大判例

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福岡高等裁判所 昭和62年(う)545号 判決

所論は,要するに,原判決が被告人に対して,車道外側線の手前で一時停止して,通行余地を対向してくる車両の有無及びその動静を確認する方法につき,通常の運転姿勢よりずっと体を前に出すとか,同乗者を下車させ,同人の補助の下に安全の確認をするとかの方法を示し,本来負わせることのできない不当に過重な内容の注意義務を課している点,及び本件は信頼の原則が適用されるべき事案であるのに,相当性を欠く岸仲の運転態度に何ら考慮を払うことなく,被告人に刑法211条前段の罪責を問うた点において,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある,というのである。

しかし,原判決認定の事実に基づき,被告人の注意義務の内容及び過失の存否,あるいは本件における信頼の原則の適用の適否等につき検討してみても,被告人に原判示の注意義務及び過失があるとした原判決には,所論のような法令適用の誤りはない。

被告人が,原判示の道路から右方路外の駐車場に向けて右折しようとしたとき,対向車線上に停止していたいわゆるボンゴ型の自動車(以下,「ボンゴ車」という。)に視野が遮られて,車道外側線の外側の通行余地の左方の見通し状況が極めて不良であったことは,原審記録により明らかであるし,原判決もこのことを前提にして被告人の注意義務の内容及び過失を論じていることは,その判示内容自体から明らかである。そして,本件におけるごとく,車道外側線と歩道との間に約1.8メートルもの幅員を有する通行余地が存在しているのであるから,ここを自動二輪車や原動機付自転車等が通行して来ることは,被告人のごとく通行余地を横切って右折進行しようとする自動車運転者としては,当然予測しなければならない事柄であるといわなければならない。被告人が右折しようとした場所が,例えば交差点のような所で,岸仲にとって,右側車道部分に停止している車と車の間から他の自動車が出てくることが十分予想されるような場所であれば,岸仲においてもこのことに注意し,徐行なりして,車と車の間から他の車が出てくることに配慮する必要があるといいうる場合も考えられようが,本件においては,岸仲において,事故発生場所で被告人車が出てくる可能性まで予想させて,岸仲バイクに徐行を義務づけるといったことは,岸仲のような通行余地を走行する二輪運転者に対して酷にすぎるといわなければならない。

結局,被告人車のように,二輪車がいつ対向走行してくるかも知れない通行余地を横切って路外に出ようとする自動車の運転者は,通行余地の交通の安全を確認したうえでなければ,車道から通行余地に進入することは許されないといわなければならない。

弁護人が信頼の原則をいう点については,例えば原判決が「補足説明」の中でも紹介している札幌高等裁判所昭和51年8月17日判決(刑事裁判月報8巻6,7,8号366頁)の事案のごとく,自動車が前輪を歩道上に乗り入れて車道部分をほぼ横断し終わろうとした矢先に,原動機付自転車が右自動車の左側後尾に衝突したといったような態様のものであれば,これは,自動車に原動機付自転車が衝突していったものと見るほかないわけであるが,本件はこれと全く事案を異にし,被告人車が通行余地に約25センチメートル進入し停止したほぼその瞬間に,岸仲バイクとしては前面に現れた被告人車を回避する措置がとれない状態でこれに衝突したと認められるのであるから,本件において信頼の原則を適用することが相当でないことは明らかであるといわなければならない。

そして,本件において,被告人の立場の運転者が通行余地左方の安全を確認する方法としては,通行余地に進入する(即ち,車道外側線の)手前でいったん停止して,自動車の運転者1名のみ乗車している場合には自ら降車して通行余地左方の安全を確認するか,本件の場合のように助手席に同乗車があれば,同人を降車させて左方の安全を確認のうえ,同人の誘導によって通行余地に進入し,横断することが要求されるといわなければならず,もしこのようにいったん停止したうえでの降車等の安全確認を避けたいのであれば,例えばボンゴ車の前での右折自体を避け,通行余地の左方の見通しの効く状態で右折できる機会の到来を待つといったことが必要であると判断されるのであって,これと同旨の判断に立ち,被告人の注意義務の内容や過失の存在につき説示している原判決の見解は十分肯認できるものであり,これに所論のような刑法211条前段に関する法令適用の誤りはないといわなければならない。論旨は理由がない。

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