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福岡高等裁判所 昭和46年(ラ)113号 決定 1971年10月25日

抗告人

原田清春

右抗告人は福岡地方裁判所が同庁昭和四六年(ヲ)第一、〇四二号執行方法に関する異議事件につき、昭和四六年九月七日なした異議申立棄却決定に対し、即時抗告の申立をなしたから当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は原決定の取消を求めその理由は別紙記載のとおりである。

よつて検討するに、抗告理由第一点の要旨は、原決定に従うと抗告人は代位弁済により債権者である国民金融公庫から、本件抵当権を取得しているのに、その抵当権実行の競売代金の交付を受けずに配当金を大津章に渡してしまうこととなり、そうすると他の保証人は抗告人が担保権を喪失したとして、抗告人からの求債権の行使を拒むのが当然で、抗告人は他の保証人に対する求債権の行使もできない結果になるから原決定は不当である、というにある。しかし抗告人の本件抵当権の行使は、他の連帯保証人と同じ立場の物上保証人として相互に頭数に応じてのみ求償権の行使が許される大津章の提供した物件に対するものであつて、共同保証人として頭数に応じた範囲でしか求償権が行使できないことは民法五〇一条により明らかであつて、本件競売の売却代金のうち、抗告人ならびに交付要求のあつた福岡市に配当した後の残余金が競売物件の元所有者大津章に交付されても、そのことは抗告人がその他の保証人に対して求償権を行使することとは無関係であつて、論旨は理由がない。

抗告理由第二点は、原決定が維持した配当表に「剰余金は破産管財人竹中一太郎に支払い。」との記載があるため、原審は破産者大津章の管財人からは配当要求の申立がないのに配当額を決定した違法があるとするもののごとくであるが、競売手続においては、裁判所は売却代金の中から競売の費用を控除し、抵当権者その他売却代金から支払いを受ける権利を有する者に対し所定計算の金員を支払つてなお剰余金のある場合は、これを当該競売物件の元の所有者に交付すべきものであつて、本件物件の所有者大津章が破産宣告を受けていることが記録上顕著である以上右大津章に交付すべき金員はその破産管財人に支払うべきことは破産法第七条により明らかであり、その旨を記載した配当表を維持した原決定には何ら違法はないので、論旨は理由がない。

抗告理由第三点は意味不明瞭で、たやすく理解しがたく、破産法の否認権を論ずる趣旨と解しても、本件には否認権は無関係であり、主張自体理由がない。

なお原決定二枚目裏二行目「しかして申立人の」から同一二行目までの説示<註・一審決定傍線部分>は次のとおり改めるべきであるが、右は原決定の結論に影響を及ぼすものではない。

しかして申立人が物上保証人である大津章が担保に提供している本件競売物件の抵当権に対し債権者に代位し得る範囲は、民法五〇一条により、保証人と物上保証人の頭数に応じ算出した保証人の負担部分を除いた残額について、右大津提供の財産と申立人提供の財産の価格に応じ(本件では同額折半)定めらるべきところ、本件においては右大津も申立人も共に物上保証人と連帯保証人とを兼ねているのであつて、かかる場合それぞれこれを単に一人として頭数を計算するのが相当であり、結局本件においては物上保証人および連帯保証人合計四名として頭数に応じ保証人の負担部分を算出し、松岡徳行、大津敏子の負担部分を控除した残額を均分折半して定むべきである。

そうすると結局申立人は同人の前記弁済額のうち四分の一について本件抵当権を代位行使し、これから弁済を受けうべきである。」

以上により原決定ならびに原決定の維持した配当表は適法かつ正当であつて、これを取消すべき何らのかしも認め得ない。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(弥富春吉 原政俊 境野剛)

抗告の理由

一、抗告人が昭和四〇年六月八日国民金融公庫(以下国金と称す)より債務者株式会社六本松電器で大津章の不動産に対し金弐百万円を連帯保証人となつて借入れた。

然る処国金より請求を受けたので法定上の代位弁済をなし、従つて物件上の抵当権を取得した。

原審は抗告人の他に保証人が参名おるをもつてこの代位弁済は他の保証人に対し求償すべきものであるとの決定であるが、この決定は甚しく不当である。

何故なれば代位弁済によつて国金が債権の担保として受けていた抵当権証書は附記登記により抗告人の権利となつたものであるから抵当権の本旨から言つて当然抗告人の権利に帰着したものである。

この場合他の連帯保証債務者に向つて求償権の行使は出来ない。

それはこの配当金を大津章に渡すなれば他の連帯保証人は、それは担保権の喪失として支払阻止をなすことは理明の理である。

原審はこの点に一考だにおかず唯単に民法第五〇一条の条文を盾にとつて、配当異議に対し却下決定は抗告人の財産権の侵害である。

二、原審は破産者大津章の管財人からは配当要求の申立はしていないのにも不拘、配当要求額を決定されたことはこれは民事訴訟法に示す。

“裁判は言渡されざる事項により裁判をなすことを得ず”と規定してある。

この規定には一考だにせずしてなされた却下決定は不当である。

三、破産者大津章の財産について、破産管財団として権利が及ぶのは、その行使の決定前二ヶ年のものには権利が及ぼすものなれど、本件の如き昭和四一年七月二五日国金が貸付けた債権には破産管財団の権利が及ぼす処はない。

以上説示の如く原審の決定は憲法に示す財産権の侵害でありすべての法令に違反しているので茲に抗告を申出る次第である。

<参考・原審決定>

(福岡地裁昭和四六年(ヲ)第一〇四二号、執行方法に関する異議事件、同四六年九月七日第四民事部決定)

【決定要旨】連帯保証人と物上保証人を兼ねる者相互の間で代位する場合、右の者を単に一人として頭数に応じ計算するのが相当である。

【参照条文】民法四六五条・五〇〇条・五〇一条

申立人

原田清春

右申立人から申立てられた昭和四六年(ヲ)第一〇四二号執行方法に関する異議事件について、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件異議申立を棄却する。

理由

本件申立の要旨は、

「債権者申立人、債務者破産者株式会社六本松電器(破産管財人竹中一太郎)、所有者破産者大津章(破産管財人竹中一太郎)間の福岡地方裁判所昭和四五年(ケ)第一六四号不動産競売事件において、当裁判所は競売代金の配当に関し昭和四六年七月二七日の配当期日のために別紙の配当表を作成したのであるが、抵当権者たる申立人の請求債権の額は代位弁済元本金九五万円、およびこれに対する昭和四一年七月二五日から昭和四三年一月九日までの利息と遅延利息を合わせ代位弁済した金八万九、七三〇円合計金一〇三万九、七三〇円であるにもかかわらず、前記配当表によると申立人の債権額を右代位弁済金の四分の一の割合の金額に削減したうえ申立人の配当額を決定したのは違法である」

というにある。

よつて判断するに、本件記録によると、申立人の本件抵当権はもともと国民金融公庫が債務者株式会社六本松電器(旧商号株式会社博多無線)に対し、昭和四〇年六月八日、月利七厘五毛、損害金日歩四銭、昭和四二年二月二〇日を最終支払期として二〇回分割払の約で申立人、松岡徳行、大津章、大津敏子の四名による連帯保証のもとに金二〇〇万円を貸与した貸金債権を担保するため、右連帯保証人たる大津章および申立人が持分各二分の一の割合で共有する本件三筆の宅地に対し設定されたこと、右貸金のうち主債務者株式会社六本松電器によつて支払がされなかつた残額分を完済するため、連帯保証人たる申立人が、昭和四一年七月二五日から昭和四三年一月九日までの間逐次右償還元金として計金九五万円およびこれに対する所定の利息ならびに遅延利息計金八万九、七三〇円(国民金融公庫作成の代位弁済証明書によつて認める)合計金一〇三万九、七三〇円を代位弁済し、これにより申立人が、右大津の持分に対する本件抵当権の移転を受けて本件不動産競売事件として実行したものであること、その後競売手続が進行し当裁判所は記録に基づいて権利者に対する交付額の計算関係を明らかにするため別紙配当表を作成したこと(申立人は債権額の計算書を提出しない)が認められる。しかして申立人の本件抵当権に対する代位のおよぶ範囲は、民法五〇一条により連帯保証人の一人である右大津に対する申立人の求償権の範囲に限られ、その範囲は民法四六五条一項、四四二条によれば連帯保証人としての負担部分であると解される。そして、前記四名の連帯保証人間に負担部分についての特約の存したことを認めるべき資料のない本件においてはその負担部分は各自平等とみるべく、さらに連帯保証人が物上保証人を兼ねる点についてはこれを単に一人として頭数を計算するのが相当であるから結局申立人は、同人の前記弁済額のうち右大津の負担部分に相当する四分の一の範囲内において、本件抵当権を代位行使しこれから弁済を受けうべきである。

そこで、これに基づいて申立人の請求しうべき債権額を算定するに、

(1) 代位弁済元本金九五万円の四分の一すなわち金二三万七、五〇〇円

(2) 利息ならびに遅延損害金

たゞし右大津が破産者であることは記録上明らかであるから満期になつた最后の二年分に限られ、その基準日は申立人が代位弁済し終つた日である昭和四三年一月九日とするのが相当である。すなわち

(イ) 昭和四一年七月二五日から基準日にいたる五三三日分の代位弁済した利息および延滞利息合計金八万九、七三〇円の四分の一すなわち金二万二、四三二円

(ロ) さらに前記(1)の代位弁済元本金二三万七、五〇〇円に対する基準日の翌日である昭和四三年一月一〇日から同年七月二四日まで一九七日分の月利七厘五毛の割合(大津章作成の昭和四三年一月九日付確認書によつて認める)による遅延損害金一万一、五三六円を含ましめるのが相当である。

以上(1)、(2)((イ)(ロ))の合計額金二七万一、四六八円をもつて申立人の債権の合計額とすべく、本件においては配当金に不足を生じないから申立人は右の債権額全額の配当を受けうべく、当裁判所が別紙配当表においてその旨決定したのは正当である。

よつて、本件異議申立は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。 (三宮康信)

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