福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)518号 判決 1970年2月23日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠関係は
控訴代理人において
一 控訴人は、本件借入金については、表面上の借主にすぎず、実質上は、当時金融業等の事業を共同でしていた被控訴人と訴外七条一彦が借主である。控訴人は、右両名から貸主たる訴外株式会社西日本相互銀行に対する信用を得るため名義だけ貸してもらいたいと懇願されたので、恩恵的に借主名義を貸しただけである。従つて、貸主に対する関係は別にして内部的な求償関係は、右のごとき場合は実質的な借主たる被控訴人が代位弁済しても表面上借主になつているにすぎない控訴人に求償することはできないと解すべきである。仮りに被控訴人の控訴人に対する求償権が発生するとしても、右のごとき事情から、被控訴人と控訴人との間において求償請求はしない旨の約定が成立していたのである。
右のいずれにも理由がないとしても、前記のとおり懇願をうけて借主名義を貸与したにすぎない控訴人に対し求償を請求することは信義則に照らし許されない。
二 仮りに、被控訴人が実質上の借主でないとしても、少くとも七条一彦が実質上の主たる債務者であり、被控訴人と控訴人は実質上の保証人であつたというべきであるから、内部的求償関係は、分別の利益をうけ、控訴人は二分の一の限度以上に被控訴人の求償に応ずる義務はない。
と述べた。
証拠(省略)
理由
当裁判所も被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決説示の理由と同様であるから、これを引用する。
一 原判決三枚目裏七行目の「柿川勇の各証言」の次に「当審証人合志束、同阿南豊の各証言」を挿入する。
二 原判決四枚目裏四行目中「柿川勇」とあるを「柿川勇(当審及び原審)」と、また「原被告」とあるを「原被告(被告は当審及び原審)」と各訂正する。
三 原判決四枚目裏一一行目から一二行目にかけて、「右一〇〇万円について被告と七条の間で何れが支払いの責に任ずべきかは別として、」とあるのを次のとおり訂正する。「右借入金一〇〇万円については表面上連帯保証人となつている七条一彦が実質的には主たる債務者ともみられるが、被控訴人は実質的な主債務者ではなかつたのであるから」
四 引用の原判決認定によると、被控訴人は本件借入金につき連帯保証人であり、実質的にも主債務者ではなかつたのであるから、右事実を前提として被控訴人の控訴人に対する求償権が発生しない旨の控訴人の主張は採用できない。又控訴人と被控訴人との間に求償請求しない約定が成立した事実を認めるに足りる証拠はないし、被控訴人の本件求償請求が信義則に反するとは認められない。前記のとおり、七条一彦が実質上の主債務者ともみられるが被控訴人は連帯保証人であつたのであるから、控訴人の分別の利益の主張は理由がない。
五 よつて、原判決は相当で本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。