福岡高等裁判所 昭和60年(け)1号 判決
本件記録及び請求人に対する頭書被告事件記録によれば,本件は併合罪関係に立つ3個の公訴事実が併合審理され,そのうちの公訴事実1個が無罪となった場合での費用補償の事案であること,原決定は右一部無罪となった事実の審理に要した費用を計算するにあたり,請求人及び弁護人(但し,主任弁護人岩成重義に係る分に限る)の旅費,日当についてはいずれも先ず全旅費,日当相当額を算出し,次いで,その額に3分の1を乗じた額をもって無罪判決に関する旅費,日当として計算していること,はいずれも所論指摘のとおりである。
ところで,所論は,本件第一審における別表記載の公判期日の審理については,同公判期日において取調べが行われた各証拠の立証趣旨及びその内容から見ていずれも無罪とされた公訴事実について行われたものでないことが記録上明らかであって,右審理に要した費用分についてまで請求人に補償すべき費用と認めるのは相当でないとして原決定を論難するのであるが,前掲記録によれば,第一審では80回の公判期日(うち変更1回)と2回の公判準備期日が,第二審では7回の公判期日(うち変更1回)が,いずれも本件併合罪関係に立つ3個の公訴事実のすべてにつき併合審理,判決するために開かれたこと,しかも,以上の全部の事実は,北九州市内における水洗便所の新設,改善工事の増加によって塩化ビニール排水管の需要が高まる一方で,いわゆるオイルシヨツクや大手石油化学工場の爆発事故などによって供給が不足し,価格が急騰して管工事業者である組合員が苦境に立たされていた時期における北九州管工事協同組合の理事長としての請求人が塩化ビニール排水管を取扱う貿易業者を相手に執った業務行為が,組合理事長としての任務に背き,相手方貿易業者の利益を図る目的の下に出た背任罪を構成する行為となるかどうかが争われる事実であって,相互に密接に関連しており,証拠関係も共通のものが多いこと,別表記載の公判期日のうちにも,例えば31回及び48回公判期日では無罪となった事実の審理のための証拠決定や書証の取調べが行われており,67回及び72ないし74回公判期日でも無罪となった事実にも関連を有する証人や原審相被告人の取調べが行われていること,がいずれも認められ,これらの事実に前掲記録から認められる本件審理の経過,弁護人の数とその立証活動,無罪とされた事実が全体に占める割合等を総合して考慮すると,第一審及び第二審における請求人及び弁護人(但し,主人弁護人岩成重義に係る分に限る)の旅費,日当についてはそれぞれ生じた費用の各総額の各3分の1をもって無罪となった事実の審理に要した費用とした原決定の判断は本件事案に即して相当と考えられる。本件異議申立は理由がない。