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福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)605号 判決 1968年4月30日

控訴人(付帯被控訴人)

堺開造

被控訴人(付帯控訴人)

石倉ハツヱ

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人(付帯被控訴人)は被控訴人(付帯控訴人)に対し金七三万一、一三二円とこれに対する昭和四〇年一一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人(付帯控訴人)その余の請求を棄却する。

訴訟の総費用(付帯控訴により生じた分を含む)はこれを四分し、その一は被控訴人(付帯控訴人)の、その余は控訴人(付帯被控訴人)の各負担とする。

この判決は被控訴人(付帯控訴人)勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴事件について、控訴人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、

付帯控訴事件について、付帯控訴人(被控訴人)は「原判決を次のとおり変更する。付帯被控訴人は付帯控訴人に対し、金一〇二万二、八五四円とこれに対する昭和四〇年一一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも付帯被控訴人の負担とする。」との判決を求め、付帯被控訴人(控訴人)は「本件付帯控訴を棄却する。付帯控訴費用は付帯控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係は、左記のほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

控訴人(付帯被控訴人、以下単に控訴人という)において、「被控訴人(付帯控訴人、以下単に被控訴人という)は控訴人に自動車損害賠償保障法第三条にいう運行供用者として損害賠償の義務があると主張する。しかし、同条にいう運行供用者とは、抽象的、一般的に当該自動車を自己のために運行の用に供している地位にある者をいうのでなく、事故発生の原因となつた運行が自己のためになされている者を指すと解すべきところ、本件は原審相被告の堺隆幸が知人松尾某に頼まれ、同人等を国鉄瀬高駅まで送つて行つた際の無断私用運転中の事故であつて、しかも車の所有者は訴外株式会社さかい装粧品店で、主として同会社の文具、化粧品、その他日用雑貨販売の業務に使用されていたのであり、右隆幸の運行は所有者である右会社の業務のため、または業務の延長上にあるとも考えられない場合であるから、同会社の代表者に過ぎない控訴人が本件車の保有者として損害賠償義務を負担する理由はない。

被控訴人は二次的に、控訴人が民法第七一五条第二項により前記会社の代理監督者として責任があると主張する。しかし、本件事故を惹起した控訴人の長男隆幸は、当時満一八才で大牟田南高校三年に在学し、右会社の被用者でなく、従つて会社の業務として自動車を運転していたものでもないので、控訴人にその責任がないことも明白である。」

と述べ、

被控訴人において、

「被控訴人は、本件事故により受傷の翌日から二年間全く稼働できず、そのため得べかりし利益金三〇万円を喪失したものであるが、原審においてはそのうち金二二万八、〇〇〇円のみを訴求していたところ、これを全額訴求することとし、他の慰藉料、損害金と併せて、本訴請求金を合計一〇二万二、八五四円とこれに対する事故発生後の昭和四〇年一一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金に拡張する。」

と述べた。

〔証拠関係略〕

理由

被控訴人主張の日時場所で、控訴人の長男堺隆幸の運転する自動車が被控訴人に接触し、そのため被控訴人がその主張のような傷害を受けたこと、右事故は被控訴人主張のような右隆幸の過失によるものであることは、当事者間に争いがない。

〔証拠略〕を綜合すれば、本件事故を起した自動車は一応訴外株式会社さかい装粧品店の所有名義で登録されているが、右訴外会社は代表取締役たる控訴人およびその妻美代子によつて従来経営されていた文具、化粧品その他日用雑貨の販売業を、昭和三二年三月二六日会社組織にしたもので、他に役員、株主は存在するけれども名目に過ぎず、会社設立以来これ等役員、株主に給与の支払、配当など全くしたことなく、営業も控訴人夫婦のほか店員一名を使用するのみで、その収益はすべて控訴人に帰属する個人経営的企業であること、そこで右自動車も実質的には控訴人の所有とかわりなく、主として右会社の業務に使用されていたが、それのみに限られず、控訴人もしくはその家族の私用にも当てられており(車種もトラック、ライトバンといつたものでなく普通乗用車である)、控訴人にもつぱらその管理使用権が帰属していたこと、控訴人の長男隆幸は事故当時満一八才で高校三年に在学中であり、昭和三八年一〇月九日に普通自動車運転免許を取得して以来、控訴人の諒承のもとに時折右自動車を運転していたこと、本件事故は隆幸が知人に頼まれて同人を国鉄瀬高駅まで同自動車で送つて行つた際惹起したものであることなどが認められる。〔証拠略〕のうち右認定に反する部分は、その他の証拠に照らし信用できない。

してみると、本件自車の所有名義にかかわらず、控訴人は実質上の所有者としてその管理使用権を有し、同自動車の運行を一般的に支配していたものというべく、また事故当時隆幸はとくに控訴人の許可を得て右自動車を運行していたものとは認められないが、前記のような控訴人と隆幸との身分関係、これまでも隆幸が控訴人の許可を得て右自動車を運転していた事実、本件の場合も隆幸は知人を駅まで送るために車を運転したもので、用事がすめば短時間内に帰還することが当然予定されていたことなどからすれば、控訴人の右自動車に対する運行支配はなお失われず継続していたものといわねばならない。そこで、控訴人は事故当時も依然として右自動車を自己のため運行の用に供する者として、自動車損害賠償保障法第三条に基き右事故による損害を賠償すべき義務がある。

次に、本件事故により被控訴人の蒙つた損害であるが、当裁判所は(一)受傷の翌日から二年間の得べかりし利益の喪失による損害額を金二四万円、(二)昭和四〇年一一月一八日以後将来の得べかりし利益の喪失による損害額を金二九万一、一三二円、(三)慰藉料は金二〇万円をもつて相当と判断する。その理由は左記イ、ロ、ハのように訂正付加するほか、原判決の理由第三項の(一)ないし(三)に説示のとおりであるから、これを引用する。

イ  原判決の七枚目裏三行目に「二五日間」とあるのを「二〇日間」同行に「合計一五万円」とあるのを「合計一二万円」、同七行目に「合計三〇万円」とあるのを「合計二四万円」、八枚目裏一行目に「年額一五万円」とあるのを「年額一二万円」、同三行目に「四五万円」とあるのを「三六万円」、同五行目から六行目に「三六三、九一五円」とあるのを「二九一、一三二円」に各訂正し、

ロ  原判決の八枚目裏七行目に続けて「被控訴人は一ケ月二五日間稼働し年間一五万円の収入を得ることができたと主張するが、その点については、原審における被控訴人本人尋問の結果中、日雇で他家の農業の手伝をしたり自家の農地を耕作したりして、一ケ月平均二〇日ないし二五日稼働していたという以外に格別の証拠なく、被控訴人の年令などを考慮すれば、今後更に月二五日の稼働を継続できたか疑わしく、せいぜい一ケ月二〇日間稼働した年間一二万円の収入を挙げ得たと認めるのが相当である。」と付加し、

ハ  また、原判決の八枚目表八行目、同一〇行目およびその裏三行目にそれぞれ「昭和四一年」とあるのは、いずれも「昭和四〇年」の誤記と認められるから、次のように訂正する。

そうだとすると、被控訴人が本件事故によつて受けた物的精神的損害額の合計は金七三万一、一三二円となり、控訴人は被控訴人に対し右金額とこれに対する事故後の昭和四〇年一一月一八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。そこで被控訴人の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものである。

よつて、これと一部結論を異にする原判決を変更することとし、民訴法第三八六条、第九六条、第九二条、第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 池畑祐治 蓑田速夫 権藤義臣)

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