福岡高等裁判所 昭和54年(行コ)8号 判決 1982年3月05日
控訴人
株式会社朝日新聞社
右代表者
渡辺諏穀
控訴人
株式会社朝日新聞社西部本社
右代表者
松本盛二
右両名訴訟代理人
渡辺修
同
宮本光雄
同
和智龍一
被控訴人
福岡県地方労働委員会
右代表者会長
副島次郎
右指定代理人
進藤英輝
外二名
被控訴人(参加人、以下単に参加人という)
日本新聞労働組合連合
右代表者中央執行委員長
武藤弘人
被控訴人(参加人、以下単に参加人という)
朝日新聞労働組合
右代表者本部執行委員長
竹中久
被控訴人(参加人、以下単に参加人という)
朝日新聞労働組合西部支部
右代表者執行委員長
広瀬邦弘
右三名訴訟代理人
浜口武人
同
前野宗俊
同
三浦久
外八名
主文
原判決及び本件命令主文第一項中、控訴人株式会社朝日新聞社西部本社に関する部分並びに控訴人株式会社朝日新聞社関係での村田弘についての部分を取消す。
控訴人株式会社朝日新聞社のその余の部分についての控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人朝日新聞社西部本社に関して生じた部分は、被控訴人及び参加人らの負担とし、控訴人朝日新聞社に関して生じた部分は、同控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者双方の求める裁判
控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人福岡県地方労働委員会が参加人らを申立人、控訴人らを被申立人とする福岡地労委昭和四九年(ネ)第二四号不当労働行為救済申立事件について、昭和五〇年九月六日付でなした命令中主文第一項を取り消す。訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人及び参加人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人、参加人らは控訴棄却の判決を求めた。
<以下、事実省略>
理由
当裁判所は、控訴人株式会社朝日新聞社西部本社の本訴請求はすべて正当として認容すべきであり、控訴人株式会社朝日新聞社の本訴請求は、そのうち村田弘に関する部分は正当として認容すべきであり、その余の者等に関する部分は失当として棄却すべきものと認定判断するが、その理由は次のとおり改め、加えるほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
一原判決五二枚目裏二行目から五四枚目表九行目までの説示を次のとおり改める。
2 次に控訴人らの、西部本社は労働組合法上の使用者に該当せず、被申立人適格を有しないとの主張について判断する。
労組法七条二号の使用者とは、原則として労働契約の当事者に限るものというべく、仮に不当労働行為救済の目的からその使用者概念を拡張する必要性を認める余地があるとしても、<証拠>によれば、控訴人会社は、東京、大阪、西部、名古屋に各発行本社を置き日刊新聞の発行を業とする会社であるが、西部本社代表は商法上株式会社朝日新聞社の支店であつて、西部本社代表は西部本社の事務を統轄するとはいえ登記を有する支配人でも代表権もなく、その機能は西部本社を構成する編集局、業務局、印刷局及び総務部の各部、局間の調整指導を行うに過ぎず、加えて本件不当労働行為救済の目的は、その原因たる事実関係が西部本社において惹起したものであるとはいえ、控訴人会社のした懲戒処分の取消を求めるものであることが明らかであるから、西部本社に被申立人適格はないものといわねばならない。
3 よつて、本件救済命令申立の、申立人適格を争う控訴人らの主張は理由がなく、被申立人適格を争う控訴人らの主張は理由がある。
二、三<省略>
四原判決の理由説示のうち、本件ビラ貼りについての部分(同八一枚目表一一行目から八四枚目表六行目まで)を次のとおり改める。
前記認定事実によると、会社内における組合の掲示は、会社と組合間の労働協約により、会社の認めた一定の掲示板を使用し、それ以外の場所を使用する場合は会社の許可を要することになつているところ、本件ビラは会社の所有ないし管理する、所定の掲示板以外の場所に、会社の警告を無視し、あるいは会社が撤去したその跡に貼るなどして、無権限に貼付されたものであることは明らかである。そして控訴人会社においては、従来も争議時には会社の許可なく掲示板以外の場所に組合のビラが貼付されたことがあつたが、本件の場合に比較し小規模であつたため、抗議、警告にとどめ、処分にまでは至らなかつたものの、本件の場合、約一ケ月間にわたり、総数約一万八〇〇〇枚のビラが貼付され、その記載内容も中には「無能な経営者は死ね!!」、「俺が死ぬときてめえも殺す」、「下の工場は五月一〇日よりドレイ工場です。」など穏当を欠くものもあり、貼付場所も印刷課休憩室及びその付近に始まり、後には見学者通路の壁、正面玄関のガラス扉、正面玄関内業務会議室横の壁一帯さらには社屋の外壁にまで及び、貼付方法も当初はセロテープを用いていたが、後には殆どのり付の方法で貼られたため、会社はこれをはぐのに消防用ホースや鉄ベラを使用しなくてはならなかつた程であることに徴すると、組合の本件ビラ貼りが、腰痛症多発の事情から機付人員削減に反対する立場を明らかにし、他職場の理解を得、組合の結束を強めるための情宣活動として始められたもので、数回にわたる労使間の交渉によるも対立が顕著なうえ、会社の強行実施が予定され、かつ実施後も解決のめどがつかないという背景のもとに拡大、強化されていつたということ、その結果、社屋の内外の美観を損ね、一時的にせよ、新聞販売店などに不信感を与えたことはあつたが、会社の業務自体は格別阻害されることはなかつたことなどの諸事情を考慮に入れても、本件ビラ貼り行為は度を過ぎ、正当な組合活動として許容される範囲を逸脱したものといわねばならない。
五原判決の理由説示のうち、本件救済命令の正当性についての部分(同八四枚目八行目から一〇行目まで)を次のとおり改める。
会社の本件懲戒処分のうち、村田弘に関する部分は、同人が西部支部執行委員長として支部組合員に指示して、昭和四九年五月一五日から同月二七日までの間昼勤拒否、夜間強行就労の行為をさせ、同年四月二六日から同年五月二六日までの間会社の許可した以外の場所にビラを貼らせたことを理由とするものであり、阿部英昭ほか七六名に関する部分は、前記昼勤拒否、夜間強行就労を理由とするものであることは当事者間に争いがない。
そして、前記昼勤拒否、夜間強行就労を理由とする本件懲戒処分が労組法七条一号の不当労働行為を構成すると判断して発した本件命令は相当であり、これを取り消すべき瑕疵は認められないが、村田弘に対する本件懲戒処分については、同人が前記のとおり組合員をしてビラ貼りをさせたことをも処分の一事由となつているので、同人に関する部分の本件命令の当否を検討するに、右のビラ貼りが正当な組合活動として許容される範囲を逸脱したものであることは前示のとおりであり、参加人ら主張の如く村田弘に対する本件懲戒事由が前記昼勤拒否、夜間強行就労を決定的動機とするものであつて、ビラ貼りは付随的事由に過ぎないと認めるに足りる証拠はなく、本件ビラ貼りを企画実行させたことのみをもつても、本件懲戒を不当といいきれないことからすると、村田弘に対する本件懲戒処分をもつて不当労働行為とした本件命令は、不当として取消を免れない。
六よつて、控訴人西部本社の本訴請求及び控訴人会社の本訴請求中村田弘に関する部分は理由があるから、原判決及び本件命令の右部分を取消し、控訴人会社の爾余の部分についての請求は理由がないからこの部分についての控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(美山和義 前川鉄郎 川畑耕平)