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福岡高等裁判所 昭和53年(ネ)76号 判決 1979年8月08日

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

三、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は当審において予備的請求を追加し、主位的に「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、別紙目録(一)記載の各不動産(以下「本件不動産」という。)について、真正なる登記名義の回復を原因とする七分の五の持分所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、予備的に「被控訴人は控訴人に対し、本件不動産について、真正なる登記名義の回復を原因とする二分の一の持分所有権移転登記手続をせよ。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張及び証拠の関係は次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(なお原判決添付の別紙目録をこの判決では別紙目録(一)としたので、そのように改める。)。

1  控訴人の予備的請求原因

控訴人は主位的に、昭和四三年四月三日当事者間に、爾後、共同で取得する共有物の持分は控訴人五、被控訴人二とする合意が成立した旨主張しているが、仮にこれが認められないときは、前記したように、本件不動産はいずれも控訴人と被控訴人がその婚姻期間に共同して取得したものであるから、民法七六二条二項により両名の共有に属し、同法二五〇条によりその持分はそれぞれ二分の一というべきである。しかるに、被控訴人は本件不動産につきいずれも単独所有として前記各登記を経由しているので、控訴人は被控訴人に対し、真正なる登記名義の回復を原因として、それぞれ二分の一の持分所有権移転登記手続を求める。

2  予備的請求原因に対する答弁

一般に夫婦が婚姻期間中に取得した財産がその共有に属することは認めるが、前記のように、控訴人と被控訴人とは協議離婚に際し、昭和四六年六月一七日、控訴人自身の申出により、別紙目録(二)の一及び二の(2)記載の二個の建物を控訴人の所有とし、本件不動産を被控訴人の所有とする旨、財産分与の協議が成立しており、予備的請求も理由がない。

3  証拠(省略)

理由

一  被控訴人の本案前の申立について

この点についての当裁判所の判断は、原判決の理由一(原判決五枚目表一〇行目からその裏四行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。

二  控訴人の主位的請求について

当裁判所も控訴人の主位的請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は左記のほか、原判決の理由二(原判決五枚目裏五行目から同八枚目表六行目まで)に説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決五枚目裏一〇行目の「原告」から同一一行目の「総合すれば」までの部分を「当審証人林信義の証言、原審(第一、二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く。)並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果を総合すれば」と改める。

2  原判決六枚目表五行目の「借りていた」を「借りた金で購入した」と改める。

3  原判決六枚目裏一一行目の「原告本人尋問の結果(第二回)」を「控訴人の原審(第二回)及び当審における各本人尋問の結果」に、同八枚目表五行目の「被告本人尋問の結果」を「原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果」に、それぞれ改める。

三  控訴人の予備的主張について

1  控訴人と被控訴人がその婚姻期間中に本件不動産を共同で取得したこと、及び被控訴人が現在右各不動産につきいずれもその単独所有として登記を経由していることは当事者間に争いがなく、本件不動産の取得から右登記に至る経緯については、控訴人の主位的請求の関係ですでに認定したとおりである。そして、右取得の経過からすれば、現在の登記簿上の所有名義にもかかわらず、これらが被控訴人の特有財産であつたとは解されず、夫婦共有の財産であつたと認められる。右認定を左右するに足る証拠はない。

2  ところで、控訴人と被控訴人とは昭和四六年六月一九日の届出によつて協議離婚したものであるが、その際、被控訴人は夫婦が共同で取得した財産のうち登記簿上被控訴人の所有名義となつていた別紙目録(二)の一及び二の(2)記載の二個の建物を控訴人の所有とすることにしたと主張するところ、成立に争いのない甲第一〇号証、乙第八号証によれば、右二個の建物につきいずれも同年六月二九日受付で、同月二四日贈与を原因とし、被控訴人から控訴人に対し所有権移転登記がなされていることが認められる(この点は、それが財産分与であるか否かは別として、控訴人も明らかに争わない。)。

そして、右甲第一〇号証、乙第八号証に、成立に争いのない甲第九号証の一、二、同第二一号証、いずれも控訴人主張の宅地と同地上家屋を撮影した写真であることに争いのない甲第一七、一八号証、同第二二号証、原審証人安部キミ子、同岩下ハツヱの各証言並びに前掲控訴人、被控訴人各本人尋問の結果(以上の各証言、本人尋問の結果については、いずれも一部信用しない部分を除く。)を総合すると、控訴人は被控訴人との婚姻前から右二個の建物の敷地である別府市大字鶴見字三田三二五二番一宅地二四三・七八平方メートル(その後、同番三、六、七等を分筆)と同地上に家屋番号三二五二番一の一、コンクリートブロツク造瓦葺平家建居宅六四・七六平方メートル(別紙目録(二)の二の(1)の建物)を所有していたが、婚姻後、夫婦共同して、昭和三九年から同四〇年頃にかけ右宅地上に別紙目録(二)の一の建物を新築し、更に右家屋番号三二五二番一の一の平家建居宅を建増して別紙目録(二)の二の二階建居宅にし、右(二)の一の新築建物及び(二)の二の建物の増築部分(別紙目録(二)の二の(2)の建物)につき一応被控訴人名義で所有権保存登記を経たうえ、これらを他に賃貸して賃料収入を得ていた。ところで、昭和四五年頃から夫婦間はとかく円満を欠くようになり、やがて二人の間で離婚も話題になるようになつていたが、昭和四六年六月一七日、控訴人の姉アヤ子、弟年弘に近所の岩下ハツヱらが立会つて当事者間に離婚話が行われ、遂に話合が成立して同月一九日協議離婚の届出となつた。そして、右一七日の話合の席上、控訴人の姉から、別れるについてはもともと控訴人の所有である前記三二五二番一の宅地上にある前記別紙目録(二)記載の被控訴人名義の二個の建物を控訴人においてもらい受けたい旨の申出があり、被控訴人においてもこれを承諾し、双方納得のうえ、前記のように協議離婚の届出後、六月二九日付で右二個の建物につき被控訴人から控訴人に所有権移転登記がなされた。以上のような事実が認められる。

しかして、控訴人の主位的請求の関係で認定した諸事実に右に認定した協議離婚に至る経過等を併せ考えると、離婚の話合の席上、右二個の建物以外の夫婦共有財産、すなわち本件不動産について、明確にこれを被控訴人の所有とする旨の発言がなされたとの原審証人岩下ハツヱの証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果には、にわかに信じがたいものがあるが、事柄の経緯からして、やはり控訴人の姉からの申出は、離婚に際しての財産分与としてせめて右二個の建物を提供されたいということであり、もしこの要求が容れられるならばその余の財産については被控訴人の所有とすることに異存がないとの趣旨を含むものであつたと解され、当事者双方とも当然このことを了承して協議の成立をみたものと解される。残余の財産について将来の分割を予定しながら、右二個の建物だけをとりあえず控訴人の所有としたとは考えられない。前記各証言及び本人尋問の結果中、右認定に反する部分はにわかに採用しがたく、他にこれを覆すだけの証拠はない。

3  してみると、本件不動産は右財産分与の協議により被控訴人の単独所有に帰したものであり、これらになお二分の一の共有持分を主張する控訴人の予備的請求は失当として棄却を免れないものというべきである。

四  結論

そこで、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、当審における予備的請求も失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

目録 (一)

一 所在 別府市大字鶴見字前畑

地番 三八四七番四

地目 山林

地積 二三平方メートル

二 所在 右同所

地番 三八四六番二

地目 山林

地積 六九平方メートル

三 所在 右同所

地番 三八四四番一

地目 山林

地積 九九平方メートル

四 所在 右同所

地番 三八四五番二

地目 山林

地積 六・六一平方メートル

五 所在 別府市大字鶴見字前畑三八四六番地二、三八四七番地四

家屋番号 三八四六番二

種類 居宅

構造 木造セメント瓦一部亜鉛メツキ鋼板葺二階建

床面積 一階 八五・七三平方メートル

二階 二六・六九平方メートル

目録 (二)

一 所在 別府市大字鶴見字三田三二五二番地

家屋番号 三二五二番二

種類 居宅

構造 コンクリートブロツク造セメント瓦葺平家建

床面積 三三・四八平方メートル

二 一棟の建物の表示

所在 同所三二五二番地一

専有部分の家屋番号 三二五二番一の一、同番一の二

構造 コンクリートブロツク造及び木造セメント瓦葺二階建

床面積 一階 八五・七六平方メートル

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