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福岡高等裁判所 昭和49年(ネ)192号 判決 1976年7月14日

主文

原判決中、控訴人神村正臣、同神村ミツノの敗訴部分をつぎのとおり変更する。

被控訴人らは、各自、控訴人神村正臣、同神村ミツノに対し各金一六三万〇、一二五円およびこれに対する昭和五一年一月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人神村正臣、同神村ミツノのその余の請求を棄却する。

控訴人神村文太郎、同国貞栄子、同神村妙子、同神村正見、同徳永友子の各控訴を棄却する。

訴訟費用は、控訴人神村正臣、同神村ミツノと被控訴人らとの間に生じた部分は第一、二審を通じ、これを三分し、その一を控訴人神村正臣、同神村ミツノの負担、その余を被控訴人らの負担とし、その余の控訴人らと被控訴人らとの間に生じた控訴費用はその余の控訴人らの負担とする。

この判決第二項は仮に執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は「原判決を取消す。被控訴人らは、各自、控訴人神村正臣、同神村ミツノに対し各金六九七万二、四九一円、同神村文太郎、同国貞栄子、同神村妙子、同神村正見、同徳永友子に対し各金三〇万円および右各金に対する昭和四三年一月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決(控訴人神村正臣、同神村ミツノは当審において請求の拡張)並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人ら代理人(被控訴人鹿島建設株式会社を以下、単に被控訴人鹿島と、被控訴人大石塗装株式会社を以下、単に被控訴人大石という。)は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次に附加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人らの主張

1  亡神村平生の本件墜落事故は、同人の過失に基くものではなく、被控訴人らの労働災害防止のための安全保証義務違反の結果によるものである。

右神村平生が本件事故当時、従事していたのは、地上三〇米の地点での高所作業であつて、右作業に伴う労働者の極度の緊張や疲労など労働衛生上の特異性を考えると、被控訴人らは始業から終業に至るまで、右高所作業に伴う不測の事態の発生を防止するに必要な作業場の点検、作業員の動作についての監視、高所作業場と地上との必要な連絡、作業遂行上の合理的で、より安全な指示などして事故発生防止に必要で、充分な注意義務を尽くさねばならない。神村らは作業中、使用するペンキが無くなれば、予め作業現場近くの資材置場に揚げてあるペンキをもつて補給する手順であるから、補給のためには作業現場から補給場所まで移動しなければならない。しかるに移動場所には命綱を利用できる設備がなされていない。被控訴人らは毎日始業前点検し、当日もその点検により異常がなかつたというが、神村らが働いていた塗装現場は二五〇〇平方米に及ぶ広範囲であつて、これをわずか一五分位で終了したというのであるから、仮に養生網に異常があつてもこれを発見しうるとも考えられないし、そもそもその点検が毎日確実になされていたかどうかも疑わしいので、被控訴人らの安全保証義務が履行されていたと解するのは相当でない。

2  亡神村が、自ら開披した養生網の開口部から墜落したと推論するのは合理的でない。

右推論は始業前点検により、開口部がなかつたことが確認されていることを前提とし、(イ)、神村の墜落地点の直近部に使用中の一斗缶があつたこと、(ロ)、神村が使用していた小量の塗料の入つた小出し缶が転がつていたこと、(ハ)、本件事故は作業開始後三〇分ないし四〇分頃で、補給の時刻であつたこと、(二)、以前にも移動して塗料補給する労を省くため、地上の一斗缶から補給を受けていた者がいたこと等から結論づけるものである。しかしながら、始業前点検が充分であつたかどうかは前記のとおり疑問であつて、神村の墜落地点に小出し缶および一斗缶があつた点も必ずしも明らかでない。地上からの補給をするとすれば、地上においてこれを手伝う者が絶対に必要なのにその存在が不明で、警察および関係者の調査の結果によつても判明していない。且つ小出し缶をおろす紐も必要なのに右小出し缶には、紐がなく、現場にもその存在が認められない。又養生網の結束部は非常に強いので、これを開ける場合は、必要な道具を必要とするに、神村がかゝる道具を持つて塗装現場にあがつた形跡はなく、且つ落下現場にもないので、右神村が養生網を開披したという積極的な資料は全く存在しないというべきであるから、前記推論が合理的根拠を欠くことは明らかである。

二  控訴人神村正臣、同神村ミツノの当審における請求の拡張

1  原判決四枚目裏一行目から五枚目表四行目までを次のとおり訂正する。

(一)  控訴人神村正臣、同神村ミツノの損害

(イ) 消極的損害

(1) 亡神村の本件事故当時一日の賃金は金二、八〇〇円で、一ケ月二五日稼働し、生活費をその二分の一として計算すると、昭和四三年一月二二日から昭和四八年三月二一日までの六二ケ月間の得べかりし利益は金二一七万円となる。

<省略>

(2) 昭和四八年三月の福岡県下の塗装工の平均賃金は一日金三、二〇〇円で、同年三月二二日から昭和五一年一月二一日までの三四ケ月を前同様の方法で計置すると、その間の得べかりし利益は金一三六万円となる。

<省略>

(3) 亡神村は死亡当時三一才(昭和一一年一〇月三〇日生)であり、塗装工として六五才まで就労可能とすると昭和五一年一月(満三九才となる)から二六年間就労できる。昭和五一年一月現在の福岡県下の塗装工の平均賃金は一日金六、〇四〇円であるから六五才までの二六年間を前記同様の方法を基礎とし、その得べかりし利益をホフマン方式により現在値を出すと金一四八三万九、三七四円となる。

<省略>

(4) 以上のとおり亡神村の得べかりし利益の総計は金一八三六万九、三七四円となる。

ところが、控訴人神村正臣と同神村ミツノは、労働者災害補償保険法により、遺族補償年金六九二万四、三九一円の支給を受けたので、右金額を前記総計金額から差引くと金一一四四万四、九八三円となるので、右両名は亡神村平生の両親として右金額の二分の一に当る各金五七二万二、四九一円を相続によりそれぞれ取得した。

2  原判決五枚目表末行から同裏四行目「訴に及ぶ。」までを次のとおり訂正する。

四、よつて、各被控訴人に対し、控訴人神村正臣と同神村ミツノは各金六九七万二、四九一円、その余の控訴人らは各金三〇万円および右各金員に対する事故発生の日の翌日である昭和四三年一月二三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。

三  (証拠関係省略)

理由

一  原判決の理由冒頭から原判決八枚目裏四行目に至るまでの原審の説示(当事者間に争いのない事実および本件事故発生の原因)は、左記のとおり附加するほかは、当裁判所もこれを正当と判断するものであつて、その理由記載をこゝに引用する。

原判決六枚目裏六行目「成立の真正を認める乙第六号証」の次に「成立に争いのない乙第二号証、第二一号証の一乃至六」を、同九行目「の結果」の次に「当審証人佐脇松男、同神嵜光、同古田一夫、同島野良之右の各証言(但し右証人古田一夫の供述中、後記認定に反する部分は信用しない。)」を各附加する。

二  次に被控訴人らの責任原因について判断する。

債務不履行責任

ところで、控訴人らは亡神村平生の墜落死は被控訴人らの労働契約上の安全保証債務不履行の結果生じたと主張するのに対し、被控訴人らは右墜落は専ら神村平生自身の過失によるもので、被控訴人らの責に帰すべき事由はない旨争うので判断する。

(一)  亡神村平生と被控訴人大石との間に雇傭契約が存すること、被控訴人大石が被控訴人鹿島の下請人であるから、亡神村と右鹿島との間には直接の雇傭契約が存在しないことは前記のとおり当事者間に争いがない。

一般に雇傭契約は労務提供と報酬支払を基本的内容とする双務契約であるが、右雇傭契約に含まれる使用者の義務は単に報酬支払義務に尽きるものではなく、労働者が使用者の指定する場所において、且つその提供する設備、機械、器具等を用いて稼働する場合、右設備等から生ずる労働災害全般を防止し、労働者を完全に就労せしむべき安全保証義務をも含むものといわねばならない。この点について労働基準法、労働安全衛生規則その他の労働保護法が行政的監督と刑事罰をもつて使用者に対し、労働災害からの安全保護義務の履行を公法上強制するのと法的側面を異にするが、右規定の趣旨からも前記のとおり雇傭契約上の安全保証義務を肯認しうるものである。

(二)  以上の理由により亡神村の使用者である被控訴人大石に前記安全保証義務の存在することは明らかである。

ところが、使用者の前記安全保証義務は独り雇傭契約にのみ存するものではなく、仮令それが部分的にせよ事実上雇傭契約に類似する使用従属の関係が存する場合、即ち労働者が、法形式としては請負人(下請負人)と雇傭契約を締結したにすぎず、注文者(元請負人)とは直接の雇傭契約を締結したものではないとしても、注文者、請負人間の請負契約を媒介として事実上、注文者から、作業につき、場所、設備、器具類の提供を受け、且つ注文者から直接指揮監督を受け、請負人が組織的、外形的に注文者の一部門の如き密接な関係を有し、請負人の工事実施については両者が共同してその安全管理に当り、請負人の労働者の安全確保のためには、注文者の協力並びに指揮監督が不可欠と考えられ、実質上請負人の被用者たる労働者と注文者との間に、使用者、被使用者の関係と同視しできるような経済的、社会的関係が認められる場合には注文者は請負人の被用者たる労働者に対しても請負人の雇傭契約上の安全保証義務と同一内容の義務を負担するものと考えるのが相当である。

(三)  そこで、これを本件について考えるに、被控訴人鹿島と同大石との関係並びに亡神村らの作業状況についての原判決の事実認定は、原判決掲示の証拠に当審証人佐脇松男、同神嵜光、同中村公也、同島野良之右の各証言を加えて行つた当裁判所の事実認定と一致するので、原判決一〇枚目表一行目から一一枚目表八行目までを、こゝに引用する。

(四)  以上認定の事実によれば、被控訴人鹿島と亡神村平生との間には直接の雇傭契約関係は存在しないが、被控訴人大石との下請契約を媒介とし、右大石の請負工事全般に亘つて、その工程を管理し、工事の進捗状況も十分に把握して工事の段階に応じ、工事および安全について指示や指揮、命令できる立場にあるのであるから、被控訴人鹿島は同大石の工事に介入し、直接間接に指揮監督しているものというべきである。そこで被控訴人鹿島は被控訴人大石の塗装工に対し使用者と同視しうる関係にあるというべく、そうであれば、右鹿島はその契約の内容としても自らは雇傭契約を締結していない亡神村らに対しても、高所における鉄骨塗装工事に伴う労働災害に対する安全保証義務を負担するものといわねばならない。

(五)  そこで本件の場合、被控訴人らが亡神村らに対し具体的に如何なる義務を負担したかを考えるに、前記認定の事実に照らし、被控訴人らはそれぞれ命綱の慎重な使用について徹底した安全教育を施すと共に、開口部その他瑕疵のない完全な養生網を設置すべき義務を負担していたものと解すべきところ、亡神村が墜落時、命綱を使用した事実がなく、且つ墜落前に養生網に開口部があつたことは前記認定のとおりであるから、それらが被控訴人らの責に帰すべき事由に該当するかどうかを判断する。

前顕乙第一号証、第三号証の一乃至三、第一一号証の一、二、第一二号証、原審証人井上孝一、同高橋正行、原審および当審証人島野良之右、同佐脇松男、同中村公也、同神嵜光の各証言を総合すれば、被控訴人らは亡神村を含む塗装工に対し命綱の使用については常日頃から一般的、具体的安全教育を施していたこと、養生網についても平素から塗装工が擅に開口したり、その他の設備についても変更を加えたり作為したりしないよう厳重に警告していたこと、しかも被控訴人鹿島の現場監督者は毎日始業前工事現場を点検し、養生網については右網の上方高さ約一米以上に組まれた梁(鉄骨)上を歩行しながら、右網を短時間内に見下ろして巡回していたこと、本件事故当日も始業前、右鹿島の現場監督者である訴外佐脇松男は亡神村らが働く前記E工区を前記の方法で点検し、養生網に異常を発見しなかつたとして亡神村らの作業が開始されていること、しかし一方において、亡神村の墜落地点には塗料置場でもないのに、直近部に同日使用中の塗料と同質、同色の塗料が存在し、口の開けられた一斗缶が置かれていたこと、その近くに亡神村が使用していた小缶が転がつていたが、それには塗料が殆んどなく、振りこぼれた小量の塗料がその周辺に散らばつていたこと、右小缶の容量は塗装作業三〇分乃至四〇分に相当し、事故発生の午前九時三〇分頃は作業開始後三〇分乃至四〇分に当ること、作業中、小缶の塗料補給のためには梁(鉄骨)の上を歩行して一斗缶の置かれた場所へ行かねばならぬので、塗装工の中には、その労を省くため工事監督者の目をぬすんで養生網を擅に開披し、空の小缶を釣り下げ地上の一斗缶から補給を受けて、これを引揚げる方法によつて補給するものもいたこと被控訴人らの現場監督者もその事実は知つていたこと、養生網の継ぎ目の結束線は手近な鉄材などを用いれば容易に開披できること、又塗装工によつては高所作業中、命綱の使用を兎角軽視する風潮もあつたことが認められる。

(六)  以上認定の事実からすれば、被控訴人らは命綱の使用や養生網の設置については一応安全保証義務を履行していたとも考えられる。却つて、本件事故の原因は、亡神村が使用中の小缶に塗料を補給するため、墜落地点真上の養生網を擅に開披し、空の小缶に紐をつけて地上におろし、何びとかに依頼して一斗缶から塗料の補給を受けようとしたか、或いは開披後その近くの鉄骨上、足場板上又は吊足場上を歩行乃至移動しているときかどうか必ずしも明らかでないが、足を踏み外し命綱を使用していなかつたことも重つて、墜落したのではないかと推察されなくもない。しかしながら、そうであれば、その際亡神村の塗料引揚行為を地上で手伝う者や、小缶を引揚げるための紐も必要となるのに、それらの存在は証拠上明らかでなく、他に右神村が自ら養生網を開披したことを補強するに足りる証拠もないので、かかる状況があるとしても直ちに亡神村が養生網を擅に開披していて、そこから誤つて墜落したと推察するのは相当でなく、又亡神村以外の者が右養生網を擅に開披したと認めるに足りる証拠もない。

もつとも本件の場合塗装工は移動する際命綱を使用できないことは前記認定のとおりで、これが使用できれば墜落防止の一助となることも推察される。しかし原審証人高橋正行、同井上孝一の各証言によれば、移動時の安全を保証するため命綱の「なすかん」を掛ける親綱の設置は縦横に張り巡らされた鉄骨や鉄パイプのため塗装工事の円滑な遂行を妨げることとなつて適切でなく、ナイロン製の防網(いわゆるサーカスネツト)を設置することが、当時として必ずしも有効適切な安全措置であるともいえないことが認められる。そこで、被控訴人らとしては、塗装工らをして命綱の慎重適切な使用を履行させ、且つ作業員らの設置の無断改変を厳重に禁止して、前記構造の養生網を設置することによつて、一応本件の如き事故の発生を予防しうるとも考えられるが、前記のような作業前点検をするとしても、原審証人井上孝一の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証によれば、前記範囲の養生網の結束線は無数に存在し、その存否が一見して識別しうる状況でもないことが認められるので、右結束線の欠損がある場合容易にこれを発見しうるとも考えられない。しかも被控訴人らの現場監督者は本件事故前において、現場によつては作業員の中に、被控訴人らの前記指導教育に反し、擅に養生網を開披する者がいることを知悉し、それが危険なことは認識していたのであるから、監督者は点検を周到にし、常時にわたらなくとも監視をより強化し、緻密にこれを実施すれば、作業員のかゝる不心得な行為を禁止しえたし、欠損部の事前発見もなしえたと推察され、ひいては本件事故の発生も防止しえたものと解される。

(七)  以上諸般の事情を考慮すれば、養生網の開披については亡神村の行為と断定することはできず、又亡神村以外の者が開披したことも明らかでないうえ、前記のとおり被控訴人らにおいて養生網の無断開披を予防することも可能であつたと思料されるところから、前記状況のもとで同人らが、労働災害防止のための安全保証義務を尽くしたと解するのは相当でない。

そこで、被控訴人らはいずれも債務不履行に基き本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

もつとも、事前に養生網に開口部があつたとしても、通常の場合、高所作業に慣れている塗装工が、右開口部から墜落することは一般的に予想されないことであり、右神村が通常の注意を払つている限り墜落も起り得ないところであるから、同人が右開口部から墜落したことは同人にも不注意があつたものといわざるを得ない。

三  そこで、控訴人らの損害について判断する。

1  逸失利益

成立に争いのない甲第三号証、第一五号証の一乃至三、第一六号証の一乃至三前顕乙第三号証の一乃至三によれば、亡神村は昭和一一年一〇月三〇日生れの男子で、本件事故当時三一才であつて、被控訴人大石の塗装工として稼働し(右大石の塗装工であつたことは当事者間に争いがない。)本件事故当時、一日の賃金二、八〇〇円の収入を得ていたこと、しかし塗装工の賃金は漸次上昇し、昭和四八年三月当時、福岡県下の塗装工の平均賃金は一日金三、二〇〇円、昭和五一年一月当時のそれは一日金六、〇四〇円となつたことが認められ、右神村は六五才まで就労可能で、毎月少くとも二五日稼働するものとすれば、亡神村の本件事故当日である昭和四三年一月二二日から昭和四八年三月二一日まで毎月金七万円、同月二二日から昭和五一年一月二一日まで毎月金八万円同月二二日からは毎月金一五万一、〇〇〇円の収入を得ることとなる。

そして、亡神村の生活費は右収入の五割を超えないものとし、同人の前記稼働期間中の逸失利益の昭和五一年一月二一日現在における現在価を同日以降の逸失利益についてはホフマン複式により中間利益を控除して計算すると合計金一、八三六万九二八三円となる。

(一)  昭和四三年一月二二日から昭和四八年三月二一日まで六二ケ月分

<省略>

(二)  昭和四八年三月二二日から昭和五一年一月二一日まで三四ケ月分

<省略>

(三)  昭和五一年一月二二日から昭和七七年一月二一日まで二六年間

<省略>

(四)  総計

217万0,000円+136万0,000円+1,483万9,283円=1,836万9,283円

2  過失相殺

前記認定のとおり本件事故発生の状況からすると、亡神村平生にも本件損害の発生につき少くとも五割の割合をもつて過失ありと認められ、被控訴人らも本件事故が専ら亡神村の過失によつて惹起された旨主張するので、亡神村の逸失利益については過失相殺するのが相当と解され、前記割合によりこれを差引くと、亡神村の逸失利益は金九一八万四、六四一円(円未満切拾)となる。

3  権利承継

控訴人神村正臣、同神村ミツノが亡神村平生の両親であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右平生には妻子がなかつたことが認められるので、右神村正臣、神村ミツノが亡平生の損害賠償債権を二分の一宛相続により承継したものというべきであるから、右両人はそれぞれ金四五九万二、三二〇円(円未満切捨)の損害賠償債権を承継したこととなる。

4  控訴人神村正臣、同神村ミツノの慰籍料

前記のとおり右両名は亡神村平生の両親で、右平生の死亡により蒙つた精神的苦痛は大きいことが推察されるが、前記諸般の事情を考慮し、同人らの慰籍料は各金五〇万円をもつて相当とする。

5  控訴人神村文太郎、同国貞栄子、同神村妙子、同神村正見、同徳永友子の慰籍料

右控訴人らが亡神村平生の弟妹であることは当事者間に争いがない。ところで兄弟姉妹に民法第七一一条の慰籍料を認めるには死亡した者に同条所定の近親者がなく、死亡者との間に前記近親者に匹敵する特別な関係が存することを要すると解されるところ、亡平生の両親には前記のとおり慰籍料を認め、前記控訴人らには慰籍料を認めうべき事情も認められないので、同人らの慰籍料請求は理由がない。

6  填補

前記のとおり控訴人神村正臣、同神村ミツノは各金五〇九万二、三二〇円の損害賠償債権を有するところ、同人らは労働者災害補償保険法により、遺族補償年金六九二万四、三九一円の支給を受けたことを自陳するので、右金額を二分し(但し円未満切拾)控訴人神村正臣、同神村ミツノの前記金額からそれぞれ控除すると同人らの損害賠償債権額は金一六三万〇一二五円となる。

四  以上のとおり被控訴人らは各自控訴人神村正臣、同神村ミツノに対し各金一六三万〇一二五円とこれに対する本件事故発生の日以後の日である昭和五一年一月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

五  そうであれば、原判決は控訴人神村正臣、同神村ミツノの請求に関する部分において一部失当であるから、これを変更して右の限度で正当として認容し、その余の請求は失当として棄却すべきであつて、その余の控訴人らの各控訴は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九五条、第九二条、第九三条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

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