福岡高等裁判所 昭和43年(ネ)216号 判決 1970年2月24日
理由
甲第五号証(控訴人の印鑑票謄本)に押捺された印影が控訴人の印章によるものであることは控訴人本人の当審での供述により明らかであり、これと甲第一、二号証(いずれも約束手形)の各控訴人名下の印影とを対照すると、同一であることが肯認できるので右甲第一、二号証の控訴人作成部分は結局真正に成立したものと推定すべく(なおこの点については後述参照)、同号証のその余の作成部分は《証拠》により真正に成立したものと認められる。
《証拠》を総合すると、被控訴人は辻川正に対しその主張の日その主張の約定で二回にわたり計金四〇万円を貸付けたこと、当時控訴人は福岡市天神町でクラブを経営しており、中村孝男はその弟で右クラブのマスターを勤め、両名は度々被控訴人から連帯して金を借りていた者であるが、辻川正は控訴人の弟中村幸雄に返済するため前記四〇万円を被控訴人より借用したものであること、第一回貸付の昭和三七年六月九日、被控訴人は自己の事務所において控訴人や中村幸雄を伴つて来た右辻川に対し右貸付金支払確保のために甲第一、二号証の約束手形二通金額計四〇万円を振出させ、控訴人は右辻川の借入金債務を連帯保証する趣旨で右各約束手形に裏書した(もつとも控訴人の署名はそのとき同道していた控訴人の弟中村幸雄が代行したものと認められる)ことが認められ、右認定に反する原審証人中村幸雄の証言並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果はにわかに措信しがたく、当審証人中村孝男(第一、二回)の証言もいまだ右認定を覆すに足りず、他にこれを左右するに足る証拠はない。
なお、控訴人は本件甲第一、二号証の約束手形の控訴人裏書部分は印章の盗用により偽造されたものであると主張し、控訴人本人は当審における尋問で右主張に副うかのような供述をしているけれども、《証拠》によると、「控訴人は、昭和三七年初め頃から同三八年春頃までの間、盗用を防ぐため右樋口昌利に自己の印章の保管方を依頼し、必要の都度同人からこれを返して貰らつて使用していたこと」が認められ、従つて本件約束手形が作成された昭和三七年六月当時、控訴人は自己の印章の保管、取扱に非常に慎重であつたことがうかがわれるので、右事情に照らすときは、前記印章を盗用された旨の控訴人本人の供述をたやすく信用することはできない。
それ故、控訴人は本件辻川の借入金債務につき保証人としての責任を負うべきであり、被控訴人に対し元本金四〇万円及びこれに対する弁済期日後である昭和三八年一月一日から支払ずみまでの約定の割合を利息制限法の範囲内に引き直した年三割六分の割合による遅延損害金を支払う義務があることになる。
よつて被控訴人の本訴請求は全部正当として認容すべきであり、これと同旨(但し請求の減縮にかかる部分を除く)の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却