福岡高等裁判所 昭和55年(う)411号 判決 1980年11月19日
被告人 志手次雄
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人河野浩が差し出した控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官が差し出した答弁書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。
所論は、被告人を罰金四〇万円に処したうえ、普通乗用自動車一台、車体検査証一通及びエンジンキー一個を没収した原判決の量刑は、被告人に対し付加刑として右の没収を言い渡した点において重きに過ぎて不当であるから、原判決は破棄されるべきである、というのである。
そこで、記録を精査し、これに現われた本件各犯行の罪質、態様、動機、被告人の年令、性格、経歴(前科を含む)、境遇、犯罪後における態度、本件各犯行の社会的影響など量刑の資料となるべき諸般の情状、殊に、被告人は、昭和三〇年六月七日に道路交通取締法違反の罪により科料五〇〇円に、昭和三五年五月一二日に恐喝の罪により懲役一〇月、三年間執行猶予に、昭和三九年七月三一日に殺人、銃砲刀剣類等所持取締法違反の罪により懲役七年に、昭和四八年六月一二日に、業務上過失傷害と、普通貨物自動車の無免許運転を内容とする道路交通法違反の罪により禁錮四月に、昭和五二年一月一三日に、業務上過失傷害と、普通乗用自動車の無免許運転、救護義務違反及び事故不申告を内容とする道路交通法違反の罪により懲役四月に、同年五月一二日に普通乗用自動車の無免許運転と指定速度違反を内容とする道路交通法違反の罪により懲役三月にそれぞれ処せられたというのに、昭和五一年末ごろから腎不全を患い、昭和五二年には慢性腎炎等又は慢性腎不全により終生週に二、三回の割合で、一回あたり約五時間人工腎臓による血液透析を必要とし、刑の執行によつて、著しく健康を害し、又は生命を保つことのできないおそれがある状態となり、右の懲役四月と同三月の各刑の執行をいずれも停止されて、自由刑の執行を受けるおそれがなくなつたことを奇貨として、反省悔悟することなく、普通乗用自動車の無免許運転七回(原判示第一、第四ないし第六、第八、第九、第一一)軽四輪貨物自動車の無免許運転一回(原判示第二)、及び指定速度違反三回(原判示第三、第七、第一〇)の本件各犯行を敢行したものであり、その各犯行の動機においてもいずれも憫諒すべき事情がなく、しかも、原判示第九ないし第一一の各犯行は、いずれも、被告人が、原判示第一ないし第五の各公訴事実について昭和五四年一二月二八日に大分地方裁判所に公訴を提起され、昭和五五年一月五日にその起訴状謄本等の送達を受けた後やがて同裁判所においてそれらの審理を受けるという時期に敢行されたものであるから、被告人には遵法精神の欠如が窺われること、原判示の没収にかかる普通乗用自動車は原判示第一、第四ないし第七、第九ないし第一一の各罪の犯罪構成要件の充足に不可欠のものであるから、それらの犯罪組成物件にあたること(従つて、これを犯罪供用物件と解した原判決は法令の適用を誤つたことに帰するが、刑法一九条一項一号二項によつて本件自動車を没収しうることには変わりはなく、しかも、後述するとおり、本件はその没収を相当とすべき場合であると認められるので、右の法令適用の誤りは判決に影響を及ぼすべき事柄ではない。)、被告人は従業員五名を使用して鮮魚商店二店を経営し、右普通乗用自動車のほか普通貨物自動車二台及び軽貨物自動車一台を所有していること、右の没収にかかる普通乗用自動車は被告人において昭和五三年一二月一八日に購入し、その後一年半余の間使用してきたものであること、被告人は本件において懲役刑を科されることなく罰金刑を科されていること、原判示の没収にかかる車体検査証一通及びエンジンキー一個はいずれも右の没収にかかる普通乗用自動車の付属物にすぎず、独立の効用を有しないことなど諸般の事情を合わせ考えると、本件については、特に付加刑として右普通乗用自動車一台、車体検査証一通及びエンジンキー一個を没収することとした原判決の量刑は相当であつて、不当に重いとは考えられない。論旨は採用することができない。
それで、刑訴法三九六条により、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 桑原宗朝 池田憲義 寺坂博)