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福岡高等裁判所 昭和45年(ネ)190号 判決 1972年2月10日

控訴人 茂田電器商会こと 茂田吉雄

控訴人 福島義一

右両名訴訟代理人弁護士 吉原進

被控訴人 日本コロムビア株式会社

右訴訟代理人弁護士 安田幹太

同 安田弘

同 馬場眷介

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

(一)控訴人茂田吉雄は、被控訴人に対し、金三二八万六、〇〇四円及び内金二九五万九、〇〇四円に対する昭和四一年八月一日から、内金三二万七、〇〇〇円に対する昭和四三年三月一四日から各支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)被控訴人の控訴人茂田吉雄に対するその余の請求及び被控訴人の控訴人福島義一に対する請求はいずれもこれを棄却する。

二、訴訟費用中、被控訴人と控訴人茂田吉雄との間に生じた分は第一、二審とも同控訴人の負担とし、被控訴人と控訴人福島義一との間に生じた分は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

三、本判決は、被控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

一、控訴人茂田に対する請求について

(一)控訴人茂田が被控訴人に宛て原判決添付約束手形目録記載の二ないし六、八ないし一〇、一二ないし一四、一七ないし一九、二一、二三、二四、二七、二九、三〇、三四、三六、三九、四一、四三及び四四の約束手形二六通を振出したこと(ただし二ないし六、九、一〇、一二ないし一四、一八、一九、二一、二四、二七、三〇、三六、四一及び四四の手形については振出日を白地として)は当事者間に争いがない。

(二)次に同控訴人が同目録記載の右以外の約束手形一八通を振出したかについて判断する。同手形は松本弘子が同控訴人の妻であった当時同控訴人の記名印と印鑑を使用して作成し(ただし一一、一五、二〇、二五、二六、三一、三二、三五、三七及び四〇の手形については振出日を白地として)被控訴人に交付したものであることは当事者間に争いがないので、問題は松本にかかる権限があったかであるところ、原審証人松本弘子の証言、原審ならびに当審における控訴人茂田本人尋問の結果を合せ考えれば、同控訴人と松本は夫婦として昭和二八年二月頃から同四〇年一二月末頃まで同棲生活し、その後間もなく離婚したこと、同控訴人は昭和三四年二月から店舗を構えて茂田電気商会の商号で電気製品の販売業を営み、同三六年一一月には被控訴人と被控訴人主張の内容の特約店契約を結び(この契約のあったことは当事者間に争いがない)以後は主として被控訴人製造の商品を取扱っていたが、同四〇年一二月倒産して廃業の己むなきに至ったこと、右営業には同控訴人と松本が夫婦のこと故一致してこれに従事し、被控訴人等に対する買掛金債務の支払も現金によると或いはその支払の方法として手形を振出すにせよ両名がこれに当り、従って松本がかかる意味において同控訴人の記名印と印鑑を使用して同控訴人振出名義の約束手形を振出すことを同控訴人は許諾していたこと、本件手形は松本が右特約店契約による同控訴人の負担する債務の支払の方法として振出されたものであることが認められ、前顕控訴人茂田の供述中右認定に反する部分は当裁判所の信用しないところであり、他に該認定を左右できる証拠はない。右認定の事実によれば、同控訴人は松本が本件手形を振出す権限を与えていたものといわねばならない。

(三)そして、被控訴人が昭和四一年一月一〇日頃振出日を白地として振出された右各手形の白地部分をその主張のように補充したこと、被控訴人が本件全手形をいずれも満期に支払場所において呈示したこと、被控訴人が本件全手形を現に所持していることは当事者間に争いがない。

(四)そこで同控訴人の相殺の抗弁につき考えるに、同控訴人は、まず「被控訴会社の工藤管理課長、酒井営業係員は昭和四一年一月三日同控訴人が保管しかつ所有する電気製品を同控訴人に無断で持出し、被控訴会社においてこれを処分し、同控訴人に同製品の価格相当の金八六万一、六五〇円の損害を与えた」と主張するけれども、この点に関する原審における控訴人茂田本人尋問の結果によっても未だ該事実を認めうるに足りず、他にこれを肯認できる証拠もないので、同控訴人の右抗弁は既にこの点において採用できない。

(五)以上によれば、控訴人茂田は被控訴人に対し、本件手形金合計三二八万六、〇〇四円(約束手形目録一の手形金は被控訴人が支払を受けたと自認する金二万八、六九六円を控除した金四万一、三〇四円)及び内同目録中二ないし六の手形を除くその余の手形金合計金二九五万九、〇〇四円に対する右手形の最終満期日の翌日である昭和四一年八月一日から支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金、また右二ないし六の手形については、右手形を満期日に支払場所に呈示して支払いを求めた当時はいまだ振出日欄は白地であって未完成の手形であったから、支払のための呈示についてはその効力がなく、したがって、右手形金合計金三二万七、〇〇〇円については、被控訴人主張の同年八月一日から商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の請求をなすことはできないが、右手形金の支払を求める昭和四三年二月二八日受付の被控訴人提出の訴の変更申立書が控訴人茂田に送達された日の翌日であること記録上明らかなる同年三月一四日から支払いずみに至るまで前同年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、被控訴人の控訴人茂田に対する本訴請求は右認定の限度において理由があるものというべきであり、その余は理由がないものといわなければならない。

二、控訴人福島義一に対する請求について、

控訴人茂田が被控訴人からその製造販売する商品を買受けるにつき継続的商品取引契約を締結し、右契約に基づき控訴人茂田の負担する債務につき控訴人福島が被控訴人との間に連帯保証契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

そして被控訴人は「控訴人福島は右連帯保証契約に基づき控訴人茂田が右契約に基づき負担する買掛金債務の支払方法として振出した本件手形金債務を支払う義務がある」と主張する。

しかして、成立に争いのない甲第二号証(昭和三六年一一月一五日付日本コロムビア株式会社特約店契約書)によると、その第一条には、被控訴会社は控訴人茂田に、その発売するラジオ、テレビジョンその他電気製品を売渡し、控訴人茂田は商品の小売販売を行うものとする旨を、その第八条には、控訴人茂田は本契約の債務を担保するため、連帯保証人をたてること、連帯保証人は本契約による控訴人茂田の被控訴会社に対する債務を保証する旨をそれぞれ定めていることが認められるけれども、右特約店契約書には控訴人茂田が被控訴人に対して買掛金債務の支払の方法としての手形債務を負担した場合に、控訴人福島が右手形債務につき連帯保証債務を負うことまで定めた規定はないし、また他にかかる意味での控訴人茂田の手形債務につき連帯保証をする旨を約した事実を確認するに足る証拠がないのみならず、もともと、手形上の債務は手形行為によって成立するものであって、原因関係の不存在、無効、取消ないしは消滅によって影響を受けるものではないこと、換言すれば、手形上の法律関係は、手形授受の当事者間における具体的取引関係の中で抽象された別個独立の存在であることに照らし、単に売買契約に基づく債務につき連帯保証したというだけでは、その者が買主の負担するその債務支払の方法としての手形上の債務についてまでも連帯保証債務負担の意思を有するのが通常とは認められないから、控訴人福島が本件手形債務につき連帯保証債務を負担したと推認することも困難である。したがって、控訴人茂田が被控訴人から買受けた商品代金支払のため本件手形を振出したとしても、右説示するところからも明らかなように、控訴人福島が本件手形債務を負担するものということもできないものと解するのが相当である。

そうだとすると、被控訴人の控訴人福島に対する請求は進んでその余の点につき判断するまでもなく理由がないので、失当としてこれを棄却すべきである。

三、よって、控訴人茂田に対する請求については、これと一部趣旨を異にする原判決はその限度において不当であり、控訴人福島に対する請求については、これと趣旨を異にする原判決は全部不当であるから、原判決(ただし、原判決主文第一項中金三二八万六、〇〇〇円とあるのは、金三二八万六、〇〇四円の明白な誤記と認める。)を主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 松村利智 白川芳澄)

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