福岡高等裁判所 昭和47年(ネ)236号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一控訴人が本件農地を被控訴人らに使用させていたが、この返還を受けるため昭和四一年二月弁護士三角秀一にその引渡についての調停に関する行為を委任したこと、そして、同弁護士が控訴人の代理人として被控訴人らを相手方として熊本地方裁判所に農地返還の調停申立をし(同庁昭和四一年(セ)第三号)、右調停において同年六月九日控訴人主張のような内容の調停が成立したこと、被控訴人島田キミが本件農地につき右調停調書に基づいて控訴人主張のような所有権移転登記をしたこと、さらに控訴人が金三〇万円を受領したことはいずれも当事者間に争いがない。
二そこで、控訴人が三角弁護士に調停を委任した趣旨につき検討する。
1 《省略》
2 <証拠>を綜合すると、控訴人はもと本件農地を島田一郎に使用させていたが、同人の死亡後その妻である被控訴人島田キミがこれを使用していたこと、一方控訴人は西村喜一郎から金六〇万円を借り受けるとともに、これを担保するため本件農地につき抵当権を設定していたが、できれば被控訴人らから本件農地の返還を受けたうえ、これを西村に代物弁済として譲渡したいという意向から、昭和四一年二月四日西村とともにその知合である三角弁護士に本件農地の返還を受けることについて相談した結果、訴訟によるとか、調停によるとか等その方法については特に触れないまま同弁護士に委任することとし、同弁護士を代理人として被控訴人両名を相手方とし、熊本地方裁判所に農地引渡請求事件に関する一切の訴訟行為を委任する旨の委任状(乙第二号証、同第八号証の三)に捺印して交付したこと、そこで同弁護士は調停による解決を相当と考え、同月八日右委任状を添付して熊本地方裁判所に被控訴人らを相手方として本件農地引渡の農事調停申立書を提出したこと、右調停期日は五回に亘つて開かれ、その都度同弁護士は控訴人の代理人として、西村を伴つて調停に臨み、本件農地の引渡を強く求めたが、その返還を受けることが困難な状勢になり、かえつて調停委員から本件農地を被控訴人らに売却するよう勧められたので、控訴人が東京にいることや西村がいずれ本件土地を代物弁済で取得する立場にあり、控訴人から一切を委されているものと考え、同人と相談しただけで、直接控訴人の意思を確認しないまま、本件農地を被控訴人島田キミに売り渡す旨の前記調停を成立させるに至つたこと、そして同弁護士は同年七月一五日を過ぎたころ被控訴人らから調停条項の履行として金三〇万円を受領し、同月二〇日ごろ西村とともに訪れた控訴人に対して調停成立の旨を告げたうえ、右の金三〇万円を手渡したが、その際控訴人は何ら異議をとどめることなくこれを受領したこと、ところが調停条項の第二回目の履行として支払われるべき金八〇万円のうち同弁護士は金三〇万円しか受領せず、残金五〇万円は翌四二年二月一〇日受領したのであるが、この前後から控訴人は本件調停に不満を示し始め、遂には本件調停の無効を唱えるに至り、当初の金三〇万円も本件調停の履行ではなく、本件農地使用の礼金であると言うようになつて、二度目の金三〇万円は受領を渋つたので、同弁護士はやむなくこれを被控訴人らに預けるという口実で返還したこと、結局控訴人は、同弁護士に対し本件農地の引渡について委任したにもかかわらず、売却してしまつたのは代理権の範囲外であるというのが本件調停を無効と考える主たる根拠であることを認めることができる。
<証拠判断省略>
3 以上認定の諸事実に前記争いのない事実を併せ考えるとき、控訴人が三角弁護士に委任した趣旨は、被控訴人らに対して本件農地の引渡を求めるのが主眼であつたことは勿論であるが、引渡以外の調停には一切応ずるべきではないとまで明確にその範囲を制限したものと認めることはできず、むしろ、委任者たる控訴人の求めるところに添つて努力してもなおそれが実現できない場合には、控訴人の利益になる次善の方法にも対処できる権限をも含んでいたと見るのが相当であるのみならず、たとえ同弁護士の代理権の範囲を制限したものであつたとしても、弁護士たる訴訟代理人の権限の範囲は法定され、これを制限することができないという民事訴訟法第八一条第三項の規定は調停の場合にも準用するのが相当であると解すべきである。
(池畑祐治 桑原宗朝 高田郁郎)