有権をもつているものである。
ハ 第四目録記載の不動産及び第七目録記載の自動車は、同X会所有名義となつているが、X会は実質的には一審被告の個人病院であり、かつ又、X会が解散したときその財産は一審被告個人に還元帰属する(X会の出資者は実質上一審被告のみであり、同人が理事長として独り采配を振り、その他の役員はただ名義を借りているに過ぎない)のであるから、財産分与の基礎となる財産を構成するものと考えるべきである。
従つて、これらの物件はいずれも一審原告、一審被告間の離婚に伴う財産分与の基礎となるものであり、その時価は、第一ないし第四目録記載の不動産の合計額が金三億七、六六三万四、〇二八円、第五目録記載のゴルフ会員券及びゴルフ場の権利が計金三一七万円、第六目録記載の動産が計金二六四万七、六〇〇円、第七目録の自動車が計一、〇〇〇万円、第八目録の有価証券額が計二、〇〇〇万円、総合計金四億一、二四五万一、六二八円である。
しかして、離婚に伴い夫から妻へ分与すべき財産の額は、夫婦が平等になるよう、換言すれば夫の財産の二分の一を原則とすべきである。よつて、一審原告は一審被告に対し、財産分与として、別紙第二物件目録記載の物件全部についてその二分の一の持分権を移転すること、又はその時価総額の約半額にあたる金二億円を支払うことを求める。」と訂正する。
四 一審原告は、原審及び当審での訴訟代理人たる弁護士に対し、手数料として金一〇〇万円、謝金として金五〇〇万円、旅費、日当、宿泊費(その明細は別紙旅費等明細表のとおり)として金一五九万一、四六〇円、合計金七五九万一、四六〇円を事件終了時に支払う旨約し、右同額の債務を負担した。右は一審被告の一審原告に対する不法行為(本件離婚原因となつた不貞、虐待等の行為から生じた損害であるから一審被告においてこれを賠償すべき義務がある。よつて、当審において請求を拡張して、右金七五九万一、四六〇円及びこれに対する本件控訴審判決の言渡の日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
と述べ、
第二 一審被告において、
一 右一審原告の三の主張事実につき
(一) 本判決別紙第二物件目録の第一目録記載の不動産のうち、(10)ないし(23)の不動産はX会乙金分院の敷地の一部をなすもので、法人設立の際法定の制限面積があつたため一審被告個人名義のまま残されたもので、X会病院の病院敷地(一部は理事長たる一審被告の居宅敷地)として無償で使用されており、独立して資産価値を有するものではなく、実質上はX会の所有に属するものである。また(27)、(28)の不動産は、一審被告の父太郎が一審被告の長男一郎に家業を継がせるため買与えたものであるが、贈与税がかかるので一審被告の名義としたものである。この資金は一審被告名義で銀行より借入れ太郎が返済したもので、一審被告の所有ではない。次に、(29)ないし(35)の土地は、X会病院の退院患者等のリハビリテーション施設として社会福祉法人Y会を設立するためその敷地としてX会が購入したものであるが、銀行より融資を受けるに際し、融資枠の都合で一審被告名義で購入したもので、右Y会に寄附若しくは賃貸され、又はされる予定の土地であつて、一審被告の個人資産ではない。
(二) 同第二目録(1)記載の大島兼一名義の建物が一審被告の所有であることは認めるが、同(2)、(3)記載の不動産は一審被告の父太郎の所有である。
(三) 同第三目録記載の物件は現物出資されてX会の所有に帰しておるもので、出資者たる一審被告の個人財産たる性格を有するものではない。なお、出資者は医療法人解散の場合に、清算後余剰資産があるときに限り出資の割合に応じて財産の返還を受け得るに過ぎないが、医療法人の解散は経営不能に陥つた場合を除いて通常考えられず、このような場合は負債超過に陥つていることが考えられるから、清算後出資者に財産の返還が行なわれることは殆ど考えられない。
(四) 同第四、五、七目録記載の各物件は、いずれもX会が設立後その活動によつて取得したもので、一審被告の資産とは関係がない。
(五) 従つて、一審被告個人の資産で財産分与の対象となるのは第二物件目録の第一目録(1)ないし(7)及び第二目録(1)の各物件のみであり、その時価は合計金一、〇〇〇万円を越えない。
(六) 仮に百歩譲つてX会の財産が本件財産分与にあたり考慮さるべきものとしても、X会には一億円以上の負債があるので、これを差引きすれば正味資産は殆ど存しない。
(七) 一審原告は、財産分与の割合は夫婦共同生活中に取得した財産の二分の一であると主張するが、本件におけるように夫が医師という特殊の専門知識にもとづく知能労働の故に高額の収入を取得し、これにより築かれた財産を分与するに際しては一般の場合より分与額の割合が低下するのが合理的である。なぜならば、家庭生活、婚姻生活における妻の家事労働の内容、程度は夫の職業、収入と左程関係がないからである。むしろ妻の家事労働の程度は夫の高収入に比例して少なくなるというのが通常である。夫の職業、収入の如何を問わず妻はその財産の二分の一を取得する権利があるとの一審原告の主張は首肯しがたい。(原判決一一枚目裏八行目から同一二枚目表四行目までの答弁中財産分与の対象物件に関する部分を以上(一)ないし(四)のとおり改める)
二 右一審原告の四、の主張事実は否認する。
と述べた。
(双方の立証関係)《省略》
理由
第一離婚並びに慰藉料の請求について。
当裁判所も原審と同様、一審原告の本訴離婚の請求及び金二〇〇万円の限度における慰藉料の請求は正当としてこれを認容すべく、一審原告のその余の慰藉料請求及び一審被告の離婚の請求は失当として棄却すべきものと判断する。
そしてその理由は《以下、原判決の訂正・引用及び証拠判断につき省略》
第二物件引渡及びその代償請求について。
本件請求は、不特定物の引渡請求ではなく、所有権にもとづき特定の物件(宝石類)の引渡を求めるものであるところ、一審原告の主張事実によつても各物件の特定が他の同種類のものと区別できる程度に充分なされているとは言えず、この点において一審原告の本請求はすでに失当であるばかりでなく、本件全証拠によつても一審被告が一審原告主張の如き各物件を占有していることを確認できないので、いずれにせよ本件請求は理由がない。(なお、本件物件引渡の請求を本件離婚の訴に併合して審理することは、離婚の訴と他の訴との併合を禁ずる人事訴訟手続法七条二項に牴触するかの如くである。しかし、同条二項但書によれば、離婚等の訴にもその訴の原因たる事実によつて生じた損害賠償の請求や婚姻事件に付帯してなす緑組の取消、離縁又はその取消の請求を併合することは許されているのであるが、これは、同一婚姻関係に牽連する数個の訴はなるべく一挙に解決し、この種の訴が繰り返されて家庭の平和が害されるのを防止しようとする公益上の必要からと、一面これにより訴訟経済をも図る趣旨に出でたものと解される。右規定の趣旨からすると、離婚事件に牽連があり、しかも事件の審理の集中に妨げとならない請求は、むしろこれを併合して審理することが相当であると考えられる。そこでこれを本件についてみるに、本件物件引渡請求は、一審原告が離婚にあたり夫である一審被告に対し自己の所有財産の引渡を求めるものであるから、離婚事件と密接な関連を有するものというべく、これを同時に解決するのが適当であるのみならず、特に本件においては、一審被告が右物件の引渡をしないという事が離婚の請求原因としても主張されているのであつて、離婚事件自体において必然的に本件物件の所有、占有関係が審理判断されざるを得ない関係にあり、従つて本件物件引渡請求事件を併合審理することにより本件離婚事件の審理が妨げられるおそれもまた殆んどないといわなければならない。よつて、前記人事訴訟手続法七条二項但書を類推適用して、本件においては併合審理が許されて然るべきものと解する。)
第三財産分与の請求について。
一審被告が開業当時資産を有しなかつたこと、及び一審原告が現在資産とてなく会社勤めにより僅かばかりの収入を得ているに過ぎないことは、すでに前記第一で認定したところである。
次に、<証拠>を総合すると、
「(一) 一審被告の開業後その医業は漸次繁栄し、医療法人X会設立前には一審被告の月間収益は少なくとも金三〇万円を越えるまでになつていたが、医療法人設立後も次第に施設を拡充すると共に収益も増大し、同法人の昭和三九年度の診療報酬収入は約金九、一六八万円、純利益は約金一、二二〇万円、更に昭和四二年度の診療報酬収入は約金一億二、七五九万円に達するほどに著るしい発展を遂げていること、
(二) 右医療法人X会は、医療法にもとづいて設立された法人で病院の経営を目的とするものであるが、理事長である一審被告のほかにはその両親や妹の夫の宮田三郎らが形式的に理事として名を連ねているに過ぎず、実際上一審被告が独りで同法人の采配を振つており、また同法人の定款には、同法人が解散した場合の残余財産は払込済出資額に応じて分配する旨定められているところ、実質上の出資者は一審被告のみである等、一審被告の個人経営的な色彩が強いこと、
(三) 一審被告個人の資産としては、前記法人から役員報酬として支給される一ケ月金四五万円(税込み)の収入があるほか、
(1) 別紙第二物件目録の第一目録1ないし35(但しうち27ないし35は一審原告と別居後である昭和三七年一〇月以降に取得)及び第二目録1記載の各不動産を所有しており、その価額は、第一目録1ないし23及び第二目録1の不動産が計金二、一四〇万円位(昭和四〇年二月一八日評価)、第一目録24、25、26の不動産が計金八〇万円位(同四三年一月評価)、同27、28の不動産が計金二、七〇〇万円位(同年九月一一日評価)、同29、30、31の不動産が計金六九〇万円位(同四四年三月評価)、同32ないし35の不動産が計金四、二〇〇万円位(同年二月評価)、以上合計金九、八一〇万円位であり、
(2) 古賀ゴルフ場外三ケ所のいわゆるゴルフ会員券、及びゴルフ場の土地(時価金一三〇万円位)を所有するほか、かなりの額の動産類を所有し、
(3) 一方、負債として、銀行からの借入債務金六〇〇万円位があること、
(四) また、医療法人X会の資産状態は、前示のとおりの収入、利益があるほか、
(1) 別紙第二物件目録の第三目録記載の不動産及び同第四目録記載(但し35を除く)の不動産を所有しており(但し、第四目録9、10、12ないし34、36、37は昭和三七年一〇月以降に取得された)、その価額は、第三目録及び第四目録1ないし11の不動産が計金七、二四〇万円位(昭和四〇年二月一八日評価)、第四目録の12ないし34、36、37の不動産が計金三、三九〇万円位(同四四年二月評価)、同38の不動産が金九五〇万円位(同月評価)、同39の不動産が金一八万円位(同四二年一月評価)、以上合計金一億一、六〇〇万円位であり、他に自動車数台(内一台はベンツ)を所有し、
(2) 一方、負債として、銀行からの借入債務計金一億〇、六六六万円位があること。
(五) 右一審被告所有の不動産は、その殆んどが一審被告及びその家族の住居、もしくは医療法人X会経営の病院の敷地として利用されており、またその一部は、一審被告らが設立した社会福祉法人Y会の救護施設に使用され、もしくは使用される予定であること。」
以上の事実が認められる。右認定に反する一審被告本人の供述部分は採用できない。
これらの事実によつて考えると、一審被告は一審原告に対し、本件離婚に伴つて相当額の財産を分与すべきであるが、右認定の事情に照らし、本件においては不動産等の現物を分与せしめるのは適当ではなく、金銭をもつて支払わせるのが妥当であると思料する。そして、右認定のとおり医療法人X会が実質上一審被告の個人経営と大差ない実情に鑑み、財産分与の額を決定するに当つては、同法人の資産収益関係をも考慮に入れて然るべきであると考える。(もちろん、同法人の利益処分等については法令上の制限が加えられていることを斟酌しなければならず、この点において純然たる個人資産と全く同一視することはできないが。)
そこで、財産分与の額であるが、前示の一審原、被告の婚姻継続期間、本件離婚に至つた経緯、一審原告の年齢、双方の財産状態、婚姻中における一審原告の医業への協力の程度、子の扶養関係(この点は後記第四、に、認定のとおり)等諸般の事情を考慮して、金二、〇〇〇万円が相当であると認める。
この点に関し、一審原告は、財産分与の額は夫である一審被告の財産の二分の一を原則とすべきであると主張する。なるほど、財産分与の本質は夫婦間における実質的共有財産の清算を中核的要素とするものと考えられるから、例えば、夫の財産が全部夫婦の協力により取得されたものでしかも双方の協力の程度に甲乙がないような場合であれば、財産分与の額を定めるにあたり夫の財産の二分の一を基準とすることも確かに妥当であろうが、本件においては、一審被告が前示の如き多額の資産を有するに至つたのは、一審原告の協力もさることながら、一審被告の医師ないし病院経営者としての手腕、能力に負うところが大きいものと認められるうえ、一審原告の別居後に取得された財産もかなりの額にのぼつているのであるから、これらの点を考慮すると財産分与の額の決定につき一審被告の財産の二分の一を基準とすることは妥当性を欠くものといわざるを得ず、一審原告の主張は採用できない。
第四親権者の指定について。
<証拠>によると、一審原、被告間の四児は別居以来一審被告において扶養してきており、現在長女A子は一審被告の実父母の監督のもとにK市所在の短期大学に在学中であり、二女B子、三女C子、長男甲男はいずれも一審被告方に同居しその監護のもとに高等学校或は小学校に通学していること、一審被告は子女の教育にも相応の熱意を有し、親権者として必ずしも不適格とは言えないことが認められ、これらの事情に一審原、被告双方の資産収入の状態等を併せ考慮すれば、四児の親権者を一審被告と定めるのが相当と認める。
第五弁護士費用について。
不法行為により損害を受けた者がその損害賠償を訴求するため弁護士に公訴追行を委任した場合、そのために要した弁護士費用は相当と認められる額の範囲内のものに限り不法行為と相当因果関係に立つ損害として相手方にその賠償を請求できると解すべきである(最高裁判所昭和四四年二月二七日判決、同裁判所判例集第二三巻第二号四四一頁参照)。
そこでこれを本件についてみるに、一審被告の争の態度(反訴をも提起している)に照らし、一審原告が自己の権利擁護上本訴提起に及びかつ弁護士に訴訟追行を委任したのはけだし止むを得なかつたものというべきである。当審における一審原告本人尋問の結果によれば、一審原告は本件訴訟代理人たる弁護士に対しその主張のとおりの手数料、謝金、旅費、日当、宿泊費を支払う旨約していることが認められるが、本件事案の内容、審理の経過、認容すべき損害賠償額、その他諸般の事情を斟酌して、右弁護士費用中一審被告に賠償させるべき額は手数料及び謝金のうち金四〇万円が相当と認める。なお、一審原告は、弁護士に支払を約した本件審理のための出頭旅費、日当、宿泊費も弁護士費用として請求しているけれども、これらの費用は、もともと訴訟費用として民訴法、民事訴訟費用法の定めるところに従い当事者間における適正な負担が決せられる建前になつているのであるから、これと別個に弁護士費用として訴求することはできないものと解すべきである。よつて、本件弁護士費用の請求は、右金四〇万円及びこれに対する本判決言渡の日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるがその余は失当である。
第六以上の次第で、一審原告の本訴請求は主文第三ないし六項掲記の限度で理由があるものとしてこれを認容すべく、一審原告のその余の請求及び一審被告の請求は失当として棄却すべきであり、これと異る原判決は一部失当(請求の拡張及び減縮にかかる部分を除き)であるから一審原告の控訴にもとづいて主文第三ないし七項の如く変更し、一審被告の控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して(なお財産分与については仮執行の宣言を付するのは相当でないから右申立を却下する)、主文のとおり判決する。(亀川清 嚢田速夫 柴田和夫)
(別紙) 第一―第七・物件目録旅費等明細表}<省略>