大判例

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福岡高等裁判所 昭和62年(行コ)6号 1988年7月28日

控訴人

あけぼのタクシー有限会社

右代表者代表取締役

三島隆二郎

右訴訟代理人弁護士

苑田美穀

山口定男

古川卓次

被控訴人

福岡県地方労働委員会

右代表者会長

倉増三雄

右指定代理人

青柳栄一

植田重實

中富倫彦

古賀俊幸

被控訴人補助参加人

あけぼのタクシー労働組合

右代表者執行委員長

横田重信

右訴訟代理人弁護士

田中久敏

平田広志

内田省司

小島肇

山本一行

小澤清實

幸田雅弘

小宮和彦

椛島敏雅

田中利美

藤尾顕司

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人補助参加人を申立人、控訴人を被申立人とする福岡労委昭和五八年(不)第六号不当労働行為救済申立事件について、被控訴人が昭和五九年五月二四日付けでなした原判決別紙命令書記載の命令のうち、主文第1項を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者並びに被控訴人補助参加人(以下「補助参加人」という。)の主張は、当審において次のとおり補充するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

1  控訴人

(1)  控訴人は、昭和五七年八月二日の補助参加人の団交申入れに対し、かつて何度も行われていた会社構外での団交を提案したところ、補助参加人の方で『あくまで会社構内で(団交を)する。』といってこれを拒んだものである。さらに、当時は、補助参加人は、宣伝カーにより、控訴人の営業を妨害し、控訴人及び控訴人代表者を誹謗中傷する違法な街頭宣伝活動を執拗に繰り広げ、控訴人会社の他の従業員が反感を抱きその中止要請をするなかで、会社構内へ入る直前まであるいは出た直後からボリュームいっぱいの宣伝文句を流し他の従業員の神経を逆撫でしつつ、会社に乗り込んで来ており、会社構内で団体交渉を行うとすれば、当然このような宣伝カーを乗り着けることが予測され、一触即発の雰囲気であった組合員と、その他の従業員との間に不測の事態も発生しかねず、企業秩序が紊乱されることが必至の情勢であったし、このような示威行動をともなっての団交要求自体企業秩序の紊乱以外のなにものでもなく、このように労使関係が正常でない状況下の団交要求は正当なものではない。

(2)  しかも、控訴人は、団交拒否そのものをしたのではなく、当時も継続されていた右街頭宣伝活動による控訴人への攻撃の影響により予測される混乱を避け、団交の適当な時期を求めるため、同街頭宣伝活動が終了するまで上部団体の役員出席による団体交渉の延期を申し入れたに過ぎない。それゆえ、右街頭宣伝活動が終了していた同年一二月一〇日補助参加人から同月一三日に団交を行いたい旨の申入れがあった際には、やはり上部団体の役員同席が明示されたが、控訴人は、同日が従業員賞与の支給日であったため、翌一四日に行うよう逆提案し、上部団体役員出席を理由として団交開催を拒否するようなことはしなかった。ところが、補助参加人において右逆提案を拒否し、後日希望日を連絡するといいながら、後日何の連絡もしなかった。このように、補助参加人の目的は、真意から団体交渉開催を求めていたのではなく、控訴人が団交拒否により団交が開かれなかったという事実をつくることにあったのである。

(3)  補助参加人は、地労委での本件救済手続過程における被控訴人の和解作業に基づく団交の試みにおいて、ことごとく約定に反した行動に出て、団交が開かれないようにしたにもかかわらず、結論を急ぐばかりの被控訴人は補助参加人の右のような不当な対応に対しては何らの指導力も発揮できず、これを隠蔽するために、その責任を控訴人に転嫁するばかりであった。

2  補助参加人

補助参加人が会社構内に宣伝カーを入れたのは昭和五七年六月九日以外にはほとんどなく、そのときはマイクのスイッチは切っていたし、控訴人の意を受けたあけぼの会から抗議文を一回渡されたことがあるだけで、それ以上に個々の従業員から苦情・抗議を受けたことは一切なく、一触即発の雰囲気や不測の事態の発生のおそれなどはなかった。

控訴人は、会社構内で団交開催ができないのであれば、具体的に場所を指定するなどの努力をなすべきであったが、この団交場所の提案という一挙手一投足の行為さえ行わなかった。

以前、会社構外で団交を行ったことがあるというのも、昭和四〇、四一年の二箇年だけのことで、しかも、あかつき運輸事業協同組合に加盟している各タクシー会社と同各社毎にある労働組合が加盟しているあかつき労連とが、右各タクシー会社の共同車庫でいわゆる集団交渉方式での団交を行ったことがあるに過ぎないものである。

三  証拠関係は、本件記録中の原、当審における各書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり補充するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

原審証人北崎定彦、原審当時証人三島隆二郎、当審証人横田重信の各証言(ただし、いずれも後記信用できない部分を除く。)、当審における控訴人代表者三島隆二郎尋問の結果(前同)によれば、次のとおりの各事実が認められる。

1  以前会社構外で団交が行われたことがあるが、それは昭和四〇、四一年の二箇年だけあかつき運輸事業協同組合に加盟している各タクシー会社と同各社毎にある労働組合が加盟しているあかつき労連とが、右各タクシー会社の共同車庫でいわゆる集団交渉方式での団交を行ったことがあるほかは、同所において控訴人と補助参加人組合役員との話合いも数回行われたことがある。

補助参加人代表者らは、昭和五七年六月九日及び同年八月九日各団交申入れに控訴人会社に行った際会社構内に宣伝カー(同代表者の自家用車にマイクなどを設備したもの)を乗り付けたが、その直前までは控訴人を誹謗する宣伝文句を流し会社構内ではマイクのスイッチは切り会社車庫を出た途端同様の宣伝文句を流していた。そして、補助参加人の行っていた右宣伝活動が営業に悪影響を与え始めたのに対し、補助参加人所属組合員以外の控訴人会社従業員で組織する「あけぼの会」が営業妨害であるとして抗議文を渡したり、会社の周囲道路を迂回して宣伝カーが回っている際には苛立って「うるさい。やめろ。」と怒鳴ったりして非難の声を上げる従業員もいたが、一方、控訴人当局者以外直接に文句を言う従業員はなく、宣伝カーで市中を回っている際営業車に会ったときに挨拶のための合図を送ってくる従業員もいた。

2  従前、控訴人は、上部団体役員出席による団体交渉を拒否する態度を示していたが、右街頭宣伝活動が終了していた昭和五七年一二月一〇日補助参加人から、上部団体役員の同席を前提に、同月一三日に団交を行いたい旨の申入れがあった際、同日がかねて予告もしていた従業員賞与の支払日で忙しくて時間がとれず、団交開催ができるような状況になかったため、上部団体役員を同席させなくとも補助参加人だけで十分団交能力を有するのではないかとの指摘をするとともに、翌一四日行うよう逆提案し、その提案を同日に都合がつかないとして補助参加人から断られたので、そうであれば先で団交申入れをするよう告げたが、昭和五八年一月二二日の控訴人と補助参加人代表者横田重信との話合いまでに、補助参加人においてなんの連絡もしなかったという経緯があった。

3  その後、地労委での本件救済手続過程における被控訴人の和解作業に基づく団交の試みがなされ、委員の一部から上部団体役員を同席させないなど一度裸で話合ったらどうか等という提案もあり、一回は補助参加人において上部団体役員を同行せずに開催されようとしたが、補助参加人がテープレコーダーをセットしようとしたことを控訴人が話が違うとして結局団交に応ぜず、その後も上部団体役員出席あるいはテープレコーダーの件に対しいずれか一方が拘わり又は双方が引き合って右団交の試みは整わず、そうするうちに被控訴人の本件救済命令の発付に至った。

以上のとおりであって、前記各証言あるいは当事者尋問の結果中それぞれ右認定に反する部分は信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、右認定事実を総合すれば、次のとおり判断される。

1  控訴人会社と補助参加人組合との間に会社構外での団交開催も開催場所の前例の一つとして双方に十分了解されていたとまではいえないし、補助参加人の右街頭宣伝活動に対し、控訴人会社の従業員中には強く反発する者も必ずしもそうではない者もそれぞれ相当数いて、会社構内で団体交渉が開催されたとしても補助参加人所属組合員とその他の従業員との間に不測の事態を発生させ企業秩序の紊乱を招く必至の情勢があったとまではとうてい認め難く、さらに、右街頭宣伝活動が控訴人に対する示威行動であっても、これが団交の場所でその時行われようとしていたものでもないし、また、団交開催要求そのものの直接的手段として行われたものでもないから、右示威行動が行われていた当時の団交要求それ自体が企業秩序の紊乱と評されなければならない理由はなく、当時、補助参加人が控訴人に対し、団交要求することが正当でないとされなければならないような不正常な状況が双方間に存在したとは考えられない。

2  昭和五七年一二月一〇日の同月一三日に団交を行いたい旨の補助参加人の団交申入れは、控訴人の賞与支払業務を阻害する結果を招来することを知ってなされたものであるといわざるをえないが、翌一四日に団交を行うという控訴人の逆提案もこれまた唐突な憾みがあり、かつ、右逆提案に当たり、上部団体役員出席について、控訴人が明確な拒否的言動をしなかったとしても、補助参加人の単独交渉能力を指摘するなどしてこれに対し暗に難色を示したことには変わりがないものといわなければならない。

3  控訴人がその際後日を期して団交開催申入れをするよう告げたのに対し補助参加人から何ら連絡のなかったことも、前示地労委での本件救済手続過程における被控訴人の和解作業に基づく団交の試みにおいて、やはり上部団体役員出席及びテープレコーダーセットがそれぞれ問題となって結局団交開催が実現されなかった経緯にみられるごとく、補助参加人が控訴人の右対応の仕方をそれまで双方間で応酬が繰り返されていたいわゆる窓口紛争の延長ないし一環として捉えていたためと認められ、補助参加人が控訴人の団交拒否により団交開催がなされなかった事実を意図的につくり上げようとしたものとまではみることはできず、この一連の事実関係を検討してみても右団交の試みが結実しないまま本件救済命令に至ったことが被控訴人に指導力不足や責任回避的態度に帰せられるべきものということもとうていできない。

以上のとおりであって、いずれにしても控訴人が補助参加人の団体交渉申入れを拒否したことには正当な理由が認められないものといわなければならない。

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用(当審における参加によって生じた費用を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 美山和義 裁判官 鍋山健 裁判官 江口寛志)

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