福岡高等裁判所 昭和61年(ラ)28号 決定 1988年7月13日
抗告人 小田光男 外3名
相手方 小田慶子 外4名
主文
原審判を取り消す。
本件を熊本家庭裁判所玉名支部に差し戻す。
理由
一 本件各抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
二1 原審は、被相続人らの二男亡小田春男において、本件遺産の形式について特別の寄与をした事実を認め、右寄与分の割合を本件遺産の20パーセントと定めたが、当裁判所も一件記録を精査した結果、原審と同じく亡春男の寄与分を認容すべきであると考えるので、原審判5枚目表4行目から同7枚目表1行目までを引用する。この点に関する抗告人らの主張は理由がない。
2 原審は、原審判別紙物件目録の本件土地中、<A>部分を相手方小田俊一の取得、同<B><C>部分を抗告人小田光男の取得、同<D>部分を同小田秋雄の取得、同<E><F>部分を同小田信勝と同野中瞳の共有取得、同<G><H>部分を相手方東トク子の取得、同<I>部分を相手方山形トモの取得、同<J><K>部分を本件土地西側市道に通ずる幅員4メートルの道路として使用する目的のもとに相手方俊一に相続分を譲渡した相手方小田慶子、同林恵子を除くその余の相続人である抗告人ら及び相手方ら7名の共有取得とした。
ところで、記録中の鑑定人○○○○作成の不動産鑑定評価書、鑑定人○○○○作成の鑑定測量実測地積図によれば、本件土地は都市計画法による都市計画区域(住居区域)であるところ、その西側において幅員8メートルの市道に接しているが東側は幅員約1.5メートルないし2メートルの人通りの少ない裏通りのような私道に接し、北側と南側は第三者の住宅地であること、抗告人光男の取得する<B><C>部分及び抗告人秋雄の取得する<D>部分と、将来は道路として使用される目的の<J><K>部分との間には、抗告人信勝と同瞳の共有取得とされた<E><F>部分が介在し、右<E><F>部分は東西(横)26.28メートル、南北(縦)4.5メートル弱の住宅地としては利用価値皆無の極端な長方形の土地であること、市道に接する<J>部分の西端から<K>部分の東端までの東西の距離は35メートルを超えること、以上の事実を認めることができる。
右によれば、抗告人光男と同秋雄の各取得する<B><C>部分と<D>部分は、将来<J><K>部分に道路が開設されたとしても、<K>部分に接しないから、建築基準法43条1項本文の要件を備えず、<E><F>の共有取得者である抗告人信勝、同瞳から<E><F>部分を譲り受けるか、利用権の設定を受けるかのいずれかをしない限り、該土地に将来住宅を建築することは許されない。
次に、抗告人信勝と同瞳の共有取得とされた<E><F>は極端な長方形で前記<B><C><D>各部分のための通路としてならともかく、普通の住宅地としての利用価値に乏しいから財産的価値の低落は免れない。現に、同抗告人らは、<E><F>部分の通路として、その利用が制限されるような土地ではなく、普通の宅地として処分できるような土地の取得を希望しており、この希望は相当として是認すべきである。
さらに、建築基準法42条1項5号、同法施行令144条の4によれば、本件土地の<J><K>部分はいわゆる袋地状道路であるために、その間に建設大臣の定める基準に適合する転回広場を設ける必要があり、また角地であるコ点にすみ切りを設ける必要がある。しかるに、原審判は以上の点について配慮を欠いている。
3 以上の認定説示により明らかなように、本件遺産分割に関する原審判は、本件遺産の相続人中抗告人ら4名の本件土地取得部分は相手方らの同取得部分に比し、宅地としての資産価値に前記のよらなマイナス要因が付着し、原審判のような遺産分割の方法は著るしく不公平で土地利用の合理性を欠くものと認めざるをえないし、道路を使用目的とし相続人らの共有とされた<J><K>部分についても、建築基準法をふまえて、その瑕疵を補正する必要がある。なお、本件土地の公平な分割を計るうえで、道路をどの位置に開設すればよいかについては、<J><K>部分にこだわることなく更に検討を加える必要がある。
三 よつて、原審判は不相当であるからこれを取り消し、本件は更に原審において審理を尽くす必要があるので、原審に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 高石博良 裁判官 森林稔 川本隆)
別紙<省略>