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福岡高等裁判所 昭和63年(う)120号 判決 1988年5月30日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人清源善二郎が差し出した控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、被告人に対し刑執行猶予の言渡しをしなかった原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。

そこで、原審記録に当審における事実取調の結果を併せ検討すると、本件は、被告人が、昭和六二年九月一三日ころと同年一〇月一七日ころの二回にわたり覚せい剤を自己使用したという事案であるが、被告人は、昭和五七年一〇月に覚せい剤取締法違反(自己使用)及び銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪により懲役一年(四年間保護観察付刑執行猶予)に処せられながら、自戒することなく本件各犯行に及んだものであって、覚せい剤に対する親和性の存することを否定しえず、また被告人には右以外にも昭和四〇年以降賭博、漁業調整規則違反、水産資源保護法違反、業務上過失傷害罪等の罪により四回罰金刑に、窃盗罪により懲役刑(刑執行猶予付)に処せられた裁判歴の存することなどに照らすと、法規範軽視の傾向が顕著であり、その刑事責任は重いというべきであって、被告人が反省の情を示していること、妻と二子の家族があるほか四名の従業員もかかえており、服役することになればこれらの人々の生活にも影響の及ぶことが予想されること、原判決後法律扶助協会に五〇万円を贖罪寄附したことなど被告人のため酌むべき諸事情を十分考慮しても、本件は被告人に対し刑執行猶予の言渡しをするのを相当とする事案であるとはいえず、被告人を懲役一年二月に処した原判決の量刑はやむを得ないものであって、これが重過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永井登志彦 裁判官 宮城京一 森岡安廣)

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