福岡高等裁判所 昭和45年(ツ)22号 判決 1971年5月17日
上告人 山口儀七
被上告人 力安俊文
主文
原判決を破棄する。
本件を佐賀地方裁判所に差し戻す。
理由
上告理由は別紙記載のとおりである。
上告理由第一、二点について。
境界確定の訴は、隣接する土地の境界が事実上不明なため争がある場合に、裁判によって新たにその境界を確定することを目的とするものであって、その境界を確定するにあたっては、公図その他の地図、隣接両地の公簿面積と実測面積との関係、占有関係、境界標識、林相その他地形等を証拠によって確定し、それらを総合判断したうえ、合理的理由のもとにこれを確定すべきことはいうまでもない。ことに、境界線を確定することは、直接には隣接土地の所有権の範囲を確定するものではないが、多くの場合これが所有権の範囲に重大な影響を及ぼすものであるから、隣接土地の公簿面積と実測面積の関係は、それがなくても境界線を明らかに確定しうるような特別の場合を除いては、必ずこれを明確にして境界確定の資料とすべきである。
これを本件についてみるに、上告人所有にかかる武雄市武雄町大字富岡字水谷一一、二四五番ロ原野二九平方メートルとこれに隣接する被上告人所有の同所一一、二四五番畑四七六平方メートルとの境界線を定めるにつき、第一審裁判所は、現地における証拠調期日において、当事者双方の主張する境界線及び被上告人主張の前記一一、二四五番の土地の範囲については各当事者にこれを指示せしめて明らかにしながら、上告人主張の前記一一、二四五番ロの土地の範囲についてはこれを指示せしめず、また被上告人主張の一、一二四五番の土地の範囲については鑑定人をしてこれを実測せしめながら、上告人主張の同番のロの土地については実測をなさず、したがって隣接土地の公簿面積と実測面積とを比較検討することができないのであるから、原裁判所はすべからくこの点につき釈明権を行使して審理を尽すべきであったものというべきであり、また、上告人がその請求原因として主張するところの要旨は、上告人所有地と被上告人所有地との境界には高さ約二メートルの崖があり、右崖の線が両土地の境界線であるというにあり、原判決の引用にかかる第一審判決事実摘示によると、崖がかつて存在していたことは被上告人において明らかに争わないところであり、そうだとすると、右崖は自然の地形を形成していたものと思料されるが、原判決はこの点についても明確な判断を示していない。
したがって、本件境界を確定した原判決には、審理不尽もしくは理由不備の違法があるといわなければならず、右違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであって、論旨は理由がある。
よって原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため本件を原裁判所に差し戻すこととし、民訴法四〇七条により主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 松村利智 白川芳澄)
<以下省略>