福岡高等裁判所 昭和63年(行コ)5号 判決 1990年12月19日
控訴人
別紙控訴人目録(略)のとおり
田中義巳
(外六八名)
右控訴人ら訴訟代理人弁護士
加藤康夫
同
石川礼子
同
吉田雄策
被控訴人
国
右代表者法務大臣
梶山静六
被控訴人
九州郵政局長楠田修司
被控訴人
福岡中央郵便局長宮崎演紀
被控訴人
早良郵便局長(旧福岡西郵便局長)浅野敏夫
被控訴人
福岡南郵便局長(旧筑紫郵便局長)内田武男
右被控訴人ら訴訟代理人弁護士
松尾俊一
右被控訴人ら指定代理人
江上久継
同
安村幸夫
同
中本薫
同
尾崎秀人
同
山口峰幸
同
有田憲一
同
吉澤哲彦
同
山下和久
同
石村俊彦
右当事者間の懲戒処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
一 控訴人らは、「1 原判決を取消す。2 被控訴人九州郵政局長が別紙処分目録(略)記載の控訴人番号一ないし一一の各控訴人に対し、被控訴人福岡中央郵便局長が同目録記載の控訴人番号一二ないし二五、三六ないし四〇、及び四九ないし六三の各控訴人に対し、被控訴人福岡南郵便局長(旧筑紫郵便局長)が同目録記載の控訴人番号二六ないし三五、四一、四二、及び六四の各控訴人に対し、被控訴人福岡早良郵便局長(旧福岡西郵便局長)が同目録記載の控訴人番号四三ないし四八の各控訴人に対し、それぞれ昭和五三年三月一八日になした同目録「処分の内容」欄記載の各懲戒処分はこれを取消す。3 被控訴人国は、別紙損害等内訳表(略)記載の各控訴人らに対し、それぞれ同表「総額」欄記載の金員及びこれに対する昭和五六年三月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決、ならびに右第3項について仮執行の宣言を求め
被控訴人らは、主文と同旨の判決、ならびに担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。
二 当事者双方の主張の関係は、原判決七枚目表八行目の「公労委」の次に「(公共企業体等労働委員会、以下「公労委」という」を、一一枚目表一二、一三行目の「福岡西郵便局(」の次に「現在の早良郵便局、」を、同一三行目の「筑紫郵便局(」)の次に「現在の福岡南郵便局、」を、同三八枚目裏一二行目の「原告番号」の次に「8鳥飼、同9今村、同10中野、同14藤野、同」を、同三九枚目表三行目の「原告番号」の次に「11上原、同」をそれぞれ加え、同一七枚目表末行の「堺」を「境」と、同三四枚目裏四行目の「菊夫」を「菊男」と、同三八枚目裏三行目の「吉原」を「吉原」と、同四三枚目表初行の「菊夫」を「菊男」と、同裏八行目の「勇次」を「勇治」と、同末行の「吉原」を「吉原」とそれぞれ改め、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであり、証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。
(控訴人らの主張)
1 省、九州郵政局(以下「郵政局」という。)、福中局が本件業務移管について組合の申入れた団体交渉を拒否した経過は次のとおりである。
(1) 全福中労は、昭和五一年三月二七日福中局を通じて省から、本件業務移管の計画と昭和五二年二月実施予定である旨の通知を受けた。
(2) 省は、昭和五一年五月一一日全逓の意見表明に対して本件業務移管の概要を回答し、同月二五日福中局を通じて全福中労にも同一内容の通知をした。
(3) 全福中労は、同年一〇月一三日福中局長に対して本件業務移管に関する団体交渉の申入れをしたが、福中局は、同月二〇日、同年一一月九日、一二月一三日に郵政局からのファクシミリによる事務連絡等に基づき、省で策定中の本件業務移管計画の具体的実施内容を知り得た段階で説明する(郵政局)、計画が具体化すれば別途説明する(省)等という上局の意向を伝達したのみであった。
(4) 全福中労は、同年一二月一四日郵政大臣(以下「大臣」という。)に対し、本件業務移管に関する事前協議のための協約につき、同月二〇日福中局での団体交渉の申入れをしたところ、大臣は、団体交渉は省で受けることになるが、本件に限り郵政局で事実上の話合いを行い、最終的合意の確認を省で行いたいとし、郵政局で事実上の話合いの日を同月二一日にしたい旨回答した。
(5) 全福中労は、同年一二月一九日大臣に対し、省の態度についての質問と共に、再度同月二五日福中局での団体交渉の申入れをする文書を送付し、省側の速やかな回答がなかったので、同月二二日公労委に不当労働行為救済申立を行ったところ、省は、漸く同月二三日福中局を通じて、前記便宜的措置としての郵政局での事実上の話合いに応ずるよう求める回答をした。
しかし、右省の回答は団体交渉の拒否であり、誠意のあるものではなかったので、全福中労としては、公労委の命令を待つことにして右省の回答を拒否し、同月二八日省が福中局を通じ、全逓及び全郵政との協定にならって行おうとした本件業務移管の具体的実施計画の提示を受けることも拒絶した。
(6) 全福中労は福中局長に対し、本件業務移管に関する労働条件、福中局のレイアウトの変更等について昭和五二年一月一四日、同月二二日、同月二九日、同年三月一日にそれぞれ日時を指定して福中局での団体交渉を申入れ、同年一月二九日には大臣に対して、業務移管に伴う夜間特別手当に関する団体交渉を申入れたが、いずれも拒否された。
その間、全福中労は、郵政局から同年一月二七日本件業務移管の具体的実施計画の提示をする旨の申入れを受け、福中局から同年二月二五日業務移管後のレイアウトについて説明する旨の申入れを受けたが、いずれも団体交渉に応ずる確約が得られなかったので、それらを拒絶した。
また、同年三月三日(郵政局)、同月七日(福岡市消防会館)、同月一〇日(省)において、省と全福中労の間で本件業務移管に伴う配置転換に関する協約締結のための団体交渉が行われたが、合意に達せず、協約締結に至らなかった。
(7) 公労委は、同年三月四日公労委規則三二条の二に基づく措置として、省と全福中労に対し別紙一(略)記載の勧告を発したが、省は右勧告の受諾を拒否した。
(8) 全福中労は、同年三月一二日福中局長に対して、本件業務移管に伴う服務表の変更について、同月一六日福中局での団体交渉の申入れをしたが、拒否された。
(9) 以上のとおり、省、郵政局、及び福中局は、本件業務移管に関して、全福中労との団体交渉を正当な理由なく拒否し、全逓や全郵政との間で定めた協定を全福中労にそのまま適用して強行したものである。
2 福中局が本件祝日配達休止の試行について組合の申入れた団体交渉を拒否した経過は次のとおりである。
(1) 省は、全逓や全郵政との間で、祝日配達休止の試行に関する団体交渉を経て協定を締結し、昭和五二年五月五日福中局を含む全国の集配局で試行することにした。
(2) 全福中労は、同年四月二二日福中局から祝日配達休止の試行について説明したい旨の申入れを受け、翌二三日福中局長に対し、同問題につき同月二七日福中局での団体交渉を申入れたが、福中局は、団体交渉でなく意思疎通ということで行いたい旨固執して、団体交渉を拒否した。
なお、福中局は、右二三日本件祝日配達休止試行の実施方法等につき、郵政局が全逓、全郵政に対し行ったと同一の説明をした。
(3) 福中局は、同年四月二六日全逓福岡中央支部と団体交渉を行い、席上、本件祝日配達休止問題を団体事項とする意向を明らかにしているが、翌二七日全福中労が前記二三日の団体交渉の申入れに関する再度の返答を求めたのに対し、全福中労との団体交渉には応じられない旨回答した。
(4) 以上のとおり、福中局は、本件祝日配達休止の試行が服務表の改正等労働条件の変更を伴うものであるにも拘らず、全福中労との団体交渉を一切拒否したまま、業務命令により一方的に強行実施したものである。
3 福中局、西局、筑紫局が本件年末年始繁忙対策について組合の申入れた団体交渉等を拒否した経過は次のとおりである。
(1) 全福郵労は、昭和五二年一〇月七日福中局長、筑紫局長、西局長に対し、年末年始繁忙対策につき総括事項、要員関係事項、服務関係事項、作業環境関係事項、福利厚生関係事項等の具体的要求を提示するとともに、同月一七日福中局での団体交渉の申入れをしたが、各局はいずれも、団体交渉のあり方が省と組合の間で検討の途中であることと、年末年始繁忙対策が未だ話合いのできる段階ではないことを述べて、団体交渉を拒否した。
(2) 全福郵労は、同年一〇月一八日福中局長、筑紫局長、西局長に対し、意思疎通は図って行きたいとの当局側の意向を受けて、各局ごとに日時、場所を指定して前記年末年始繁忙対策に関する組合の要求についての話し合いを申入れたところ、各局とも局側として話し合いのできる段階ではなく、組合の意見を聞くのはやぶさかではないが、その場合でも他局所属の組合員を交えての場を持つことはできない旨述べて、結局、話合いを拒否した。
(3) 同年一〇月二八日筑紫局は、全福郵労の第六分会に年賀売り捌きと年末の仮設の説明をしたい旨申入れ、同分会が交渉権限がないとして断ったところ、それでは省の責任で実施する旨言明し、また、同年一二月二日福中局は、全福郵労に同月四日年賀売り捌きと年末の仮設の説明をしたい旨申入れたが、組合側の出席者を尋ねたうえ出席者に他局所属の組合員が入るのであれば説明できない、と言明した。
(4) 九州地調委は同年一一月一九日、全福郵労が同年九月一二日福中局長と大臣を相手方として、公労委に団体交渉申入れに関するあっせん申請を行った事件について、別紙二(略)記載の勧告を行い、当事者双方がこれを受諾した。
(5) 全福中郵は、右勧告受諾の当日、直ちに福中局長、西局長、筑紫局長に対し、年末年始繁忙対策につき勧告にそって「話し合い」を開始したい旨申入れ、また、大臣及び郵政局に対しても、それぞれ右勧告に基づく「話し合い」を申入れた。
(6) ところが、福中局は即日、全福中局に別紙三(略)記載のメモを交付して、右勧告に従った「話し合い」を行うことを拒否した。
(7) 全福中郵は、その後、福中局、西局、筑紫局、及び省に対し前記公労委の勧告に基づく「話し合い」の申し入れについての返答を求めたが、郵政当局は、いずれも前記別紙三記載のメモに従った意思疎通を行うとの態度に固執した。
(8) 九州地調委は同年一二月五日、当局と組合の双方から事情聴取を行ったうえ、双方に「三局合同のような場で、年末年始繁忙対策の処理について、双方で話し合う努力をするよう要望する。」との委員長名による要望をした。
全福中郵は、右要望を受けて、同月六日、七日、九日の三回福中局、西局、筑紫局の三局と合同で年末年始繁忙対策につき「話し合い」の機会を持ち、七日に二八項目の要求事項を出したが、当局側は、三局共通の事項のみを対象に説明し、各局独自の問題は各局で所属職員と意思疎通をするとの態度に終始し、しかも、共通事項の説明に関する組合の質問にも殆ど応じず、九日には翌日から年末年始繁忙対策を実施するといって、一方的に「話し合い」を打ち切った。
(8) 以上のとおり、郵政当局は、公労委が勧告した「話し合い」すら拒否したまま、年末年始繁忙対策の実施を強行したものである。
4 控訴人らの一部の者が行った昭和五二年五月六日の年次有給休暇請求についての所属長の時季変更権の行使は、その要件を欠くものであり、また、控訴人らの一部の者が同年一二月に行った年次有給休暇請求は、それぞれ請求者の個人的必要に基づくものであって、争議行為あるいは闘争の手段等としてなされたものではない。
(被控訴人らの主張)
1 控訴人らの主張1は争う。本件業務移管の実施について、郵政当局としては、組合の要求に対し誠意をもって対応したところであり、控訴人らの右主張は失当である。
2 同2は争う。本件祝日配達休止の試行について、福中局は、既に自局職員に適用されていた服務表によって勤務指定の変更を行ったものであり、また、郵政当局が本件祝日配達休止の試行を強行した旨の控訴人らの主張も失当である。
3 同3は争う。本件年末年始繁忙対策の実施について、郵政当局が組合との「話し合い」を拒否した、あるいは三局合同の場の「話し合い」を一方的に打ち切った等という控訴人らの主張は失当である。
4 同4は争う。年末年始の繁忙期は、年賀郵便等平常時の数倍に及ぶ膨大な郵便物を短期間に処理しなければならず、郵政当局としては、多数の非常勤職員を雇用するとともに、常勤職員に対しても時間外勤務や休日勤務を命じる等して、業務の正常な運営の確保に努めている状況にあり、年休の付与が業務の正常運営に支障があると判断して行った所属長の時季変更権の行使に違法はない。加えて、本件のような職場離脱の闘争下における年次有給休暇の請求は、適法な権利の行使としての効力を有しないものである。
理由
一 当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断するもので、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決四九枚目裏八行目の「甲第一三〇号証の一、二」の次に「(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)」を、同五八枚目表四行目の「公共企業体等労働関係法(」の次に「昭和六一年法律第九三号により法令名が国営企業労働関係法と改められる。」をそれぞれ加え、同五六枚目表八行目の「菊夫」を「菊男」と、同五九枚目表四行目の「勇次」を「勇治」と、同裏行末と同六〇枚目表初行及び同裏末行の「吉原」をいずれも「吉原」と、同六二枚目表一一行目の「滝山」を「瀧山」と、同七一枚目(略)表一行目の「74」を「75」とそれぞれ改める。
2 控訴人らは、郵政当局が全福中労あるいは全福郵労の申入れた団体交渉等を正当な理由なく拒否し、本件業務移管、祝日配達休止試行、年末年始繁忙対策を一方的に強行した旨主張するので、この点について判断する。
(1) 本件業務移管の関係では、原判決四八枚目表五行目の「いずれも」)から同裏七行目の「第二三一号証」)までに掲記の各証拠、及び成立に争いのない(証拠略)その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき(証拠略)、(証拠略)により真正に成立したものと認められる(証拠略)により真正に成立したものと認められる(証拠略)を総合すれば、原判決認定の被控訴人らの主張一1(1)の事実に加え、
ア 全福中労は、昭和五一年一〇月一三日福中局長に対して本件業務移管に関する団体交渉を申入れ、福中局から同月二〇日郵政局の指示、同年一一月一三日省の文書等に基づき、いずれも策定中の計画が具体的化した段階で説明する旨の郵政局及び省の意向の連絡を受けた際、福中局に対し強く団体交渉としての対応を迫ったが、福中局は、団体交渉事項が省の所管であることや、交渉内容が具体的に分かっていない等として、確答しなかった。
イ 全福中労は、同年一二月一三日福中局を通じて省からファクシミリ方式で「博多郵便局の局舎増築に伴う郵便業務移管計画の協議に関する了解事項(案)」等の協約案の提示を受け、翌一四日大臣に対して団体交渉を申入れ、同月一八日まず郵政局で同月二一日に事実上の話合いを行いたいとの申出を受けた際、団体交渉でなければ駄目だとして、結局、右申出に応じない態度に決したのち、同月一九日再度大臣に福中局での団体交渉の申入れ等を行ったうえ、同月二二日公労委に対し不当労働行為救済申立を行った。
ウ 省は、全福中労に対し、同月二三日福中局を通じて、前同様まず郵政局での事実上の話し合いを求めてその日程を照会し、また、同月二八日福中局を通じて、本件業務移管の具体的計画として纏めた「博多局の局舎増築に伴う分配事務の移管に関する具体的実施計画」書を提示しようとしたが、全福中労は、公労委に救済申立をしているのでその結論を待って対処するとして、話し合いに応ずることや具体的計画の提示を受けることをいずれも拒否した。
エ 省は、その後も福中局を通じて全福中労に対し、右同日重ねて具体的実施計画の提示を受けるよう説得したほか、同月三〇日、昭和五二年一月六日、同二〇日の福中局での窓口折衝の機会に同様の説得を繰り返し、同月二七日にはより詳細な移管計画書を手交しようとし、福中局も同月二四日、郵政局から降ろされてきた業務移管後のレイアウト案につき説明しようとしたが、全福中労は、更に本件業務移管やそれに関連する労働条件、移管後の福中局のレイアウトの変更等につき、同年一月一四日と同月二二日に福中局長、同月二九日に大臣、同年三月一日に福中局長に対する各団体交渉を申入れ、右省及び福中局の説得、説明等を全く受け付けなかった。
オ 省は、全福中労の団体交渉の申入れについては、福中局を通じて、団体交渉の当事者その他に関する協約が締結されていないことから、まず郵政局での事実上の話し合いをしたうえ、最終的な合意を省で行いたいとの態度で対応し、福中局も右省の意向を受けて全福中労に対し、団体交渉についての協約が成立するまでの間、事実上の折衝による意思疎通を行いたい旨述べ、その頃、全福中労の申入れている団体交渉の取扱い等を含め、同組合の(ママ)多数回にわたって窓口折衝や意思疎通の機会等を持った。
カ 公労委は、同年三月四日公労委規則三二条の二に基づく措置として、全福中労と大臣及び福中局長に対し別紙一記載の勧告を発し、省は、同月九日付け文書で公労委に対し、勧告の趣旨を受けて、団体交渉を重ねると共に、本件業務移管計画の内容をできるだけ早く組合側に提示、説明することにし、了解を得られない事項についても、省内の他の組合との間の協約等との均衡を図りながら、とりうる範囲内の措置を講じ、話し合い解決に努める旨の意向を表明した。
キ 全福中労は、その後同年三月八日、福中局から本件業務移管に伴う服務表について提示、説明したい旨申入れを受けた際、右勧告にある事前協約締結のための交渉とそれに基づく提示、説明でなければならず、そうでないものは受けられないとして、結局右福中局の提示、説明を受け入れず、改めて同月一二日、福中局長に対し右服務表に関する団体交渉を申入れ、同月一五日窓口折衝の機会を持ったが、団体交渉という形式に拘らず意思疎通として行いたい、という福中局の意向に対し、あくまで団体交渉なり事前協約締結のための交渉でなければならない、との態度を崩さず、折り合わなかった。
右の各事実を認定することができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 本件祝日配達休止試行の関係では、原判決四九枚目表九行目の「前掲乙第三〇〇号証、」)から一二行目の「乙第二六九号証」までに掲記の各証拠、及び(証拠略)、弁論の全趣旨を総合すれば、原判決認定の被控訴人らの主張一3(1)の事実に加え、
ア 祝日配達休止の試行については、福中局でも昭和五一年中にそれに備えて服務表の改正がなされ、また、省と全逓、全郵政との間の団体交渉や協約の締結等も行われ、昭和五二年五月五日の本件祝日配達休止試行が実施されることになった。
イ 福中局は、昭和五二年四月二二日郵政局から公式にその通知を受け、組合への提示方を指示されて、直ちに全福中労に本件祝日配達休止の試行について説明したい旨窓口折衝を申入れた。
ウ 全福中労は、翌二三日福中局長に対し、本件祝日配達休止の試行について同月二七日の団体交渉を申入れるとともに、同日午前中の窓口折衝で、福中局の説明を受けるのに先立ち、全福中労への提示が遅れたとしてその釈明や調査を求め、あるいは団体交渉についての局側の考えを糺したりしたが、同日午後再度開かれた窓口折衝のなかで、右試行の内容について福中局の説明を受け、若干の質問をし、且つ当局の組合に対する要望等も聞いた。
エ 全福中労は、同月二七日福中局に対して窓口折衝を求め、前記申入れている団体交渉について局側の返答を求めたが、福中局は、団体交渉ではなく、事実上の意思疎通として行いたいとの意向を述べ、団体交渉については省が同年六月を目途に協約案を取り纏め中であるとして、確答しなかった。
右の各事実を認定することができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) 本件年末年始繁忙対策の関係では、原判決四八枚目裏九行目の「いずれも」から四九枚目表六行目の「第二六〇号証」までに掲記の各証拠、及び成立に争いのない(証拠略)の全趣旨を総合すれば、原判決認定の被控訴人らの主張一2(1)の事実に加え、
ア 全福郵労は、昭和五二年一〇月七日福中局長、筑紫局長、西局長に対し、本件年末年始繁忙対策につき総括事項、要員関係事項、服務関係事項、作業環境関係事項、福利厚生関係事項の各項目別の具体的要求を提示したうえ、それらの要求事項について同月一七日福中局での団体交渉の申入れをした。
イ 右全福郵労の団体交渉の申入れに対し、同月一四日から一五日にかけて、福中局、筑紫局、西局の三局とも、全福郵労との団体交渉のあり方が省で検討中である(従って、各局として団体交渉ができる状況ではない。)ことと、年末年始の繁忙対策については、未だ話合いのできる段階にないので、今後話合いのできる段階になったら組合にも説明をし、意思疎通を図って行きたい旨回答した。
ウ 全福郵労は、同年一〇月一八日福中局長、筑紫局長、西局長に対し、右各局側の回答が「団体交渉に応じられない。」との主張である旨通告するとともに、改めて、当局側で策定中の年末年始繁忙対策についてではなく、組合が提示した前記要求事項について、局側のいう意思疎通のための話し合いを求める旨申入れたが、前記三局とも、組合の意見を聞くために指定された日に話合いの場を持つことには同意したものの、組合側の出席者を従前同様当該局所属の職員に限定し、他局所属の職員が加われば話し合いに応じないとの態度であり、一方全福郵労も他局所属の組合員を交える態度を変えず、結局、右話し合いは持たれなかった。
エ 同月二八日筑紫局は、全福郵労の分会に年賀売り捌きと年末年始の仮設について説明したい旨申入れ、同分会長からも話も何も聞く権限がない。委員長にいってくれ、と頑なに拒否されたのち、あくまで応じないということであれば省の責任で年賀売り捌き、仮設の設置を実施する旨言明し、同年二月二日福中局は、全福郵労に同月四日年賀売り捌きと年末年始の仮設について説明したい旨申入れたが、組合側の出席予定者を尋ねたうえ、その中に他局の職員がいたため、他局職員が入るのであれば説明できない、という態度を表明し、組合側にも譲歩をせず、折り合いがつかなかった。
オ 同月一九日九州地調委が全福郵労、大臣、福中局に示し、双方が受諾した勧告の内容は別紙二記載のとおりであり、全福郵労は、同日直ちに大臣、郵政局長、及び福中局、筑紫局、西局の三局長に対し右勧告に基づく話し合いを申入れ、話し合い委員の指名を求める等したところ、同日午後省が全福郵労にファクシミリ方式で提案した本件年末年始繁忙対策についての意思疎通の方法は別紙三記載のとおりであり、全福郵労は同提案が右勧告を無視するものだ等として反発した。
カ 全福郵労は、同日以降同年一二月三日頃までの間、右問題につき福中局等で局側と多数回窓口折衝の機会を持ったが、右ファクシミリ方式による提案が九州地調委の勧告を踏まえ、勧告以上の内容のものである、とする当局側の主張に対し、あくまで勧告どおりの話し合いの実現を求めると主張して折り合わず、その間、一一月二八日頃から福中局、筑紫局、西局が既に纏まった年末年始繁忙対策、レイアウトの変更計画等につき、繰り返し自局所属組合員に対して行おうとした説明等の申入れについても、同組合員らが委員長にいってくれ、といって頑なに拒否した。
キ その後、同年一二月五日の九州地調委委員長の「希望」表明を受けて、同月六日、七日、九日の三回に亘り、福中局に設けられた「三局合同のような場」で、全福郵労と局側が本件年末年始繁忙対策等のうち三局共通の事項につき突っ込んだ話し合いを行ったが、組合の質問や要求が多岐に及び九日に至っても話し合いが終了しなかったため、局側は年末年始繁忙対策の実施を翌日に控えた九日の話し合い終了時点で、三局合同の場での話し合いを打ち切り、今後各局別に個別事項の説明をして行きたい旨表明したところ、全福郵労は、中断中の闘争指令の再開を言明してその場を立ち去った。
ク そして、翌一〇日以降現実に組合員による争議行為が再開され、各局が当該局所属の組合員らに対し前記個別事項につき説明等をしたい旨申入れても、組合員らがそれを無視して応答しない態度をとり、話し合いを拒否した。
(4) 以上、原判決認定の被控訴人らの主張一1(1)、同一2(1)、同一3(1)の各事実及び右認定した(1)ないし(3)の各事実によれば、本件業務移管、祝日配達休止試行、年末年始繁忙対策の当時、全福中労と省との間には、団体交渉の在り方についての基本的な協約、及び本件業務移管等に関する事前協議のための協約等が締結されてなく、その締結のための交渉が行われていたものであるところ、省としては、これらの点につき郵政局での事実上の話し合いを経て、最終的な合意を省で行いたいとしていたものであって、省が組合の申し入れた団体交渉を拒否した事実は認められず、また、郵便局長は省(国)から交渉権限を委任されない限り、当然に団体交渉を行い得るものではないが、本件業務移管、祝日配達休止試行、年末年始繁忙対策について、各郵便局長に団体交渉の権限がなく、省との団体交渉も実効のある状態ではなかったにしても、省、郵政局、各郵便局長ら郵政当局は、本件の各業務計画につき事前に内容の提示、説明を行ない、あるいは行おうとし、繰り返し組合に対する説得等を行っているものであり、たまたま団体交渉に関する協約締結以前であったため、正規の団体交渉としては行われなかったとしても、郵政当局が正当な理由なく、団体交渉を拒否して本件業務移管、祝日配達休止試行、年末年始繁忙対策を一方的に強行したとはいえず、前記控訴人らの主張はいずれも理由がない。
3 原判決五九枚目表七行目ないし九行目の「その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書として推定すべき」を「成立に争いのない」と改め、同一〇行目の「原告上原利信本人尋問の結果」と同裏一行目の「問の結果」の次にそれぞれ「、当審における控訴人槻木敏雄本人尋問の結果」を、同六〇枚目表三行目の「本人尋問の各結果」の次に、「、控訴人宮森勝基の関係につき更に当審における同控訴人本人尋問の結果」を、同一一行目の「主張していたこと」の次に「、右控訴人らの年次有給休暇の請求は、全福郵労が中断中の闘争再開を指令後の同月一〇日以降、争議行為の最中に行われていること」を、同裏一一行目の「認められない。」の次に「因みに、当審における控訴人槻木敏雄本人尋問の結果によれば、同控訴人は、一二月一二日午前中遅刻した二時間につき年次有給休暇の請求をしたものであるが、出勤後直ちに、休憩室にたむろして当局の要請する勤務に就いていなかった組合員らと合流し、争議行為に加わったことが認められ、控訴人板浦誠一、同樋口和彦についても、それぞれ四時間ずつの年次有給休暇を請求した当日、いずれも本件の争議行為に加わってその日の勤務時間のすべてを欠務していることは、前記のとおり当事者間に争いがないところである。
なお、成立に争いのない(証拠略)、ならびに原審における控訴人百田直孝、同岩野準司本人尋問の結果によれば、同控訴人らに対し、時季変更権が行使されたことが認められるところ、当時、年末の繁忙期間であって、平常時よりも要員配置を増やす等特別な対策によって業務の正常運行を確保しなければならない特別な時期であったうえ、全福郵労の争議行為も行われていた状況であったことは、前記認定のとおりであり、所属長が同控訴人らに請求日全日の有給休暇を与えることが業務の正常な運営を妨げる場合に該当するということができるから、同控訴人らの年次有給休暇の請求が、争議行為には加わらない意思のもとに、争議行為と無関係になされたものであるとしても、当局の時季変更権の行使は適法である。」を加える。
4 当審における証拠調べの結果によっても、以上の認定判断を左右するに足りない。
二 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 緒賀恒雄 裁判官 田中貞和 裁判官 木下順太郎)