大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和49年(ネ)138号 判決 1975年1月30日

控訴人(選定当事者) 池本三治郎

被控訴人 若松港運株式会社

右代表者代表取締役 石元重行

<ほか七名>

右被控訴人八名訴訟代理人弁護士 二村正己

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

当裁判所も、控訴人の本訴請求中、被控訴人村上繁吉、同石元重行、同秋吉隆敏、同岡田コフジ、同岡田正、同岡田園子、同荒木節子に対する訴、及び被控訴会社に対する昭和二九年五月二一日開催の同会社株主総会の資本減少決議の無効を求める訴をそれぞれ不適法、被控訴会社に対するその余の請求も失当として排斥すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の理由記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

原判決一一枚目表一行目以降一二枚目表一行目までを、「そこで按ずるに、昭和二四年一一月の資本減少以降、被控訴会社の発行済株式総数が一九万四、四一八株であり、そのうち、少くとも原判決別表中発送電興業、関門港運、大蔵大臣を株主とする分を除く一五万五、七八九株、その後昭和二九年三月まで、同様に同表中右三者名義の株式を除く分が被控訴会社の自己株式であったことは当事者間に争いがなく、商法上、議決権なき株式の総数が発行済株式総数の四分の一を超え得ないとされていること、株主総会における商法第三四三条の特別決議に発行済株式総数の三分の一以上、同法二三九条第一項の一般決議にも同じく四分の一以上の各議決権株式を有する株主の承認がなければならないことは、いずれも控訴人主張のとおりである。

控訴人は、被控訴会社の自己株式が商法上許されないものである旨主張するところ、商法第二一〇条により株式会社における自己株式の取得が原則として禁止されていることは控訴人主張のとおりであるが、いうまでもなく、これは会社資産の充実を害するおそれがある等の理由によるものであって、そのおそれがない無償取得の場合や、株式消却のため等同条各号所定の場合には、例外的に自己株式の取得が許されているのである。ところで、控訴人の主張によれば、昭和二四年一一月減資の際消却の対象にした七万七、二六〇株を含む被控訴会社の自己株式一九万三、〇七九株は、被控訴会社が昭和二四年以前に消却のため買入れたもの、というのであるから、右減資後の残り一一万五、八一九株については、一応消却のためのものとして、取得が許される場合に該当すると解する余地があり、その余の分についても、本件各自己株式の取得が商法上許されないものであることを肯認するに足りる証拠は存しない。

しかして、まず、商法第二四二条第一項に所謂議決権なき株式は、利益配当等につき優先的内容をもつ反面、議決権のない株式として発行されたものをいい、本件のような自己株式を含まないと解せられるので、同条第二項により発行済株式総数の四分の一を超え得ないとする制限も、自己株式の場合にはその適用がないのであり、この制限を超えて自己株式を保有する被控訴会社の実態が右商法の規定に違反し、ひいて被控訴会社の株主総会が無効である、とする控訴人の主張部分は、右前提において採用できないので、理由がない。

次に、自己株式は、それが例外的に取得を許される場合、同法第二四一条第二項によりその議決権が休止されるのであるから、前記同法第二四〇条第一項により議決権なきものとして発行された株式と同様、株主総会の定足数における発行済株式総数、或いは出席株式中の議決権株式総数のなかに算入されないと解するのが相当であり、これが算入されることを前提として、被控訴会社の株主総会が右保有する自己株式の故に法的に成立し得ないとする控訴人の主張も、右前提に誤りがあるといわざるを得ず、採用することができない。

もっとも、控訴人は、被控訴人等が右議決権を休止された筈の自己株式を使用して、本件各株主総会を開催し、決議した旨主張するので、この主張中には、各株主総会開催時における発行済株式総数から、当時保有の自己株式数を控除した株式数を基礎として計算しても、各総会の開催、決議方法が商法に違反し、無効である、との主張を含むものとみるのが相当である。

そして、≪証拠省略≫によれば、既に出訴期間の経過している昭和二九年五月二一日の資本減少決議の際の総会議事録に、発行済株式総数一九万四、四一八株中一八名一八万五、四二六株の株主が出席(内委任状による出席八名一万〇、四七八株)し、各議案を全員一致で可決したとの記載があり、原審における控訴人本人尋問の結果では、右昭和二九年五月の減資以前、発行済株式総数を基準として常に八〇パーセント以上の出席があった、というのであるから、これ等によると、被控訴会社では、右昭和二九年五月の減資に至るまでの間、議決権のない自己株式が株主総会の定足数や決議に供されたと窺う余地がないではない。

しかし、被控訴人等は、昭和二六年三月以降昭和四六年三月までの株主総会における出席議決権株式数を別表(二)記載のように主張しているうえ、被控訴会社が右昭和二九年五月の減資により自己株式の消却を終えたのちである昭和二九年一一月三〇日と昭和三九年一二月一一日の総会を除けば、出席株式数、議決権行使の株式数を正確に認定すべき証拠が存せず、昭和二九年五月の減資以前各総会の開催や決議に供された自己株式の数はもとより、自己株式を控除した残余の議決権株式による定足数や決議方法が前記商法の規定に違反するか否かも、これを認定することができないので、右控訴人の主張も、結局、その証明がないことに帰するといわざるを得ない。

なお、控訴人は、被控訴会社の発行済株式総数中自己株式以外にも、商法第二三九条第五項、第二四〇条第二項の特別利害関係による議決権なき株式がある旨主張するが、特別利害関係の有無は個々の議案との関係で具体的に決すべく、例えば、取締役等の選任、解任を審議する株主総会において、その候補者たる株主の如きは右特別利害関係者に当らないところ、控訴人の右主張は、その特別利害関係の内容を具体的に明示しないので、到底採用の限りでなく、また、被控訴会社が内容不備の総会議事録を作成したり、総会を開かないで虚偽の議事録を捏造した等という控訴人の主張についても、そのような事実を認めるに足りる証拠が存せず、以上控訴人の主張はすべて採用することができない。」と改める。

控訴人は、更に、被控訴会社の自己株式につき、その全部を一旦全株主に無償交付したうえ、買取消却すべきであり、昭和二四年一一月の減資以前取得した一九万三、〇七九株の自己株式についても、右減資の際、その三九・五パーセントに当る七万七、二六〇株を分離派株主に無償交付したのであるから、控訴人等残留株主にも残余を同様に無償交付すべきであるとの趣旨の主張をするが、自己株式が経済的に会社の資産であり、賃借対照表上流動資産の部に計上されるべき性質のものであることは控訴人主張のとおりとしても、自己株式の処分は、取得の目的に従って行なわれるに止どまり、消却の場合は、株主名簿からの除却、その他会社の意思表示により消却の効果を生じ、残存株主の会社資産に対する割合的持分が増加する関係にあるのである。

被控訴会社が昭和二四年一一月の減資の際、分離派株主に対し、当時取得していた自己株式一九万三、〇七九株中三九・五パーセントを無償交付し、これと分離派株主の株式五万二、七四〇株、合計一三万株を買取消却したことについては、控訴人の主張並びに弁論の全趣旨により、分離派株主が被控訴会社を脱退するに際し、脱退株主に対する所謂残余財産の分配として、会社資産に属する右自己株式を配分したものであることが容易に推認せられ、残留株主である控訴人等に同様の分配がなかったからといって違法とは断じ得ない。

また、被控訴人等が昭和二四年一一月の減資以降右自己株式の一部を横領し、或いは不正処分した等という控訴人の主張については、これに副う≪証拠省略≫以外に認定するに足りる証拠が存しないところ、右証拠はたやすく信用しがたく、また右主張もそれだけで直ちに本件各株主総会の決議無効事由に当るとはいい得ず、他に右各決議無効を肯認するに足りる主張並びに立証は存しない。

よって、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 亀川清 裁判官 美山和義 田中貞和)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例