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福岡高等裁判所宮崎支部 平成21年(ネ)20号 判決 2009年12月24日

控訴人兼被控訴人

X(以下「一審原告」という。)

上記訴訟代理人弁護士

松田公利

控訴人兼被控訴人

一審被告亡Y1訴訟承継人Y2(以下「一審被告訴訟承継人Y2」という。)<他1名>

上記二名補助参加人

Z社

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

主文

一  一審原告の控訴に従い、原判決を次のとおり変更する。

(1)  一審被告訴訟承継人Y2は、一審原告に対し、二七四六万六六七四円及びこれに対する平成一三年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  一審被告訴訟承継人Y3は、一審原告に対し、二七四六万六六七四円及びこれに対する平成一三年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(3)  一審原告のその余の請求を棄却する。

二  一審被告訴訟承継人Y2及び同Y3の各控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その二を一審原告の負担とし、その余を一審被告訴訟承継人Y2、同Y3らの負担とする。

四  参加費用は、一審被告訴訟承継人ら補助参加人の負担とする。

五  この判決は、第一項の(1)及び(2)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(一審原告)

一  原判決を次のとおり変更する。

(1) 一審被告訴訟承継人Y2は、一審原告に対し、四二九八万九三六七円及びこれに対する平成一三年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 一審被告訴訟承継人Y3は、一審原告に対し、四二九八万九三六七円及びこれに対する平成一三年四月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  仮執行宣言

(一審被告訴訟承継人ら)

一  原判決を取り消す。

二  一審原告の請求をいずれも棄却する。

第二事案の概要

以下、略称については、本判決において新たに定めるほかは、原判決のそれに従う。

一  請求、争点及び各審級における判断の概要

本件(平成一七年三月二二日訴え提起)は、一審被告亡Y1(以下「Y1」という。)が普通乗用自動車を運転していた際、同車を自転車で通行中の一審原告に衝突させて負傷させた交通事故につき、一審原告が、Y1に対し、不法行為(民法七〇九条)に基づき、七八四五万三六六三円及びこれに対する平成一三年四月一九日(事故発生日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件の主たる争点は、(1)一審原告の主張する後遺障害(腰椎椎間板ヘルニア、モートン神経腫)と本件事故との因果関係、(2)症状固定時期、(3)過失相殺の適否、(4)一審原告の損害額、の四点である。

原判決(平成二〇年一二月二五日言渡し)は、争点(1)について、腰椎椎間板ヘルニア及びモートン神経腫はいずれも本件事故と因果関係が認められる旨の、争点(2)について、一審原告の症状固定時期は、モートン神経腫の治療が終了した平成一六年六月末日である旨の、争点(3)について、本件事故において一審原告に過失は認められず、過失相殺は相当ではない旨の、争点(4)について、一審原告の損害(弁護士費用を除く。)は合計五三二一万一七八一円であり、損害のてん補分を控除し、弁護士費用を加えた額は五四六九万五五九二円である旨の各判断をし、一審原告の請求を一部認容した。

これに対し、双方がその敗訴部分について控訴に及び、かつ、一審原告は、当審において、その請求を拡張した。なお、Y1は原審に訴訟が係属していた平成一八年六月五日に死亡したことから、当審において、一審被告訴訟承継人Y2及び同Y3(Y1の両親であり、かつ、Y1の相続人である。)が本件訴訟を承継した。

本判決は、争点(1)から(3)までは原判決と同旨の判断をし、争点(4)について、一審原告の休業損害は五七五万一六二三円(原判決では五五三万三八六六円)の限度で認められると判断して、一審原告の控訴に従い、原判決を変更し、他方、一審被告訴訟承継人Y2及び同Y3の各控訴をいずれも棄却するものである。

二  争いのない事実等及び争点

この点は、以下のとおり付加・訂正するほかは、原判決二頁五行目から一六頁一一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決二頁一〇行目の「一九六四年九月二九日」を「一九六四年九月二六日」と改める。

(2)  原判決七頁二三行目から八頁五行目までを

「エ 通院雑費 六万六二〇〇円

一審原告の実通院日数は三三一日であるところ、この間の通院雑費は一日当たり二〇〇円が相当であるから、合計六万六二〇〇円となる。

オ 通院交通費 合計三万九一五五円

(ア) ガソリン代 三万四一一五円

一審原告は、症状固定時までの通院に車を使用したところ、その距離総計は二一七一キロメートルとなる。そして、使用した車の燃費は一リットル当たり約七キロメートルで、使用したガソリンは当時一リットル当たり一一〇円のハイオクガソリンである。」

と改める。

(3)  原判決八頁一三行目から二〇行目までを

「カ 休業損害 一四二九万〇七九二円

(ア) 一審原告は、本件事故による受傷によって、症状固定時である平成一七年一〇月二〇日までの休業を余儀なくされた。

本件事故から症状固定時期までの期間は約五四か月であり、本件事故直前の一審原告の年収は四三一万九六三五円である。

一審原告は、本件事故後約一か月間入院しており、また、退院後も平成一三年六月中旬まではリハビリをほぼ毎日継続する必要があったから、この間の労働能力喪失率は一〇〇%である。そして、後記クのとおり、一審原告の後遺障害等級認定は併合八級(労働能力喪失率四五%)であるから、本件事故から二か月が経過した後から症状固定時までの間の労働能力喪失率は、一〇〇%と四五%の中間値である七二・五%とするのが相当である。

(イ) したがって、一審原告の休業損害は、以下のとおり算定される。

a 四三一万九六三五円×二月÷一二月×一〇〇%=七一万九九三九円

b 三四一万九六三五円×五二月÷一二月×七二・五%=一三五七万〇八五三円

c a+b=一四二九万〇七九二円」

と、二二行目から二三行目にかけての「実通院日数三三二日」を「実通院日数三三一日」と、二四行目の「五〇五九万二〇九三円」を「五三〇二万五〇八一円」とそれぞれ改める。

(4)  原判決一〇頁一六行目の「七八二万一〇〇〇円」を「八一九万七〇〇〇円(賃金センサスは、症状固定後の最新のものを基礎とするべきである。)」と、一八行目から一九行目にかけての「一四・三七五」を「一四・三七五二」と、二三行目を

「八一九万七〇〇〇円×一四・三七五二×四五%=五三〇二万五〇八一円」

とそれぞれ改める。

(5)  原判決一二頁八行目の「三四七万七四六七円」を「三四八万六一八九円」と、九行目の「七一〇万円」を「七八一万円」とそれぞれ改め、一三行目と一四行目の間に

「チ まとめ

一審原告の損害額は、アからシまでの損害額合計からセの損害の填補額を控除した残額(七八一六万八七三五円)及びこれにソの弁護士費用を合計した八五九七万八七三五円であり、一審被告訴訟承継人Y2及び同Y3は、Y1の同損害賠償債務を法定相続分二分の一の割合(各四二九八万九三六七円、円未満切捨て)で各々承継した。

よって、一審原告は、一審被告訴訟承継人Y2及び同Y3に対し、各四二九八万九三六七円及びこれに対する平成一三年四月一九日(本件事故日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

を加える。

第三当裁判所の判断

この点は、以下のとおり付加・訂正するほかは、原判決一六頁一三行目から三三頁一一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一六頁二〇行目の「腰痛を訴えていたこと」を「腰痛ないし右臀部痛を訴えていたこと」と改め、二六行目の「診断基準」の次に「(①腰・下肢痛を有する。②安静時にも症状を有する。③SLR(下肢伸展挙上)テストでは七〇度以下陽性。④MRIなどの画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄を合併していない。⑤症状とMRI所見が一致する。)」を加える。

二  原判決一七頁一行目の「事故態様や」を「事故態様に照らせば、一審原告には、本件事故により背部又は腰部に相当な外力が加わったことがうかがわれること」と改め、七行目の「甲一一の三」の次に「、甲一三」を加える。

三  原判決一八頁三行目から四行目にかけての「③X線画像上の疾患が」を「③X線画像上他の疾患が」と、五行目の「上記基準を満たしているといえる。」を「上記基準①②を満たしているといえ、また、X線画像上他の疾患(外側趾の中足趾節関節障害、中足骨疲労骨折、母指・外足趾の変形、疼痛性の手術瘢痕、足根管症候群、腰椎神経痕症状、末梢神経炎など)があることも認められないことから、上記基準③をも満たしているといえる(なお、モートン神経腫では必ずしもMRIによって神経腫を描出できるとは限らないことからすれば、一審原告のMRIにおいて明らかな神経腫を描出できなかったことをもって、モートン神経腫の可能性を否定することはできない。)。」とそれぞれ改め、一四行目の「左足関節の可動域制限」の次に「(伸展五度、底屈四五度)」を加え、一六行目の「本件事故後長期間にわたり」を「本件事故が発生した平成一三年四月から平成一五年一二月ころまでの間」と改め、一七行目の「甲九九、一〇二、」を削る。

四  原判決一九頁二五行目の「甲一四」の次に「、甲一六の七」を加える。

五  原判決二一頁二行目と三行目の間に

「 一審原告は、左膝の症状について、山口整形外科では適切な診療・治療を受けられず、その後、宮崎県内で適切に膝の治療を行える医師を見つけることができなかったことから、その治療を一旦終了したのであり、仮に同医院で適切な治療がされていれば、平成一七年一〇月二〇日まで、左膝について、継続的な治療がされていたはずであると主張する。

しかし、一審原告は、腰椎椎間板ヘルニアについては、海老原整形外科において、モートン神経腫については、宮崎病院からそれぞれ診断を受けているのであるから、少なくとも上記各症状については、それぞれの病院において、継続的に治療を受けることが可能であったはずである。また、一審原告が大崎整形外科から診断を受ける以前において、その他の医師から左膝の治療を受けることが不可能であったとも認め難く、一審原告の左膝を継続的に診察していた山口整形外科がその症状固定日を平成一五年八月一二日としていることからすれば、一審原告の左膝の症状は、一応、同日をもって症状固定したとみるのが相当である。

したがって、一審原告の上記主張は採用できない。」

を加え、一一行目の「平成一七年六月末日と」を「平成一六年六月末日と」と、二五行目の「いずれもその初日の」を「同年四月二〇日及び同月二五日の」とそれぞれ改める。

六  原判決二二頁二六行目の次に

「オ 一審原告は、当審においても、付添看護費用は七万七〇〇〇円と認定するべきであると主張する。

しかし、本件において、付添看護について医師の指示がなかったこと、一審原告の当時の受傷の程度等本件に現れた一切の事情を考慮すれば、本件事故と因果関係を有する付添看護費は二万円の限度で認めるのが相当である。」

を加える。

七  原判決二四頁三行目の「五五三万三八六六円」を「五七五万一六二三円」と、一五行目から二二行目までを

「 そして、上記のような治療状況に加え、一審原告の受傷の部位・程度、後遺障害の内容・程度(後記(8)のとおり、一審原告の労働能力喪失率は三五%とするのが相当である。)、さらには、一審原告の本件事故前の職種等(《証拠省略》によれば、一審原告は、平成一二年度は、学校法人a専門学校の非常勤講師(時給二四〇〇円)のほか、b高等専門学校の講師(時給四九〇〇円)を務め、平成一三年度は、上記学校法人a専門学校の職を辞し、c大学非常勤講師(時給五五〇〇円)を務める予定であったことが認められる。)をも考慮すれば、一審原告の労働能力は、①平成一三年四月一九日(本件事故発生日)から同年五月一八日(入院最終日)までは一〇〇%、②同月一九日から平成一六年六月三〇日までは四〇%とするのが相当である。

そうすると、下記のとおり、休業損害は、五七五万一六二三円となる(年三六五日の日割計算、小数点以下切捨て、以下同じ。)。

①  平成一三年四月一九日~同年五月一八日(三〇日)

四三一万九六三五円×三〇÷三六五×一〇〇%=三五万五〇三八円

②  平成一三年五月一八日~平成一六年六月三〇日(一一四〇日)

四三一万九六三五円×一一四〇÷三六五×四〇%=五三九万六五八五円

③  三五万五〇三八円+五三九万六五八五円=五七五万一六二三円」

とそれぞれ改める。

八  原判決二五頁一〇行目の「、甲一四七」を削り、二二行目の「認められなかったことなどからすれば」を「認められなかったこと、さらに、大崎整形外科も一審原告の左膝の症状を外傷性膝蓋下脂肪体炎などと診断していることからすれば」と改める。

九  原判決二七頁七行目の「、《証拠」から一二行目の「上記症状は」までを「この症状は」と改め、一七行目から二八頁三行目までを

「 この点、鑑定の結果によれば、腰関係(鑑定事項三)に係る「後遺障害の内容及び程度」の項には、「後遺障害(腰椎椎間板ヘルニア)の程度は、服することのできる労務が相当な程度に制限される程度である」旨の記載があるが、他方、(一審原告の)すべての症状並びに左ふくらはぎの症状および左足首の可動域制限を前提とした場合の後遺障害の内容及び程度(鑑定事項四)の項において、「一審原告の症状は相互に関連して一審原告の障害を形成しているものであり、総合的な後遺障害の程度は、服することのできる労務が相当な程度に制限されている程度である」旨の記載があり、これらの記載によれば、腰椎椎間板ヘルニアの障害のみをもって、後遺障害等級九級一〇号の「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」であるという趣旨とまでは解されない。そして、上記鑑定の結果のほか、これまでに認定した一審原告の後遺障害の内容、一審原告の主訴、さらに山口整形外科作成の後遺障害診断書の内容等、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、一審原告の後遺障害の程度は後遺障害等級九級一〇号(労働能力喪失率三五%)に該当するというべきであり、これに反する一審原告の主張は採用できない。」

と改める。

一〇  原判決二八頁二五行目から二六行目にかけての「賃金センサス平成一三年男子労働者大卒四〇歳ないし四四歳の」を「賃金センサス平成一九年男子労働者大卒四〇歳ないし四四歳の」と改める。

一一  原判決二九頁五行目末尾に「また、賃金センサスについては、本件事故が発生した平成一三年のそれを用いるのが相当である。」を加える。

一二  原判決三二頁五行目の「合計五三二一万一七八一円」を「合計五三四二万九五三八円」と改める。

一三  原判決三三頁一行目から二行目にかけての「四九七二万五五九二円」を「四九九四万三三四九円」と、五行目の「四九七万円」を「四九九万円」とそれぞれ改め、一一行目と一二行目の間に

「(18) まとめ

以上によれば、弁護士費用までも含めた一審原告の損害は、五四九三万三三四九円となるから、一審被告訴訟承継人Y2及び同Y3は、各々二分の一である二七四六万六六七四円(円未満切捨て)の限度で、一審原告に対し、損害賠償義務を負う。」

を加える。

第四結論

よって、上記判断と異なる限度で原判決は相当ではないから、一審原告の控訴に従い、原判決を一部変更し、他方、一審被告訴訟承継人Y2及び同Y3の各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横山秀憲 裁判官 川﨑聡子 山口和宏)

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