大判例

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福岡高等裁判所 昭和31(う)146 高裁判例

主 文

原判決を破棄する。

被告人等を各罰金三千円に処する。

被告人等において右罰金を完納することができないときは、金二百円を

一日に換算した期間、各被告人を労役場に留置する。

被告人等に対し選挙権被選挙権を有しない期間を二年間に短縮する。

理 由

本件控訴趣意は、記録中の原審検察官検事折田信長名義控訴趣意書記載のとおり

であるから、これを引用する。

同控訴趣意(法律解釈並びに法令適用の誤り)について。

原判決が、本件公訴事実すなわち「被告人等は、昭和三〇年二月一日頃より同年

五月頃まで戸畑市選挙管理委員会の臨時雇をしていたものであるが、同年四月三〇

日施行の戸畑市議会議員選挙に立候補した戸畑市a町b丁目Aの次男CがAに当選

を得させる目的で投票所入場券百枚位を不正に入手したい意向であることを聞知す

るや共謀の上、右選挙管理委員会において発行した投票所入場券のうち選挙人に配

布できなかつたものを売りつけようと企て、同年四月二五日頃及び翌四月二六日頃

の二回に亘り右B方に於て、Cに対し選挙人D外一七名の該選挙の投票所入場券を

示し、かような投票所入場券約百枚を入手して交付するから、その対価として金十

万円を供与せられ度い旨要求した」旨の公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号

の訴因に対し、右規定における選挙運動の意義は、特定の議員選挙につき特定人の

当選(相対的多数投票の獲得)に有利ならしめることを直接の目的として、多数選

挙人に働きかける行動をいうものと解すべきであり、被告人等の本件行為自体は候

補者の当選に有利ならしめることを直接の目的とする行為ということはできず、又

多数選挙人に対する働きかけであるということもできないとの理由のもとに、被告

人等に対し無罪の言渡をしたものであることは、所論のとおりである。

<要旨第一>そこで同法第二二一条各号以下の罰則を以て取締りの対象としている

選挙運動の意義について考えてみるの</要旨第一>に、法の趣意とするところは、金

銭その他の不正の利益をもつて選挙の結果を左右せんとする総ての企を禁遏し、選

挙の自由公正を確保しようとする点にあることからみて、当選に有利ならしめるが

為にする一切の行為を意味し、従つて他人の当選を妨害する行為、選挙情勢を偵察

する行為、演説会場の野次を禁止する行為等間接に候補者の当選に資する結果を招

来する行為も包含し、必ずしも多数選挙人に働きかける行為であることを要しない

のは勿論、直接当選に有利な結果をもたらす行為に限定する必要もない。

そして通常選挙運動は、選挙人の有効投票の比較多数獲得を目標として展開され

るけれども、必らずしも適法な投票の獲得を対象とするものに限定されず、特定候

補者をして一応有効な投票を獲得せしめようとする行も亦選挙運動にあたるものと

いわねばならない。

本件被告人等の行為は、昭和三〇年四月三〇日施行の戸畑市議会議員選挙に立候

補したA候補の選挙運動者である同人の次男Cに対し、同月二五日及び二六日頃不

在者の投票所入場券を示し、斯様な入場券の入手を斡旋するから、その対価として

金一〇万円の供与方を要求したというのであつて、右候補者の選挙運動者が替玉投

票もしくはその他の方法によつて該候補者の多数投票獲得に資せんと欲すれば、こ

れを斡旋しようと申出でたものであるから、右候補者のため選挙運動の申出をし、

これが対価として金員の要求をしたものとみるべきである。尤も、選挙人の投票を

通じて、特定候補者の当選に資する結果が期待せられる性質を有する行動でなけれ

ば、選挙運動とはいえないとの理由で、投票すり替えは選挙運動にあたらないと

し、無罪とした判例(福岡高等裁判所昭和二七年二月二八日判決高等裁判所判例集

第五巻第二号二八九頁以下参照)もある<要旨第二>が、投票所入場券を特定候補者

の当選をはかるため斡旋する行為は、該入場券入手者において、右不在者の所</要

旨第二>在を捜査してその投票権を行使せしめ、又は代理投票をなさしめることとす

るなど適法な方法により自派の投票獲得数の増加を図ることも可能であるのみなら

ず、違法な替玉投票等をなさしめる等の方法により比較的多獲得に資する場合も予

想せられるから、右入場券の斡旋が選挙人の投票と何ら関連のないものとすること

はできず、右判例と抵触しないものというべきである。

そうだとすれば、原判決は公職選挙法第二二一条にいう選挙運動の意義を不当に

狭く解釈して同条の適用を誤つたものといわねばならないこと、まことに検察官指

摘のとおりであつて、右法令適用の誤りは主文に影響を及ぼすことが明かであるか

ら、原判決は刑事訴訟法第三九七条第三八〇条により破棄を免れない。論旨は理由

がある。

そして当裁判所は、直ちに判決することができるものと認めるので、同法第四〇

〇条但書に従い更に判決する。

当裁判所の認定した事実は、本件起訴状記載の公訴事実と同一であるから、これ

を引用する。

(証拠の標目)

一、 被告人等の検察官に対する各供述記載竝びに原審第四回公判における供述

記載

一、 原審証人Cの原審第三回公判調書中の供述記載

一、 押収してある投票所入場券一八枚

(法令の適用)

公職選挙法第二二一条第一項第四号第一号、罰金等臨時措置法第二条(罰金刑選

択)、刑法六〇条、第一八条、公職選挙法第二五二条第三項、

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 鈴木進 裁判官 厚地政信)

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