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福岡高等裁判所 昭和48年(ネ)504号 判決 1974年4月24日

控訴人

碩安雄

右訴訟代理人

斉藤鳩彦

被控訴人

川崎広記

右訴訟代理人

西辻孝吉

主文

原判決を取り消す。

本件を福岡地方裁判所大牟田支部に差し戻す。

事実《省略》

理由

被控訴人が昭和四三年一二月控訴人に対する貸金債権金一五〇万円およびこれに対する遅延損害金債権を請求金額として、控訴人所有の原判決別紙目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)に対する抵当権に基づいて、福岡地方裁判所大牟田支部に本件不動産の競売(同庁昭和四三年(ケ)第五一号)を申し立て、同裁判所が同月二七目競売開始決定をしたこと、被控訴人が昭和四五年四月二七日代金一二七万円でこれを一括競落し、同月三〇日競落許可決定を得、同年八月一七日競落代金を納付して同月二六日所有権移転登記手続を了し、同年九月一八日控訴人に対する不動産引渡命令を得たこと、控訴人が被担保債権を弁済し抵当権は存在しないから、右競落許可決定は無効であり、本件不動産の所有権は控訴人から被控訴人に移転していないことを理由に、被控訴人を相手方として、本件不動産の所有権および所有権移転登記抹消登記請求権を被保全権利とする右引渡命令の執行停止および本件不動産の処分禁止の仮処分(同庁昭和四六年(ヨ)第三一号)を申請し、同裁判所が昭和四六年九月三〇日被控訴人に対し「右不動産引渡命令の執行を停止する。被控訴人は本件不動産につき譲渡、質権抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。」旨の本件仮処分決定をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

ところで、不動産引渡命令は競売手続に付随する執行処分であるから、右引渡命令に対して不服のある場合には、民訴法五四四条による執行方法の異議あるいは同法五五八条による即時抗告を申し立てるとともに同法五二二条二項あるいは同法四一八条二項による仮の処分として右引渡命令の執行停止を求められると解されるが、右異議ならびに抗告理由は、引渡命令自体のかし、すなわち、競落許可決定の未確定、競落代金の未納付、引渡命令の際の審理手続の違法あるいは相当期間経過後の申立等手続上のかしに限られるのであつて、抵当権の不存在あるいは無効等実体上の理由を主張して競落人の所有権取得を争う場合には、所有権確認の訴等を本案として、競落不動産引渡命令の執行停止の仮処分を求め得るものと解するのが相当である。

しかるに、原審は不動産引渡命令の執行停止の仮処分申請に対しては、抵当権の不存在等を理由とする場合においても、一般の仮処分を求めることができないとの見解のもとに、また処分禁止の仮処分申請に対してはなんら理由を示すことなく、控訴人の本件仮処分申請を不適法として、さきになされた本件仮処分決定を取り消し、右仮処分申請を却下しているのである。

よつて、原判決は不当であるから、民訴法三八八条によりこれを取り消し、本件を原審に差し戻すこととし主文のとおり判決する。

(原田一隆 塩田駿一 松島茂敏)

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