福岡高等裁判所宮崎支部 事件番号不詳〔2〕 判決
本籍並住居
佐伯市東灘区九、四三六番地
佐伯機帆船運送株式会社
取締役
松井博文
大正四年九月二十日生
右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和二十四年六月二十八日大分地方裁判所佐伯支部で言い渡した判決に対し、大分地方検察庁佐伯支部検察官事務取扱副検事から控訴の申立があつたので当裁判所は次の通り判決をする。
主文
本件控訴を棄却する。
理由
大分地方検察庁佐伯支部検察官事務取扱副検事某の控訴趣意は、末尾に添へた控訴趣意書に記載したとほりである。
しかしながら、原審公判調書中の証人長田重吉並びに被告人の各供述を綜合すると、所論の燃料取扱手数料ほか三件の収入金十五万千二百三十二円は、その性質自体原判決に説示した通り会社に対する株主の出資金に類似し、これを会社の益金に計上すべきものと即断することができないものであるばかりではなく、経理に精通しない被告人において、右収入金を会社に対する株主の出資金であると信じて、これを会社の益金に計上しなかつた消息をうかゞうことができるから、原審が被告人において脱税の犯意の証明が十分でないとして、無罪の言渡しをしたのは相当であつて所論のような事実の誤認がないから、論旨は採用しがたい。
右の理由であるから、刑事訴訟法第三九六条によつて主文の通り判決をする。
検事某関与
控訴趣意書
本籍並住居 大分県佐伯市東灘区九千四百三十六番地
佐伯機帆船運送株式会社
代表者取締役 松井博文
大正四年九月二十日生
右の者に対する、法人税法違反被告事件の控訴の趣意は、次の通りである。
記
原審判決には、重大なる事実の誤認があり該誤認は、判決に影響を及ぼすものである。
第一、本件公訴事実
被告人は、昭和二十二年九月二十日頃より、佐伯機帆船運送株式会社代表者取締役社長として、同会社の経理一切の管理をしてゐるものであるが、同会社の事業年度である昭和二十二年九月二十日より昭和二十三年三月三十一日迄の間会社が収入した燃料取扱手数料外三件十五万一千二百三十二円を会社の益金に計上せず、別途預金し、不正の行為により法人税八万九千七百十八円を免れたものである。
第二、判決理由の要旨と控訴趣意
一、判決理由を要約すると、
(イ) 燃料取扱手数料外三件十五万千二百三十二円を、会社の益金として計上してないこと明白である。併し、証第一号二号の各記載内容を綜合すると、これ等の資金が何故本件会社の所有に帰属するか、果して本件会社の益金として、計上すべきものか疑問がある。
(ロ) 本件会社は、設立の経緯からして他の所謂営利会社とは聊かその性質を異にしており、運搬手数料や、燃料手数料は会社経費は予備費とも云ふべき性質を有している。
(ハ) 右のように燃料取扱手数料等の性質については、計理上相当考慮すべき点があるので、会社の益金に計上しないという理由で直ちに被告人に法人税を免れる不正行為を為す意思ありと認定できない。その他被告人に不正行為を為す犯意を認めるに足る証拠がない。尤も公訴事実の十五万千二百三十二円は別途予金(証第七号)し、これを事務所建築工費の一部に使用してゐる事は認められるがこの事務所を会社の所有とするか、株主の共有とするかは、後日決定することになつていることが認められるので、この建築工費使用の事実を以てしては、前記認定を覆し得ない。
二、控訴趣意
運送取扱手数料等十五万千二百三十二円を会社の益金に計上してない事は何等争ひはない。
仍て此の金員が会社の益金に計上すべきであるとの点及被告人に於て法人税法第四十八条第一項の不正の行為により法人税を免れたものである点を原審記録に表はれた証拠に基いて説明する。
(ニ) 先づ十五万千二百三十二円の金の性質について詳述する。
1、十一万二千四百円は昭和二十二年九月二十日より昭和二十三年三月三十一日迄に徴収した運送取扱手数料である。
(証第一号及検察事務官に対する長田重吉、第一回供述調書証人長田重吉の証言)
三万三千二百三十円は、前記同一期間内に会社が配給した燃料の配給手数料で株主たる船主及其の他の船主より、十八リツターにつき、金五円の割合で徴収したもので、積屯割による船主負担金と並行して休航した船主と運航した船主との公平を保つ為徴収してゐたものである。
(証第一号長田重吉、松井博文の検察事務官に対する第一回供述調書、証人長田重吉の証言)
右二種の取扱手数料は、いづれも本件会社の業務により生じた収益である。(会社登記簿抄本の目的欄参照)本件会社は、設立当時の方針としては、会社経費は木炭事務所より支給される事務処置料(積載荷一屯当二円九拾銭)によつて之を賄ひ、足りない経費は運送取扱手数料による事とし、之を会社設立当時株主総会に於て決議し爾来徴収して来たのであることは、検察事務官に対する長田重吉の第一回(三月十七日附)供述調書によつて認め得る。尚右証拠によると会社は、運送取扱業者として、船主に代りて運送料金の請求もなし事務処置料と併せ、受領して居りたる事が認められる。
運送取扱手数料及燃料取扱手数料について、被告人は条件として、会社の経理の収支の償う時期に於て停止する事に株主総会で決議され、各株主たる船主に還付する条件がついてゐたと述べているが、これ等手数料は、株主以外の者からも徴収してゐることが、証第一号及長田重吉三月十九日検察事務官に対する供述調書添付の明細書によつて認められるので、之を株主たる船主のみに還付することは、不合理であるのみならず手数料徴収の経緯を以て直に手数料が出資金の性質を有すると認めることは、株主以外から徴収されている点から推しても不当であり、却て証人長田重吉の証言並同人及被告人の検察事務官に対する供述内容と、証第八号とを綜合すると決算期において益金の処分として予てより企図していた会社事務所の建築資振金に当てた事が十分認められる。
2、二千九百円は、昭和二十二年九月二十日以前当会社設立以前の運送取扱手数料である(証第一号松井博文の検察事務官に対する第一回、第二回(三月十五日、三月二十三日)供述調書)
3、二千六百八十二円は同じく会社設立前の大分地区船主運送株式会社佐伯出張所帳尻繰高である(証第一号及松井博文三月二十三日検察事務官に対する供述調書)
以上二種の手数料等も之又会社の益金として計上すべきものであることは、長田重吉の第一回検察事務官に対する供述、被告人の供述調書証第一号により明らかである。
仍て以上の通り十五万一千二百三十二円は、当然会社の益金と見るべきものである。
次に会社代表者たる本件被告人松井博文において、法人税を免れるについて、不正の行為があつた点について説明する。
裁判所は不正の行為とは客観的に二重帳簿の作成其の他不正行為あるを要すると説示し、一見積極的行為を要するが如き文言を用いているが、何等二重帳簿等の作為を為さずに(例へば完全なる無記帳)虚僞確定申告をする場合には二重帳簿作成より一層悪質の逋脱犯と見るべきである。
即ち法人税を免れる認識の下に虚僞の確定申告をした場合にはその申告と同時に逋脱犯の既遂が成立する。
1、本件十五万千二百三十二円が会社の益金であること、之を益金として計上してないことは、前記説示の通りである。
2、よつて被告人に犯意があつたか否かの点であるが、証第八号、六号、五号、七号、四号によるど、是等益金は別途に建築資金に充当する為、当会社の預金とは別個に、会社の株主とは関係のない佐伯機帆船株式会社松井德十郞として 預金している事実並該建築が会社名義であり、会社所有とすることについて被告人が知悉していた事実即ち会社の事務所建築を為すために別途預金をして、会社の益金に計上しなかつた事実が認められる。従つて不正の行為により法人税を免れたと認めるべきである。
昭和二十四年八月 日
大分地方検察庁佐伯支部
控訴申立人 検察官事務取扱副検事 某
福岡高等裁判所宮崎支部殿