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福岡高等裁判所宮崎支部 平成13年(行コ)3号 判決 2002年3月19日

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中,行政処分無効確認請求に関する部分を取り消す。

2  本件のうち前項の取消しに係る部分を鹿児島地方裁判所に差し戻す。

第2事案の概要及び当事者の主張

事案の概要及び当事者の主張は,控訴人らが当審において別紙の平成13年4月20日付け,同年10月15日付け及び平成14年1月8日付け各準備書面(添付別紙は省略)写しのとおり主張したほか,原判決「事実」の第二,第四のとおりであるから,これを引用する。

第3当裁判所の判断

1  行政事件訴訟法36条は,無効確認訴訟の原告適格について規定するが,同条にいう当該処分の無効の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の無効確認訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,当該行政法規が,不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。

2  そこで検討するに,森林法10条の2第2項1号は,当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて,当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがないことを,また,同項1号の2は,当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて,当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがないことを開発許可の要件としている。これらの規定は,森林において必要な防災措置を講じないままに開発行為を行うときは,その結果,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害が発生して,人の生命,身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ,開発許可の段階で,開発行為の設計内容を十分審査し,当該開発行為により土砂の流出又は崩壊,水害等の災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしているものである。そして,この土砂の流出又は崩壊,水害等の災害が発生した場合における被害は,当該開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。以上のような上記各号の趣旨・目的,これらが開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等にかんがみれば,これらの規定は,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命,身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると,土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,開発許可の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者として,その無効確認訴訟における原告適格を有すると解するのが相当であるが,他方,そのような範囲の地域の外に居住する者は原告適格を有しないものといわざるをえない。

なお,森林法10条の2第2項1号及び同項1号の2の規定から,周辺住民の生命,身体の安全等の保護に加えて周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることは困難である。また,同項2号は,当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて,当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないことを,同項3号は,当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて,当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがないことを開発許可の要件としているけれども,これらの規定は,水の確保や良好な環境の保全という公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定しているものと解されるのであって,周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない。

3  そうすると,自然人ではない控訴人環境ネットワーク奄美が本件訴訟について原告適格を有しないことは明らかである。また,その余の控訴人らについても,弁論の全趣旨によれば,同人らが岩崎産業に対する本件処分に係る開発地域に近接する一定範囲の地域(土砂の流出又は崩壊,水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される範囲の地域)に居住する住民ではないことが認められるから,やはり原告適格を認めることはできない。

なお,控訴人らは,原告適格を根拠付ける事情として控訴人らの自然に対する関わりその他の事情をるる主張するが,森林法10条の2が控訴人らの主張するようなところを個々人の個別的利益として保護すべきものと規定したものとは,条文の文言に照らして解しがたく,控訴人らの原告適格を肯認することはできない。

4  よって,控訴人らの訴えを却下した原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 黒津英明 裁判官 岡田健)

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