福岡高等裁判所 昭和55年(ネ)511号・昭56年(ネ)81号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
X(被控訴人)は昭和一五年一〇月三〇日Aから本件占有地を買い受けたが、同占有地の中にY1(控訴人)所有の本件土地(地目農地)が含まれていたので、Xは昭和五一年一一月一六日Y1を相手方として本件土地につき取得時効が完成したので所有権移転登記を求める旨の調停を申し立てた。ところがY1は翌一七日Xの右時効取得の主張を封じるため、Y2(控訴人)と意を通じて本件土地をY2に贈与し、農地法五条の許可を条件とする条件付所有権移転仮登記を了した。そこでXは本件土地につき昭和三五年一〇月三〇日取得時効が完成したとして、Y1に対し所有権移転登記を、Y2に対し背信的悪意者として右仮登記の抹消を訴求した。第一、二審共Xの請求を認容したが、Xの時効取得の基礎となる占有の始期についてXの主張と裁判所の認定が異なる点が問題となつた。なお「昭和六年一二月二四日を起算点とする取得時効の主張に対し同年二月一五日を起算点とする時効を認定することは弁論主義に違反する。」とした最高三小判昭31.7.20(裁判集民事二二−一〇〇一頁)があるので参照されたい。
【判旨】
控訴人らは、被控訴人において、本件土地の時効取得の基礎となる占有の始期を「昭和一五年一〇月三〇日」と主張したのに、これと異なる「昭和一五年一一月七日」を占有の始期と認定して、被控訴人の時効取得を肯認することは、民訴法一二七条、一八六条に明らかに違反する旨主張する。
なるほど、時効による権利の取得も、権利の変動の一態様に他ならないのであるから、第三者に対する対抗力の有無を明らかにするため、その権利変動の時期を確定する必要があるものであつて、その占有開始の時期を恣意的に変更することの許されないものであることは多言を要しない。
しかしながら、本件においては、被控訴人は、訴外三郎<編注、A>と土地売買契約を結び、その目的物として、本件土地を含む本件占有地の引渡を受けたとし、その引渡による占有開始の日を取得時効の起算日として主張しているものであるところ、右引渡日を特定すべき資料のないところから、遅くとも右売買に基づく所有権移転登記手続がなされた日である「昭和五一年一一月七日」には占有の開始があつたものと認定するものであつて、いずれにしてもその占有開始の原因など取得時効の基礎となる事実は全く同一であり、かつ、被控訴人が主張する引渡の日から暦日上僅かに八日を隔てるに過ぎず、しかも、第三者である控訴人丈夫<編注、Y2>との対抗関係においてもなんら差異を生ずるものでないから、引渡による占有開始の日を「昭和五一年一一月七日」と認定しても、これが、弁論主義に反するものということはできない。
(松村利智 金澤英一 早舩嘉一)