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福岡高等裁判所 昭和52年(ラ)74号 決定 1977年12月20日

抗告人 林美智雄(仮名)

相手方 松永紀子(仮名)

事件本人 松永洋子(仮名) 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙(略)記載のとおりである。

抗告理由一、二について。

よつて審案するに、当裁判所も原審と同様、抗告人は事件本人両名の養育料として相手方に対し原審が認容した金額を支払うべきものと判断するものであつて、その理由は、原審判の理由に説示するところと同一であるからこれを引用する。抗告人は、原審判は抗告人の生活の余裕を算定するに当り、抗告人が毎月当然支出する諸費用に計上すべきものを脱漏している旨主張するが、右主張を肯認するに足る資料は存在しない。

同三について。

親権者の監護教育の権利義務とそれに必要な費用(養育料)の負担とは別個の問題であり、未成熟の子に対する親の生活保持義務は親子関係そのものから生じるものであるから、離婚後においても両親は親権の有無にかかわらず、それぞれの資力に応じて子の養育料を負担すべき義務を負うものといわなければならない。抗告人は離婚後における子の扶養義務については、第一義的には親権者となつた親(本件では相手方)が負担すべきであると主張するが、右抗告人の見解は採用できない。

同四について。

記録によれば、抗告人の指摘するとおり、相手方(原告)、抗告人(被告)間の福岡地方裁判所久留米支部昭和四八年(タ)第一五号離婚等請求事件、同五〇年(ワ)第七二号慰藉料請求事件について、昭和五一年七月六日なされた判決において、同裁判所は「実質上の夫婦共同財産の清算と離婚扶養を含む財産分与」の額を判断するに当つての諸般の事情の一つとして「子の扶養関係」を挙げていることが認められる。しかしながら、民法第七六八条の財産分与制度の趣旨に含まれる離婚後の扶養とは、離婚配偶者の扶養を意味するのであつて、直接的には当該配偶者が離婚後監護養育することになる子の扶養の問題までも含むものではない。したがつて、財産分与の額を決定するについて、離婚後の配偶者の扶養を考えるに当つては、その者が子の監護養育者になるかどうかの点をも考慮に容れる必要があることは当然であるが、それは、子の扶養料をも含む趣旨が明示されている等特段の事情が認められない限り、あくまでも離婚配偶者の扶養の必要および程度を決定するについての一要素にすぎないものといわなければならない。前記判決も右の趣旨で「子の扶養関係」を諸般の事情の一つとして考慮しているのであり、相手方に対する財産分与の中に事件本人両名の扶養料までも含める趣旨でないことは判文上明らかでありこのことはまた、同判決が認容した財産分与の金額自体からも推認できるところである。したがつて、この点に関する抗告人の主張は失当であり採用できない。

その他記録を検討しても、原審判を不当として取消すべき事由は見当らない。

よつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却すべく、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 矢頭直哉 裁判官 土屋重雄 日浦人司)

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