福岡高等裁判所宮崎支部 平成10年(う)33号 判決 1999年11月04日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人真早流踏雄、同宮田行雄、同織戸良寛連名作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官古崎克美作成の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討する。
一 関係証拠によれば、次の事実が認められる。
1 被告人は平成三年夏頃から有限会社乙塗装店に塗装工として勤務していたが、その傍ら平成四年一二月頃から、いわゆるマルチ商法を行う株式会社甲社の会員になって健康食品の販売の仕事を始め、実績を伸ばして販売店、特約販売店と昇格したが、その間乙塗装店を無断欠勤したことから、遅くとも平成五年五月には同塗装店を自然退社処分となっていた。
ところで、被告人は後述の交通事故の後、甲社の仕事を辞め、かって勤務していた乙塗装店に再度雇って貰らおうと考え、同塗装店代表者の乙川花子に連絡し、同年五月一九日同人と相談したうえ、同月二二日、甲社で被告人の上位に当たる代理店のA(当時二六歳)との話合いが行われ、乙川の助力もあり、被告人とAとの間で同社の代理店と特約販売店の関係を清算することに合意し、同日をもって被告人は同社の特約販売店としての仕事を辞め、同年六月四日から再び乙塗装店に塗装工として稼働した。
2 被告人は、甲社の特約販売店としてもっぱら稼働していた同年五月一〇日、同社の研修に参加するため、同じ特約販売店仲間数人と自動車に分乗して福岡市内に向かっていたところ、福岡県糟屋郡<以下省略>の九州縦貫自動車道古賀インター流出七番ブース先路上で、自己が運転しBらが同乗する普通乗用自動車が同じ仲間のC(現姓C1)の運転する普通乗用自動車に追突される交通事故に遭遇し、この事故によって頚部に痛みや痺れがあり、宮崎に戻った後の同月一三日市来外科医院で診察を受け頚腰椎捻挫と診断され、その治療のため同医院へ同日から同年七月三〇日まで通院した。
3 右の交通事故を起こしたC運転の普通乗用自動車は、同乗していたDの所有で、同人は右車両に高岡町農業協同組合(以下「高岡町農協」という。)との間で自動車共済契約を締結していたので、被告人はこの自動車共済から右交通事故によって自らに生じた損害金に相当する共済金の請求をすることにしたが、その共済金請求手続の仕方が分からなかったため、父親の丁谷太郎を介して同人が懇意にしていた保険代理店を経営しているEを紹介され、同年五月二一日Eと面談して、事故の説明をし、これに対して同人から、共済金の請求は治療を終わった時点ですることや、会社を休んだ期間は休業損害補償金も請求できることなどの説明を受け、さらに、この頃、同人から共済金の請求書類は高岡町農協から貰うことを勧められ、休業損害証明書は会社に書いて貰うことの説明も受けた。被告人はその後、高岡町農協に行き、同共済課主任の丙山一郎(以下「丙山」という。)から休業損害証明書用紙の交付を受けた。
4 被告人は、作成時期の順序の前後は別として、①右交付を受けた休業損害証明書用紙を、甲社の代理店であるA方に持参して、同人から、その証明書の記載内容を証明する事業者欄に、「(株)甲代理店A」の座判とその名下に同人の実印の押捺を受け、②一方、右証明書の中身の記載方法が分からず、Eに対してその記載方を依頼し、同年八月二日頃、右証明書用紙とA作成の同年二月分の販売報酬支払明細書と同年三月分、四月分の各販売実績証明書を持参して、同人によって右証明書用紙へ事故による欠勤期間を事故当日の同年五月一〇日から通院治療を中止した同年七月三〇日までの七一日間とする等の記載を受け、これらの①及び②の作成によって、被告人が前記交通事故で同年五月一〇日から同年七月三〇日までのうち七一日間、稼働していた甲社の特約販売店の営業を休業した旨の休業損害証明書(以下「本件証明書」という。)が完成した。
5 被告人は前記のとおり、甲社の特約販売店の営業を同年五月二二日をもって辞め、同年六月四日から乙塗装店で稼働していたもので、同年七月三〇日まで甲社を欠勤している旨を記載した本件証明書の記載内容が虚偽であることを分かっていたが、同年八月二日から同年九月二二日までの間に、高岡町農協に赴き、本件の交通事故に関する共済を直接担当していた同共済課課長補佐Fが不在で、応対した共済課主任の丙山に対して、本件証明書をこの休業期間の甲社における収入を証明する書類と共に提出して、本件の交通事故による被害者としての自動車共済にかかる休業損害補償金の支払を請求した。
6 本件証明書と収入証明書類は、被告人から丙山が受け取り、同人から直接の担当者であるFに手渡され、本件証明書の記載内容が真実なものとして本件の交通事故によって被告人に生じた休業損害補償金の支払手続がとられ、共済金支払の決定権者である宮崎県共済農業協同組合連合会の自動車部長Gをして、本件証明書の記載が真実であり、同連合会が被告人に対し、平成五年五月一〇日から同年七月三〇日までのうち七一日間の休業損害補償金支払の義務を負うものと誤信して共済金の支払の決定をし、同年一〇月二八日、同連合会から高岡町農協を介して、株式会社宮崎銀行大塚中央支店の被告人名義の普通預金口座に休業損害補償金名下に七七万七四五〇円を振込送金して、被告人はこの金員を受け取った。
右の事実経過からすれば、被告人は甲社の特約販売店の営業を平成五年五月二二日をもって辞めていたのであるから、高岡町農協共済課主任の丙山に対し、自己が平成五年五月一〇日から同年七月三〇日まで甲社を欠勤した旨の虚偽の内容が記載された本件証明書を提出し、これによってその証明内容に沿う休業損害補償金の支払を受けていることが明らかである。
これに対して、論旨(弁論要旨を含む。)は、要するに、被告人は、自動車共済に基づく休業損害補償金の支払請求をするため、丙山に対して本件証明書を提出した際、本件事故当時は甲社に勤務していたが、その後乙塗装店に転職したこと、乙塗装店からは休業損害証明書用紙に印鑑を貰えなかったこと、そのため被告人自ら休業損害証明書用紙に乙塗装店での欠勤期間を書き込み提出したこと、その書き込んだ欠勤期間には同塗装店に出勤した日数を差し引いていること、本件証明書には乙塗装店での休業期間も含まれていること、両社の給料額が全然違うことについて説明しているから、本件証明書の高岡町農協への提出行為が自動車共済から架空の休業損害補償金を騙取するための欺罔行為には当たらず、被告人は本件証明書のみを提出し、また、被告人から転職の事実を告げられなかったとする丙山の証言や、これに沿う被告人の捜査段階における自白調書の内容には信用性がないにもかかわらず、原判決はその証拠の評価を誤りその信用性を肯定して、被告人の本件証明書の提出行為が自動車共済からの休業損害補償金の支払を請求した欺罔行為にあたるとの事実を認定しているので、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるから、原判決は破棄されるべきである、というのである。
二 当審で取り調べた丙山の司法検察員に対する供述調書写し(原審で弁護人から証明力を争う刑訴法三二八条の証拠として取り調べた供述調書写し[弁第3号]と同じもの)の内容は、次のとおりである。①高岡町農協共済課主任の丙山は、平成五年八月に入った頃から同年九月二二日までの間に、同高岡町農協に自動車共済の共済金請求の関係で訪れた被告人と二回応接した。②一回目は、被告人が甲社での同年二月分の販売報酬支払明細書と三月分、四月分の各販売実績証明書を提出したときで、この書類はその日に受取ったとの記憶を持っているが、この書類では月例給与額や欠勤期間が分からず、休業補償費の計算ができないので、被告人に対し、休業損害証明書を作成して提出することを要請したこと、その際に、被告人から本件交通事故後に転職したとの話を聞いたので、本件交通事故による休業期間中であれば会社が変わっても、そこで休業損害証明書を作成してもらえば休業補償費を支払うことができることから、被告人に両方の会社から休業損害証明書を作成してもらって提出するように説明した記憶があり、同高岡町農協で使用している休業損害証明書用紙二枚位を渡したこと。③二回目は、それから二、三週間して再び被告人が訪れ、休業損害証明書を二通提出したので、これを点検して、甲社発行の欠勤期間が事故日から通院中止の日までの全期間としている本件証明書を真正なものとして受理し、その後この受理した本件証明書を本件事故の共済金担当の共済課課長補佐Fに引き継いだこと、本件証明書を提出した際に、被告人から提出されたもう一通の休業損害証明書は、点検した結果、「私(丙山)が頭からはねつけて甲野さん(被告人)に返したことを記憶しています。その時に、私が甲野さんに「交通事故後の分はみれんよ」というようなことを言ったのですが、それは、私は、交通事故後の職場の給料も甲社同様に高額であり、その分と事故前の収入と併せた分で、休業補償費を支払ってもらいたいために甲野さんが休業損害証明書を二通提出したと思ったので、私としては、休業補償費は事故前の職場の三ヶ月分だけの給料を基礎に算定をしますので、事故後の新しい職場の給料分までは支払うことができない、という意味で言ったのです。別の休業損害証明書については、会社名とか内容は覚えておりませんが、私が「頭からはねつけた」と記憶していることから、内容の点検を行った際、甲社発行の休業損害証明書(本件証明書)で、今回の事故の共済金請求に必要な部分は網羅されており、別の休業損害証明書には、事故後のことが記入されていたと記憶しています」というものである。
右丙山の供述調書の内容は、詳細かつ具体的であって、格別不自然、不合理であるとも認められない。もっとも、一回目の応接の際に、被告人から甲社の販売報酬支払明細書と販売実績証明書の三通を受取ったとする点は、被告人の貰って来た本件証明書用紙に、Eが被告人の持ってきた右三通の書類を見て、その事故前三か月の同社からの支給金額を記載していることが、Eの証言から明らかであるから、この点は二回目の応接の際に本件証明書の提出と共に受け取ったものと認められるので、この点は丙山の記憶違いであると窺われる。しかし、丙山を取り調べた警察官Hの証言によれば、被告人の自動車共済金詐欺嫌疑で、宮崎南警察署は高岡町農協において、その関係書類の捜査や関係職員からの事情聴取をしていたところ、当初関係のない職員と思われていた丙山が本件証明書を被告人から直接受取っていることが判明し、Hが平成八年九月から一〇月頃に、丙山からその際の事情を聴取したところ、当初は、被告人が女性と二人で来た程度しか思い出せなかったが、共済金請求関係の書類を見せて記憶を喚起させ、数回右高岡町農協に出向いて繰り返し事情を聞き、その結果聴取した供述をHが供述調書として作成し、同年一一月一二日右高岡町農協に出向いて丙山の面前で右作成した供述調書を読み聞かせ、同人から内容に誤りのないことの確認を受けた上、同人に自署押印をしてもらったもので、Hら捜査官は丙山にことさら記憶のないことを誤導し供述を求めたこともなく、丙山が記憶を喚起したところを録取した供述書面であることが認められるので、その内容の信用性を認めるのに十分である。
この点について、丙山は原審での証言で、被告人と一回目の応接をした時には、休業損害証明書用紙は一枚しか渡さず、その際被告人からは本件交通事故の後転職したことを聞いたことがなく、また二回目の応接をした時には、被告人は甲社発行の本件証明書一通しか持ってこなかったと供述し、前記供述調書の内容と異なる証言をしている。その異なる供述をした理由について、丙山はその証言で、共済金請求関係の書類を預かった時には宮崎県共済農業協同組合連合会にその支払請求をするため必ずコピーを取っておき、また転職の事実を聞いていれば別会社のものでも必ずコピーをして控えを残すが、本件関係書類を調べると休業損害証明書のコピーが本件証明書の一枚しかないので、被告人に休業損害証明書の用紙を一枚しか渡さず、被告人から休業損害証明書を提出されたのは本件証明書一通であり、かつ被告人から転職したとも聞いていないといえるというのである。しかし、前記の供述調書の内容からしても明らかなとおり、丙山は結局は本件証明書一通しか受理していないのであり、別の休業損害証明書は「頭からはねつけた」というのであるから、そのコピーを取って関係書類として残ったのは本件証明書のもの一枚であることが明らかで、被告人から本件交通事故後に転職した事実を知らされたのは口頭であるとしているのであるから、この事実の書類をコピーすることはありえず、かつHによる事情聴取の際も、丙山は本件の関係書類を見て記憶を喚起していることが、前記供述調書の内容及びHの証言からして認められるから、その際にも、丙山は右の関係書類中に本件証明書のコピー一枚しかなかったことを知っていたのは明白であることに照らすと、同人が異なる証言をする根拠は不自然、不合理なものである。さらに、丙山はその証言で、前記供述調書では、警察官から被告人が本件交通事故後に転職している事実を聞かされていたので、被告人から転職した事実を聞いたものと思って供述し、また、警察官に二つの会社で休業損害があれば二か所分の休業損害証明書を提出すれば損害として認めることを話したのが、前記供述調書で被告人に両会社から休業損害証明書を貰うように説明したということになってしまったとするが、この弁明自体が奇異なものであり、前記供述調書の内容では、これらの点について、被告人から聞き、また丙山が被告人に説明したとすることは明瞭であり、かつ、その供述調書の中で、別に項を分けて、被告人に転職した日自体は警察から聞かされて判明したとし、事故当時の仕事を辞めて事故後に別な仕事を始めた時に、正しい休業補償費を貰うための手続も供述していることからしても、とうてい首肯できないところである。
そうすると、丙山の前記供述調書の内容と異なる同人の証言は信用できないものであり、同証言を信用できるとした原判決はその証拠としての評価を誤ったものといえる。
三 ところで、前記のとおり信用できる丙山の右供述調書と、これに沿う部分の被告人の公判供述(原審及び当審)に、関係証拠を併せれば、被告人が高岡町農協共済課主任の丙山に本件証明書を提出した経緯は、以下のとおりであると認められる。①被告人は本件交通事故による自動車共済による共済金の請求手続をするため、高岡町農協に赴いた際、応対した同共済課主任の丙山に事故後転職していることを告げたところ、同人から休業損害証明書用紙を二枚位渡され、両方の会社から右の休業損害証明書を作成してもらい提出するように説明された。②そこで、被告人はすでに平成五年六月四日から乙塗装点店で稼働していたので、代表者の乙川春子に休業損害証明書の作成を依頼したが、同人から右事故が同社に勤務する前のことであり、被告人の共済金請求手続に一切関係しないといわれ、その作成を拒否された。③被告人は右事故当時特約販売店として稼働していた甲社の休業損害証明書を作成するため、上位の代理店をするAから同用紙の記載内容を証明するための事業者欄に記名押印を受ける一方、保険代理業をしていたEに、その中味の記載を依頼し、右事故当日の平成五年五月一〇日から通院治療を中止した同年七月三〇日までのうち七一日間を、甲社での稼働を欠勤し、これを右代理店のAが証明する旨の本件証明書を完成させた。④被告人は甲社での稼働を同年五月二二日をもって辞めているため、本件証明書の同社での欠勤期間については内容虚偽の記載がされていることから、別の休業損害証明書用紙を使って、自ら乙塗装店で稼働し欠勤した期間として、鉛筆でその欠勤の期間欄に、甲社を辞めた翌日である同年五月二三日又は乙塗装店で稼働した同年六月四日から同年七月三〇日まで欠勤したことを記載した。⑤被告人は同年八月二日から同年九月二二日までの間に、本件交通事故による自動車共済による休業損害補償金の請求手続をするため、高岡町農協に赴き、応対した丙山に対して、本件証明書とこの収入を証明する書類と共に提出し、さらに被告人自らが鉛筆書きで欠勤期間を記載した別の休業損害証明書と乙塗装店でかって貰っていた給与支払明細書などの書類を提出した。⑥被告人の提示した休業損害証明書などの書類を点検した丙山は、書類として完成している本件証明書によれば同年七月三〇日まで甲社に勤務していることが認められ、併せて別の休業損害証明書によれば被告人が同社に勤務する傍ら、右事故後に別の会社である乙塗装店でも勤務していることになっているため、この乙塗装店での欠勤による休業損害補償金の支払まで認められないとして、被告人に対し「交通事故後の分はみれんよ」と言ってこの受理を拒否した。⑦一方、丙山は被告人から提出された本件証明書については、その書類上の不備はなく、その書類から被告人が甲社で稼働し、同年七月三〇日まで同社を欠勤していることが証明され、これが真実を記載しているものと思って、被告人の自動車共済に対する休業損害補償金の支払請求として受理された。⑧被告人は丙山に受理された本件証明書に記載されている欠勤期間が虚偽であることを、同人に対して積極的に告知せずに、本件証明書をその記載内容が真実であると誤解している丙山に受理されるように提出していた。
この内容虚偽の本件証明書を提出したてん末については、被告人の公判廷供述、Bの証言(当審)によると、被告人が丙山に本件証明書を提出した際に、その記載されている欠勤期間に乙塗装店の分も含まれていることを説明したが、同人が「乙塗装店のほうはもういいが。」とか、「印鑑のあるほうだけでいいが。」とか言って本件証明書のみを受理した、と供述する。しかし、丙山の供述調書からして、丙山が被告人から本件証明書の提出を受けた際、本件交通事故後被告人が乙塗装店へ転職したことを知らされ、その転職後の休業分も本件証明書で賄うことを了承して受理したと認めることはできず、被告人が乙塗装店に関する休業損害証明書を持って行ったとしても、前記のように丙山はその分は二重請求と疑っていた節もあり、同人が本件証明書を被告人から受理するに際して、その欠勤期間に転職後乙塗装店で稼働している期間も含まれていることを被告人が丙山に告知したとは認めることができないのであり、被告人らの右供述は信用できないところである。
したがって、右認定した事実によれば、被告人は丙山に内容虚偽の本件証明書を提出して休業損害補償金の支払請求をした際、同証明書の内容が虚偽であることを十分告知せずに請求しており、これが欺罔行為にあたると認められる。この点について、被告人の捜査段階の自白調書を証拠として加えて見なくとも、右のとおり被告人の本件の欺罔行為が認められるので、その信用性について判断するまでもないところであるが、少なくとも被告人が本件証明書を提出して欺罔行為をしたとする点の信用性は排斥できないところである。
四 以上のとおりであるから、被告人の内容虚偽の本件証明書を真正なものと装って休業損害補償金の支払を請求し、高岡町農協共済課主任丙山及びその書類を同人から受取った同共済課課長補佐Fらを誤信させる欺罔行為は、これを認めることができるから、原判決には、丙山証言につき証拠としての評価の誤りはあるものの、これを除いても、当審で取調べた丙山の前記供述調書を含めた関係証拠によって、被告人の右の欺罔行為が認定できるので、結局のところ、原判決の認定した罪となるべき事実にその誤認がないことに帰するので、論旨は理由がないこととなる。
よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は刑訴法一八一条一項本文を適用して、その全部を被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。