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福岡高等裁判所 昭和57年(う)285号 判決 1982年12月16日

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人佐々木寛、同高木甫が連名で差し出した控訴趣意書、及び控訴趣意補充書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官疋田慶隆(検察官清水鐵生作成名義)が差し出した答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用し、これに対し次のとおり判断する。

(事実誤認及び審理不尽に対する判断)<省略>

弁護人両名の控訴趣意第三(法令適用の誤り)について

所論は要するに、

(一)  <省略>

(二)(1)  本件受信装置を設置したとされる勝立寺敷地は、同寺の住職らの住居部分とは明確に区別されており、これに侵入してもその住居の平穏を害するおそれはないのであるから、右敷地は刑法一三〇条にいわゆる「人ノ住居」にあたらない。

(2)  また、右敷地は墓地に至る唯一の通路であり、日頃から不特定多数人に開放されているのであるから、これに侵入しても「故ナク」侵入したことにはならない。

(三)  しかるに、原判決が<中略>「故ナク人ノ住居」に侵入したことを肯定したのは、法令の解釈適用を誤つたものである、というのである。しかしながら、

(イ)  <省略>

(ロ) 刑法一三〇条にいわゆる人の住居に関しては、建造物を住居として使用しているときはその囲繞地もまた住居の一部と解するのが相当である。

しかして、原判決挙示の関係証拠によれば、原判決四枚目裏一〇行目以下五枚目二行目までの事実が認められる。

そうすると、勝立寺の原判示敷地は勝立寺の住居である建造物の囲繞地であるから、勝立寺の住居の一部と解すべきである。

また、原判決挙示の関係証拠によれば、右敷地は昼間においては開放されている正門から墓地へ参る人や毘沙門天の参詣者、散歩する者などが自由に出入りすることができるが、午後一〇時ころになると勝立寺住職の坂本勝成が正門の高さ1.82メートルの門扉に閂をかけて、人が自由に出入りすることを防いでいること、被告人両名は原判示第二のとおり深夜である午後一一時五六分ころ、盗聴器を設置して他人の電話を盗聴する目的で、かつ、居住者である坂本勝成らの承諾を得ることもなく、勝立寺の正門の門扉をあけてその敷地内に立ち入つたものであることが認められる。

してみると、右敷地が勝立寺の墓地に至る唯一の通路であり、昼間から午後一〇時ころまでは前記参詣人らに出入りの容認されていた場所であるからといつて、本件におけるが如く、深夜盗聴器を設置して他人の電話を盗聴する目的で立ち入るような異常な行動までを認容もしくは放任する趣旨のものでないことは、いうをまたないところであつて、大学の教養を身につけた被告人両名においてもこのけじめは当然に分つていたはずである。被告人両名は故なく人の住所に侵入したものといわなければならない。

したがつて、原判決には所論のような法令の解釈適用の誤りはない。論旨はいずれも理由がない。

そこで、刑訴法三九六条に則り本件各控訴をいずれも棄却することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(吉永忠 池田憲義 松尾家臣)

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