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福岡高等裁判所 昭和49年(ネ)17号 判決 1974年12月18日

控訴人(原告)

松成スズヲ

ほか五名

被控訴人(被告)

ニユージヤパンレンタカー株式会社

ほか一名

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは連帯して、控訴人松成スズヲに対し金一三万八、八九九円および内金一一万八、八九九円に対する昭和四六年一二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、控訴人松成修一に対し金六万五、一〇二円および内金五万五、一〇二円に対する右と同一の期間、割合による金員を、その余の控訴人らに対し金四万九、二一三円および内金四万一、二一三円に対する右と同一の期間、割合による金員をそれぞれ支払え。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、これを一〇分し、その九を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの連帯負担とする。

この判決は第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は「原判決を取消す。被控訴人らは連帯して、控訴人松成スズヲに対し、金一五四万七、五〇〇円およびその余の控訴人らに対し金四三万三、三〇〇円、および控訴人ら全員につき金三五万四、〇〇〇円に対する昭和四六年一二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人木下敏幸は「本件控訴並びに控訴人松成スズヲの控訴審における拡張部分の請求を棄却する。控訴費用は、控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人ニユージヤパンレンタカー株式会社(以下、単に被控訴会社という。)代表者は本件口頭弁論期日に出頭しないので、その陳述したものと看做すべき答弁書によれば「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めるというのである。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は次に述べるほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

控訴人ら代理人の主張

一  原審における控訴人らの損害額の主張すなわち原判決事実欄の請求原因2損害額の部分(原判決三枚目裏五行目から同五枚目裏三行目まで)を次のとおり改める。

1  逸失利益

亡松成政夫は本件事故当時個人タクシー業を営んでいたもので、昭和四五年中の所得は少くとも金四七万二、九八一円以上であつたが、当時の同人の生活費は一か月金一万五、〇〇〇円(年間一八万円)を要したものと思われるので、これを控除すると、同人の同年中の得べかりし利益は金二九万二、九八一円となるところ、同人は明治四一年二月一二日生れで当時六三歳であつたから、厚生省統計による平均余命は一四年であり、同人は当時極めて健康体であつたから、労働可能年数をその半分の七年として新ホフマン方式により中間利息を控除してその現価を計算すると、右期間中合計金一七二万〇、〇五八円の得べかりし利益を失い、これと同額の損害を被つたものである。

2  慰藉料

亡松成政夫は当時極めて健康体で、仕事に精励し、同人の存在は近親者にとつては精神的な支柱であつた。特に同人は妻である控訴人松成スズヲにとつてはかけがえのない存在で、しかも同控訴人はすでに年老いていて、今更他に就職することも再婚することもできず、その精神的苦痛ははかり知れないものがある。しかして、本件事故による控訴人らの慰藉料は控訴人松成スズヲにつき金二五〇万円、その余の控訴人らにつき各金七〇万円とするのが相当である。

3  車両関係損害

本件事故により松成政夫運転の自動車(被害車)は大破し、使用に耐えなくなつたので、大分トヨペツト株式会社にその修理費を見積らせたところ、その修理に金四七万五、八〇五円を要するとのことであつたので、修理することを止め、右会社に代金一万三、〇〇〇円でスクラツプとして売却した、しかして、本件被害車の損害は右金四七万五、八〇五円を下らないものである。

なお、控訴人松成修一は右被害車を処分するため、河野モーターにレツカー車による牽引を依頼し、その費用として金五、〇〇〇円を支出したから、右費用も本件事故によつて生じた損害である。

4  葬儀費

控訴人松成修一は亡松成政夫の葬儀を執行し、その費用として金三一万三、八三〇円を支出した。

5  弁護士費用

控訴人らは弁護士竹中知之に委任して本件訴訟を提起し、昭和四七年一月三〇日、その手数料として金一〇万円を支払い、一審で敗訴したため、二審の訴訟を弁護士米田太市に委任し、昭和四九年一月五日、その手数料として金一〇万円を支払つたので、弁護士費用として取りあえず合計金二〇万円の支払を求める。

以上1ないし5の合計金八七一万四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)が本件事故によつて被つた損害の総額であるが、控訴人らは保険会社から自動車損害賠償責任保険金として金五〇〇万円の支給を受けたので、これを右総額より控除すると、その残額は金三七一万四、〇〇〇円となる。そこで、この金額を控訴人らの前記慰藉料請求額の割合に按分すると、控訴人松成スズヲの請求しうべき損害額は金一五四万七、五〇〇円、その余の控訴人らの請求しうべき損害額は各金四三万三、三〇〇円となる。

よつて、控訴人らは被控訴人らに対し、控訴人松成スズヲにつき、右金一五四万七、五〇〇円、その余の控訴人らにつき各金四三万三、三〇〇円および控訴人ら全員につき前記金三七一万四、〇〇〇円より弁護士費用金二〇万円を控除した残金三五一万四、〇〇〇円に対する本件事故発生の日の翌日たる昭和四六年一二月二七日より支払ずみまで、年五分の割合による遅延損害金の各連帯支払を求める。

二  被控訴人木下敏幸の当審における主張事実はこれを認める。

被控訴人木下敏幸の主張

同被控訴人は、亡松成政夫の葬儀の日に、事故当時本件加害車を運転していた三好正広および同被控訴人とともに加害車に同乗していた野口和広とともに、亡松成政夫の葬儀費として金一〇万円を控訴人松成修一に交付したから、右金員は当然同控訴人の支出した葬儀費より控除されるべきである。

証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

被控訴会社が被控訴人木下に貸与し、三好正広が運転していた小型乗用自動車(北九州市五五さ七八三七)が昭和四六年一二月二六日午後二時四五分頃、大分県大分郡湯布院町大字川上字野々草九州横断道路上において松成政夫運転の自動車と衝突し、同人が死亡したことは当事者間に争いがない。

二  被控訴人らの責任

1  控訴人らと被控訴人木下間においては成立に争いがなく、控訴人らと被控訴会社間においては〔証拠略〕によれば、被控訴会社はその所有する自動車(レンタカー)の賃貸を業とするものであるが、本件事故当日、偶々高田工業所の同じ職場に勤めていた被控訴人木下、前記三好正広および野口和広の三名は交互に運転してドライブをしようと企て、三名共同で被控訴会社に対して自動車の借用方を申入れたところ、被控訴会社はこれに応じ、右三名に対し本件自動車(加害車)を賃貸した(ただし、賃借人名義は被控訴人木下とした)ので、右三名はこれに同乗し、まず被控訴人木下が北九州市より中津市まで運転し、次に三好正広が同被控訴人に代つて運転し、同市より別府を経て、熊本方面に向け進行中、前記九州横断道路上のカーブに差し掛つたところで、前の車を追い超すべく、時速約七〇ないし七五粁の速度でセンターラインを超えて進行したため、最初に対向してくる首藤健三の運転する普通乗用自動車(大分五五さ四八九〇)の右側面に接触し、次いで、同車の後を進行して来た松成政夫運転の普通乗用自動車(大分五こ一二二)の右前部に激突したものであることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そこで被控訴人らの責任について検討するに、自動車損害賠償保障法第三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者(すなわち運行供用者)とは、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者と解すべきところ、〔証拠略〕によれば、被控訴会社から自動車(レンタカー)を借り受けるには、運転免許証を有し、入会金一、〇〇〇円を支払つてドライブクラブの会員になること(その期間は一年)が必要とされ、賃貸料を支払う際には、予定使用時間を申し出ることになつており、また運行にあたつては、会員証を携帯することが義務づけられ、これを他に貸与したり譲渡したりしてはならないことになつていることが認められるほか、〔証拠略〕によれば、被控訴人木下は使用時間一〇時間につき賃貸料六、〇〇〇円を支払つていることが認められる。

右事実によれば、被控訴会社は貸与に際し、自動車の利用申込者につき運転免許の有無を審査し、使用時間、運転者等につき制約を付し、しかも短期間に返還が予定されていることが認められるから、これらの点を考慮すれば、借受人たる被控訴人木下のみならず貸与者たる被控訴会社にも運行支配が認められるといつて差支えなく、かゝる認定は、先に説示した被控訴人木下らの本件自動車借受けおよび運行の経緯、態様よりすれば、本件事故当時の運転者が同被控訴人の同乗者たる三好正広であつた事実によつて何ら左右されるものではない。そしてまた、被控訴会社は、被控訴人木下らのごとく自動車の運行によつて直接自己の利便を図るものでないとはいえ、賃借人が自動車を運行することによつて使用時間に応じた賃貸料を取得するのであり、その点からいえば、自動車の運行により利益を享受しているといいうるし、しかも前記賃貸料は単なる損料ではなく、それを上回る相当高額なものであるといえるから、運行利益の点からいつても、借受人たる被控訴人木下のみならず、貸与者たる被控訴会社に対しても運行供用者責任を認めるのが相当である。そして、このように解してこそ、自動車という社会的には有用ではあるが、危険性をも内蔵する利器を利用して営業を営む者にも、損失を負担させるべきであるという危険責任および報償責任の考え方に沿うものである。

そうだとすると、被控訴人木下のみならず、被控訴会社も本件事故につき自動車損害賠償保障法第三条による運行供用者としての責任を免れないものといわねばならない。

三  損害(弁護士費用を除く)

1  逸失利益

控訴人らと被控訴人木下間においては成立に争いがなく、控訴人らと被控訴会社間においては公文書であるから〔証拠略〕によれば、亡松成政夫は本件事故当時個人タクシーを営んでいたもので、昭和四五年中の所得は金四七万二、九八一円であつたことが認められ、また同人の当時の生活費は右所得の四〇パーセントであると認めるのが相当であるから、右所得額から年間の生活費一八万九、一九二円四〇銭を控除すると、同人の当時の一年間の得べかりし利益は金二八万三、七八八円(円未満切捨)となる。そして、控訴人と被控訴人木下間においては成立に争いがなく、控訴人らと被控訴会社間においては公文書であるから〔証拠略〕によれば、亡松成政夫は明治四一年二月一二日生れで、事故当時満六三歳一〇か月であつたことが認められるので、同人は、当時の健康状態によれば、本件事故がなかつたならば、なお四年間は右タクシー業を営むことができたものというべきであるから、同人の得べかりし利益の事故時の現価を新ホフマン式により計算すると、金一〇一万一、五〇五円(283,788×3.5643≒1,011,505)となり、これを相続分に従つて配分すると控訴人松成スズヲは金三三万七、一六八円(1,011,505×1/3≒337,168)、その余の控訴人らは各金一三万四、八六七円(1,011,505×2/3×1/5≒134,867)となる。

2  慰藉料

〔証拠略〕によれば、控訴人松成スズヲは亡松成政失の妻で、事故当時満六二歳であつたこと、その余の控訴人らはいずれも同人の子で、事故当時すでに成年に達しいずれも結婚してそれぞれの生計を営んでいたことが認められ、その他前記本件事故の態様、亡松成政夫の当時の年齢、職業等本件にあらわれた一切の事情を考慮すれば、控訴人らの精神的苦痛に対する慰藉料は、控訴人松成スズヲにおいて金一五〇万円、その余の控訴人らにおいて各金五〇万円ずつと認めるのが相当である。

3  車両関係損害

(一)  〔証拠略〕によれば、控訴人松成修一は本件事故直後、本件被害者を修理すべく、大分トヨペツト株式会社にその修理費を見積らせたところ、破損がひどく、主要な構造部分に重大な損傷があり、修理に金四七万五、八〇五円を費してもなおもと通りには修復できないとのことであつたので、修理することを止め、右会社にスクラツプとして金一万三、〇〇〇円で売却したことが認められるが、車両破損による損害は車両の事故前後の価額の差額を限度とするのが相当であるから、これを超える分は否定するのを相当とするところ、〔証拠略〕によれば、本件被害車(車名コロナ、年式四五型式RT80D)は亡松成政夫が昭和四五年六月代金八〇万三、〇〇〇円(カークーラー代を含む)で購入したものであること、そして、その耐用年数は三年で、年間償却率は〇・五三六であることが認められるから、本件被害車の事故当時の価額は金一二万一、五二一円(<省略>)となる〔証拠略〕によつて認められる本件被害車がタクシー用に使用され、すでに走行距離は八万二、七五五粁にも達していた事実、その他前記認定の車種・年式・型等に照せば、事故当時における中古車市場における取引価額も、右金額を上回ることはないものと推認される。)。しかして、本件の車両破損による損害は右価額より前記売却代金一万三、〇〇〇円を控除した金一〇万八、五二一円となる。そこで、これを控訴人らの相続分に従つて配分すれば、控訴人松成スズヲにおいて、金三万六、一七三円(108,521×1/3≒36,173)、その余の控訴人らにおいて各金一万四、四六九円(108,521×2/3×1/5=14,489)となる。

(二)  なお、〔証拠略〕によれば控訴人松成修一は河野モーターに依頼して、本件被害車を事故現場より大分トヨペツト株式会社にレツカー車により牽引して貰い、その費用として、金五、〇〇〇円を支出したことが認められるから、この費用も亦、本件事故と相当因果関係にある損害であるというべきである。

4  葬儀費

〔証拠略〕によれば、控訴人松成修一は亡松成政夫の葬儀を泉都葬祭社に依頼し、その葬儀費として金三一万三、八三〇円を支払つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかしながら、控訴人松成修一が、右葬儀の日に、事故当時、本件加害車に同乗していた被控訴人木下ほか二名から、葬儀費として金一〇万円を受領したことは当事者間に争いがないから、右葬儀費から金一〇万円を控除した残金二一万三、八三〇円が同控訴人の被つた損害となる。

四  損害の填補

以上控訴人らの各損害額の合計は控訴人松成スズヲにつき金一八七万三、三四一円、控訴人松成修一につき金八六万八、一六六円、その余の控訴人らにつき各金六四万九、三三六円となるところ、控訴人らが自動車損害賠償責任保険から金五〇〇万円の支給を受けたことは控訴人らの自認するところであるので、特段の事情の認められない本件においては、控訴人らは保険金に対してそれぞれの損害額に応じた持分を有するものと解すべきであるから、右保険金から控訴人松成スズヲは金一七五万四、四四二円(5,000,000×1,873,341/5,338,851≒1,754,442)、控訴人松成修一は金八一万三、〇六四円(5,000,000×868,166/5,338,851≒813,064)その余の控訴人らは各金六〇万八、一二三円(5,000,000×649,336/5,338,851≒608,123)の各弁済を受けたものというべきであるから、右損害の残額は控訴人松成スズヲが金一一万八、八九九円、控訴人松成修一が金五万五、一〇二円、その余の控訴人らが各金四万一、二一三円となる。

五  弁護士費用

控訴人らは弁護士竹中知之に委任して本件訴訟を提起するに至つたが、敗訴したため、弁護士米田太市に委任して控訴し、目下訴訟係属中であることは記録上明らかであるところ、〔証拠略〕によれば、控訴人らは弁護士竹中知之に対し昭和四七年一月三〇日一審の手数料として金一〇万円を支払つたことが認められるが、本件の請求認容額、本件事案の難易等本件訴訟にあらわれた一切の事情を勘案すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用としては、控訴人松成スズヲにつき金二万円、控訴人松成修一につき金一万円その余の控訴人らにつき金八、〇〇〇円をもつて相当と認める。

六  そうだとすると、被控訴人らは連帯して、控訴人松成スズヲに対し金一三万八、八九九円、および内金一一万八、八九九円に対する本件事故発生の日の翌日たる昭和四六年一二月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、控訴人松成修一に対し、金六万五、一〇二円および内金五万五、一〇二円に対する右と同一の期間、割合による遅延損害金を、その余の控訴人らに対し各金四万九、二一三円および各内金四万一、二一三円に対する右と同一の期間、割合による遅延損害金をそれぞれ支払うべき義務あるものというべきである。

よつて控訴人らの本訴請求は右の限度においてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべく、右と異なる原判決はこれを変更すべきものとし、民訴法第三八六条、第九六条、第八九条、第九二条本文、第九三条第一項、第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田一隆 鍬守正一 松島茂敏)

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