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福岡高等裁判所 昭和45年(う)113号 判決 1970年5月29日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三月に処する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護士中山八郎提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

控訴趣意第一点(事実誤認)について

所論は要するに、原判決の認定せるけん銃は本物ではなく玩具であって、人畜に危害を加える効力を有するものではない。仮りに、本物のけん銃であっても、被告人はこれを玩具と信じ且つけん銃としての効用の認識がなかったので犯意がない。これらの事実を誤認した原判決は破棄を免れないというにある。

よって考察するに、原判決が本件けん銃の所持につき有罪の事実を認定したことは所論のとおりである。そこで、右けん銃が銃砲刀剣類所持等取締法所定の銃砲(けん銃)にあたるものか否かを検討すべきところ、≪証拠省略≫によれば、本件けん銃は埼玉県浦和市上木崎五七四日本M、G、C協会製造にかかる市販のがん具けん銃にすぎないことが認められ、その材質は亜鉛合金であって撃発機構は、シングルアクションおよびダブルアクションの両用型のようであるが、各々の関連部品が摩滅して機能障害をきたし、円滑な操作がなされないこと、銃身は口径九・七ミリメートルの滑腔銃身で部分的に寸法差が認められ、銃腔表面の精度も粗雑なものであること、弾倉は装弾数五発、薬室内径九・三ミリメートルであるが、薬室中央部附近に突起物やバリが存し、その他排きょう子の一部折損、弾倉固定子の摩滅、弾倉開閉子のガタが存するほか銃腔径と薬室径との寸法差や撃発状態時における位置のずれが存することが認められる。右に明らかなように、本件けん銃はもともとがん具として造られたものであるから、金属性弾丸の発射を目的とする本来のけん銃とは異なる上に、前述の如く弾丸発射に適合しない欠陥又は衰損があって、現在弾丸発射の機能を有しているものとは認められない。

尤も、前記鑑定書によれば、本件けん銃の発射実験が行われているが、正常な操作では弾丸発射が行えず、手動で撃鉄打撃部と発火薬との関係位置を改良して、特別に、球形の鉛弾丸、起縁型打がら薬きょう、発射薬および発火薬にがん具用煙火を用いる等して、無理に右の加工弾丸の発射が行われ、けん銃本来の発射方法によるものではなかったことが認められる。又右と同時に行われた威力実験では、銃口から一一糎のところに弾速測定の第一的、それから一五糎のところに第二的、更にそれより三五糎のところに、厚さ四・三ミリメートルのダンボールを二・四糎間隔に一〇枚並列させて行われたが、弾丸はダンボール三枚を貫通して四枚目の中程に停弾したことが認められるが、この距離は約六八糎にすぎない近距離であって人が対峙して直接手の届く範囲にすぎないものである。元来けん銃等の装薬銃砲は、それを用いて弾丸を発射飛翔させることによって、手の届かない目的物に危害を加えることを目的とするものであることにかんがみると、右の約六八糎の距離はあまりにも短かく、弾丸の飛翔距離というに値しないものであり、このような至近距離にも拘わらず、その貫徹力(つまり加害力)は微力なものである。更に、同鑑定書によれば、適当な火薬や弾丸を用いて実包を作る技術があれば、弾丸発射は可能なものと思料される旨ならびに弾丸と銃腔あるいは薬室との間に発射ガス洩れがないようにして実包を造れば、実験結果より大きい威力を期待できるものと思料される旨の記載があるが、前示のとおり、本件けん銃は本来金属性弾丸を発射する目的で造られたものではなく、材質も亜鉛合金であるから、実包を改良しても、その発射圧に耐え得るだけの強度を有するものとは考えられず、弾丸威力についても、銃腔径が薬室径より大きいため、けん銃等に期待される程度の威力は到底望み得ないものと認めるのが相当である。のみならず、特別の加工又は工夫を施して、本来現有しない機能を付加することは誤りというべきであって、威力に関する右鑑定部分は採用できない。

なお、≪証拠省略≫によれば、被告人は本件けん銃を、昭和四四年四月頃、当時奥村組の幹部であった吉本重雄から入手したが、その際、同人より「ほんもののようであろう、これを持っておれば人は本物と思う。」旨を告げられ、被告人においても「右吉本のいうように本物そっくりのように思えた。」と述べており、被告人においても、本件けん銃が本物のけん銃でないことを知って、これを所持していたことが認められる。

以上のとおり、本件玩具けん銃は、もともと装薬による金属性弾丸の発射を目的として製作されたものではない上に、現に故障や衰損があって、金属性弾丸発射の機能がなく、本来のけん銃と異り右の故障等を修理しても、本来ない機能を当然に回復し得るとも認められないものである。しかるに右の事実を看過し、金属性弾丸の発射可能な装薬けん銃と同視し、有罪の事実を認定せる原判決は事実を誤認し、その結果法律の適用を誤ったものであり、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の控訴趣意についての判断を俟つまでもなく破棄を免れない。論旨は理由がある。

よって、刑事訴訟法第三九七条第一項に則り、原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い自判する。

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四四年一〇月一五日長崎市愛宕町八〇五番地の自宅において、刃渡二一、八センチメートルのあいくち一振を所持したものである。

証拠の標目≪省略≫

(累犯前科)

原判決の前科記載のとおりであるからここに該部分の記載を引用する。

法令の適用

被告人の判示所為は、銃砲刀剣類所持等取締法第三一条の三、第三条第一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、且つ前示前科があるので、同法第五六条第一項、第五七条により累犯の加重をなし、その刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処する。

なお、けん銃所持の点は、前示理由により罪とならないが前示あいくち所持と包括して一罪の関係にあるので主文において無罪の言渡をしない。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田哲夫 裁判官 平田勝雅 井上武次)

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