福岡高等裁判所宮崎支部 平成16年(行コ)6号 判決 2004年12月22日
控訴人 株式会社A
同代表者代表取締役 乙
同訴訟代理人弁護士 蔵元淳
被控訴人 鹿児島税務署長 大西信彰
上記指定代理人 粟田真記子
寺本史郎
福山命
江上久継
児玉喜明
久保朝則
幸浩司
栁田敏之
太田克実
丸山京一郎
山口智幸
市原隆重
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、控訴人に対し、平成12年2月24日付けでした平成8年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。
3 被控訴人が、控訴人に対し、平成12年2月24日付けでした平成9年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。)をいずれも取り消す。
4 被控訴人が、控訴人に対し、平成12年5月11日付けでした平成10年1月1日から同年7月31日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。)をいずれも取り消す。
5 被控訴人が、控訴人に対し、平成12年2月24日付けでした平成10年8月1日から平成11年7月15日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。)をいずれも取り消す。
6 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要(請求、争点及び各審級における判断の各概要)
1 控訴人は、同社の平成8年12月期、平成9年12月期、平成10年7月期及び平成11年7月期(以下「本件各期」という。)において、その代表者である甲(以下「甲」という。)個人に対し、通じて20億円を超える貸金債権に係る利息債権(以下、同貸金及び同債権並びに同利息及び同債権をそれぞれ「本件貸金」、「本件貸金債権」、「本件利息債権」、「本件未収利息」(甲からみる場合は「何々債務」という。)という。)を有していた。
本件(平成14年9月13日訴え提起)は、本件各期において、控訴人が甲の債務超過を理由として、本件未収利息を受取利息として益金に算入することなく(以下、この措置を「本件益金不算入措置」という。)、原判決別表1(以下「別表1」という。)の「法人税の課税の経緯表((株)A)」に記載のとおり、法人税の確定申告(以下「本件各確定申告」といい、個別には「平成8年12月期分申告」などという。)をしたことに対し、被控訴人課税庁が、本件未収利息を受取利息として上記各期における益金に算入した上、別表1のとおり、各更正処分及び賦課決定(以下、同各更正処分、各賦課処分をそれぞれ一括して「本件各更正処分」、「本件各賦課決定」、併せて「本件各処分・決定」といい、個別には各期ごとに「平成8年12月期分更正処分」「平成8年12月期分賦課決定」などという。)をしたことから、控訴の趣旨記載2ないし5のとおり、控訴人が本件各処分・決定の取消しを求めたものであり、主たる争点は、本件未収利息が、法人税法22条2項が規定する「法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金に算入すべき収益」と認められるべきものか否かである。
原判決(平成16年4月28日言渡し)は、本件の主たる争点を、税務通達の解釈適用問題として、本件未収利息が、法人税法22条2項の解釈運用に関し、法人税の確定申告に際して益金に算入することを要しない未収利息の範囲の特例を定めた法人税基本通達「(相当期間未収が継続した場合等の貸付金利子等の帰属時期の特例)2-1-25」(1)(平成12年改正前のもの。以下「本件通達」という。)にいう「債務者が債務超過に陥っていることその他相当の理由」がある場合に当たるか否かとして捉え、本件未収利息は、これを本件通達に定める益金不算入が認められる場合の利子の要件を欠くものと判断し、本件請求を棄却したことから、控訴人が本件控訴に及んだものである。
本判決は、本件の主たる争点を、上記のとおり、より端的に、本件未収利息が法人税法22条2項に定める法人税の確定申告において「益金に算入すべき収益」に当たるか否かとして捉え、本件未収利息は、これに当たらず、したがって、本件益金不算入措置をした上でされた本件各確定申告は、上記法人税法の規定に反するものであるから、被控訴人課税庁がした本件各処分・決定に違法はないものと判断し、結論として、原判決を維持して本件控訴を棄却するものである。
第3 前提事実
この点は、次のとおり訂正し、付加し又は削除するほかは、原判決の「第3前提事実(争いがない事実以外は証拠等を示す。)」に記載のとおりであるから、これを、ここに引用する。
1 原判決2頁24行目から3頁12行目までを次のとおり改める。
「第3 前提事実
(以下の事実は、3及び7(1)ないし(4)の各①イの各最終文は、各同所掲記の各証拠により認定した事実、その余は、当事者間に争いがない事実である。ない、以下の争いがない事実についても、記録との対照の便宜のために、適宜、書証番号を付す。)
1 控訴人(昭和39年1月7日設立)は、遊技場(パチンコ)の経営等を目的とする法人税法2条に定める同族会社(青色申告法人)であり、甲は、本件各期において、同社の代表取締役(専務取締役)であった者である。
2 控訴人は、平成8年12月期(同年1月1日から同年12月31日まで)、平成9年12月期(同年1月1日から同年12月31日まで)、平成10年7月期(同年1月1日から同年7月31日まで)及び平成11年7月期(平成10年8月1日から平成11年8月31日まで)の本件各期を通じて、甲に対し、総額20億円を超える本件貸金債権及びこれを元本債権とする本件利息債権を有していた。
3 甲の本件各期における資産及び負債の状況は、原判決別表2(以下「別表2」という。)に記載のとおりである(同別表の「借入金」が控訴人の甲に対する本件貸金債権、同じく「未収利息」が本件利息債権である。甲2~4。上場株式以外の株式は類似業種比準方式又は純資産方式・業種比準方式の併用により評価)。
4 控訴人は、本件利息が本件通達に定める要件を満たし、その適用を受けて益金に算入しないことが許される場合に当たるものと判断し、別表1の各「確定申告」欄記載のとおり、本件各期において、本件益金不算入措置をした上で本件各確定申告(その各確定申告書は、年度順に乙1~4)をした。
5 これに対する被控訴人課税庁による本件各処分・決定及び控訴人の審査請求並びにこれに対する裁決庁(国税不服審判所長)による裁決等の経緯は、別表1に記載のとおりであり、平成14年6月17日付けでされた裁決に係る裁決書謄本(甲1)は、同月20日ころ、控訴人に送達された(これらの経過は甲1、乙5~9)。」
2 原判決3頁13行目の「4 貸付金利子等」から14行目の「法人」までを「6 本件通達の関連通達である法人税基本通達「(貸付金利子等の帰属の時期)2-1-24」(以下「本件関連通達」という。)によれば、法人」と、25行目の「上記法人税基本通達2-1-24」を「本件関連通達」とそれぞれ改め、26行目の「算入しないこと」の次に「(以下「益金不算入措置」という。)」を加える。
3 原判決4頁1行目から20行目までを削り、21行目の「10」を「7」と改め、22行目の「について」を削り、25行目の「甲」から26行目の「計上漏れ」までを「本件未収利息の計上漏れ」と改める。
4 原判決5頁1行目の「受取利息」から「貸付金額」までを「本件未収利息の額は、本件貸金額」と改める。
5 原判決6頁18行目の「甲」から19行目の「計上漏れ」までを「本件未収利息の計上漏れ」と、20行目の「受取利息」から「貸付金額」までを「本件未収利息の額は、本件貸金額」とそれぞれ改める。
6 原判決7頁22行目の「甲」から23行目の「計上漏れ」までを「本件未収利息の計上漏れ」と、24行目の「受取利息」から「貸付金額」までを「本件未収利息の額は、本件貸金額」とそれぞれ改める。
7 原判決8頁26行目の「甲」から原判決9頁1行目の「計上漏れ」までを「本件未収利息の計上漏れ」と改める。
8 原判決9頁2行目の「受取利息」から「貸付金額」までを「本件未収利息の額は、本件貸金額」とそれぞれ改める。
第4 争点及び当事者の主張
争点及び当事者の主張は、次のとおり訂正するほかは、原判決の「第4 争点及び当事者の主張」のとおりであるから、これを、ここに引用する。
1 原判決9頁19行目から26行目までを次のとおり改める。
「 本件利息を益金に算入すべきものとしてされた本件各処分・決定が法人税法22条2項に反して違法であるか否か。
控訴人は、本件各処分・決定は、法人税の確定申告について、益金不算入措置をとることが許される場合の特例を定めた本件通達の適用について、その要件である「債務者が債務超過に陥っていることその他相当の理由」の認定判断を誤り、本件利息は、益金不算入措置をとることが許される場合であるのに、控訴人の本件益金不算入を否認し、これを益金に算入すべきものとして本件各処分・決定をしたものであり、本件各処分・決定には、法人税法22条4項の趣旨に反し違法である旨主張するのに対し、被控訴人は、控訴人のした本件益金不算入は、そもそも、法人税法22条4項に定める「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるもの」とは認められないし、同条2項によれば、本件利息は益金に算入すべきものであり、本件通達が予定している益金不算入措置をとることが許される場合には当たらず、本件各処分・決定は適法である旨主張するので、本件の主たる争点は、控訴人の本件各確定申告に対し、被控訴人が本件利息を益金に算入すべきものと判断してした本件各処分・決定が、法人税法22条2項に反して違法か否かである。
なお、上記のとおり、原審は、本件の争点を甲が、本件通達に定める「債務者が債務超過に陥っていることその他相当な理由」が認められるか否か、即ち、本件各処分・決定に本件通達違反の違法があるか否かを争点とした。
2 当事者の主張」
2 原判決10頁8行目の「本件各処分がなされた各期」を「本件各処分・決定がされた本件各期」と、9行目の「原告」から10行目の「債権」を「本件貸付債権」と、11行目の「べきである」を「べきであるから、本件各処分・決定は、本件通達に反して違法であり、引いて、法人税法22条2項に反して違法である」と、19行目から20行目にかけての「法人税基本通達2-1-24」を「本件関連通達」と、21行目の「原告」から22行目の「各事業年度」までを「控訴人は、本件各期」と、23行目の「平成8年分」から24行目の「おいても」までを「本件各期中のいずれの事業年度においても」と、26行目の「明らかである」を「明らかであり、したがって、本件各処分・決定は、本件通達に反することはない。そして、控訴人の本件益金不算入措置は、法人税法22条4項に反するものであり、本件各処分・決定は、同条2項に適合して適法である」とそれぞれ改める。
第5 当裁判所の判断
当裁判所も控訴人の本件請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し又は付加するほかは、原判決の「第5 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを、ここに引用する。
1 原判決11頁2行目から15行目までを
「1 法人税法22条は、法人の各事業年度の所得の金額の計算について、「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」(1項)、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」(同条2項)、「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」(4項)とそれぞれ定めているところである。
そして、企業会計原則上、法人所得の計算においては、当該所得が現実化しない場合であっても、いわゆる発生主義の原則により、当該取引においてこれが発生すべきものとされる事業年度において、当該所得が発生したものとして決算処理がされるべきものであり、このことは、法人税法22条4項の規定の解釈からも導かれるものと解され、貸金に係る利息債権(未収利息)の場合も同様である。したがって、このように決算処理がされるべき未収利息について、これを益金不算入として決算処理ないし法人税の確定申告をすることが許されるとするには、法人税法22条2項の解釈上、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則(企業会計原則)及び社会通念に照らし、債務者が単に資産と負債の総和において債務超過というだけでなく、客観的にやむを得ない事情があって、債務者が客観的な支払能力の欠如の状態にあり、この状態が一般的、かつ、長期にわたって継続されているものと認められ、結局、当該未収利息が受取利息として益金計上する経済的実質を欠くような場合に限るものと解するのが相当であり、本件通達にいう「債務者が債務超過に陥っていることその他相当の理由」がある場合というのも、かかる趣旨における法人税法22条2項の解釈運用の基準を示したものと解される。
2 そこで、これを本件について検討すると、前提事実及び当事者間に争いがない事実及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。」
と、16行目の「所有」を「保有」と、18行目の「有価証券以外にも不動産」を「本件各期において、有価証券以外に不動産を所有し」と、19行目の「があった」を「も保有していた」と、20行目及び21行目の各「借入金及び未収利息」をいずれも「本件貸金債務及び本件利息債務」とそれぞれ改める。
2 原判決12頁16行目、18行目、19行目及び20行目の各「貸付金」をいずれも「本件貸金」と、17行目の「担保」を「物的担保は疎か人的担保」とそれぞれ改め、22行目末尾の次に「本件貸金の使途は、甲の個人的株式投資のためであり、返済が滞った原因は主として株価の下落によるものである一方、甲の債務は金融機関からの短期借入の借入金があるのみで、控訴人からの債務がそのほとんどを占めていた。」を加え、23行目の「4」を「3」と改める。
3 原判決13頁1行目の「貸付金元金及び未収利息」を「本件貸金元本及び本件未収利息」と、6行目の「貸付金元本」を「本件貸金元本」と、12行目の「貸付金債権」を「本件貸金債権」と、14行目の「平成8年12月期」から15行目の「甲に」までを「本件各期において、甲が本件未収利息を益金不算入とすることが許されるような状態にあったものと認めることはできず、ひいて、同人が」と、17行目から23行目までを次のとおりそれぞれ改める。
「 控訴人は、甲は、個人資産を売却することで借入金の弁済に充て、返済原資が尽きている、新たな貸付を控訴人から受けているのは返済の余裕があることを示すものではない、金融機関への返済は、控訴人への返済より優先させたものであるから全体的に見れば返済できない状況にある旨の主張を展開するが、いずれも独自の見解に基づくものであり、採用することはできない。
4 そして、控訴人は本件貸金の貸付けに際し、巨額の融資であるにもかかわらず、借用書類、取締役会議事録などの書類を作成せず、返済条件についての約定もなく、また、通常これだけ巨額の融資をするのであれば、当然必要とされる物的人的担保も取られておらず、返済を促す各文書についても通常貸主にとって重大な関心事である返済期限、利息に関する記載もなく、本件貸金の使途は、甲の個人的株式投資のためで、返済が滞った原因は主として株価の下落によるものであるとされていること、甲の債務は金融機関からの短期借入の借入金があるのみで、控訴人からの債務がほとんどを占めていること、控訴人は、全体の約4分の3の株式を保有する甲を筆頭株主として株主は一族で占められている同族会社であることからすると、控訴人に本件益金不算入措置をとることにやむを得ない事情があったものとすることもできない。
5 以上を総合すれば、本件各期において、甲が支払能力に欠け一般的かつ継続的に支払ができない客観的状態にあり、かつ、これがやむを得ない事情により生じたものとすることもできないから、本件各期の本件各確定申告に対し、被控訴人課税庁が本件未収利息を益金に算入した上でした本件各処分・決定は適法であって、何ら違法不当な点を認めることはできない。
なお、本件各処分・決定は、本件通達にも適合するものであるから、通達違反も認めることはできないが、通達は、一般的にいえば、行政官署内部における上級行政庁から下級行政庁に対する一般的な命令であるから、下級行政庁(本件では被控訴人課税庁)がこれに違反したとしても、直ちに違法の問題を生じることはないものである。
6 したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件請求は理由がない。」
第6 結論
よって、当裁判所の上記判断と同旨の原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 櫻井登美雄 裁判官 黒津英明 裁判官 浅井憲)