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福岡高等裁判所宮崎支部 平成21年(行コ)4号 判決 2009年6月24日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人の環境森林部,清掃工場の技術員の地位を有することを確認する。

3  被控訴人が平成19年10月31日にした控訴人を免職する旨の懲戒処分を取り消す。

4  被控訴人は,控訴人に対し,150万円及びこれに対する平成20年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

以下,略称については,原判決のそれに従う。

1  請求,争点及び各審級における判断の概要

被控訴人は,平成19年10月31日,当時,被控訴人の清掃工場の技術員であった控訴人に対し,控訴人が平成19年9月6日午前4時30分ころ宮崎県都城市内で酒気帯び運転をしたことを理由に,地公法29条1項1号,3号に基づき,懲戒免職処分(本件処分)を行った。

本件(平成20年2月18日訴え提起)は,控訴人が,本件処分は法令に基づかずに行われ,あるいは,被控訴人に認められた裁量を逸脱して行われたものであるなどと主張して,被控訴人に対し,労働契約上の地位の確認又は本件処分の取消しを選択的に求めるとともに,本件処分により精神的苦痛を被ったと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,150万円(慰謝料100万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する平成20年4月5日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

2  基本的事実及び争点

この点については,以下のとおり付加・訂正するほかは,原判決2頁16行目から10頁6行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決4頁4行目冒頭から5行目の「適用はない。」までを「現業職員の労働関係については,地公法29条の適用があるとしても,労働者保護の観点から,労働基準法(以下「労基法」という。)89条以下の規定も適用される。」と改める。

(2)  原判決5頁26行目の「職員が行った修正等」を「職員が行った修正(記者発表資料(乙16)に添付された指針では,「飲酒運転での交通事故・人身事故を伴わないもの」とされていたものが,「飲酒運転での交通事故等・人身事故を伴わないもの(検挙・自損事故等)」と修正された。)」と改める。

第3当裁判所の判断

この点については,以下のとおり付加・訂正するほかは,原判決10頁8行目から18頁21行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決10頁23行目の「地公業法39条1項」を「地公業法39条1項。その結果,現業職員は,地公法49条の2,51条の2の規定にかかわらず,行政不服審査法による不服申立てを経ることなく,ただちに,行訴法所定の抗告訴訟により,懲戒処分の取消しを求めることができる。なお,最高裁昭和49年7月19日第二小法廷判決・民集28巻5号897頁参照」と改める。

2  原判決11頁7行目から19行目までを

「(2) 控訴人は,地方公務員の懲戒処分については,地公法29条に加え,労基法89条以下の規定も適用されると主張する。

この点,地公法58条3項は,就業規則に関する労基法89条から93条までの規定を適用除外としているが,他方,地公労法は,附則5条において,単純な労務に雇用される者の労働関係その他身分取扱については特別の法律が制定施行されるまでの間は地公業法39条を準用する旨規定し,同条1項によれば,地公法58条3項が適用除外とされる結果,労基法89条以下の規定が適用されることになる。

ところで,控訴人が勤務する清掃工場については,就業規則(乙44)が定められているが,同規則は,同工場に勤務する職員のうち交替制勤務を命じられた職員の勤務時間,休憩時間及び勤務を要しない日について必要な事項を定めたものにすぎず,懲戒に関する定めはない。しかしながら,本件処分は,上記就業規則により課せられた勤務に違反したことを理由とするものではなく,地方公務員として課せられた法令遵守義務に違反したというものであって,地公法29条1項に従って懲戒を行うことができると解すべきである。

すなわち,本件処分は就業規則に基づいて行われた懲戒処分ではないから,労基法89条,90条及び106条1項の規定が適用されるという控訴人の主張は,その前提を欠くものというほかない。」

と改め,25行目から26行目にかけての「乙24」を「乙23,24」と改める。

3  原判決12頁2行目冒頭から3行目末尾までを「また,被控訴人は,被控訴人の職員2人が酒気帯び運転で摘発されたことを受け,飲酒運転での人身事故はすべて懲戒免職にするなどの厳罰化を行う方針を固め,平成18年10月21日付けでその旨の新聞報道がされたこと(乙15),そして,」と,5行目から6行目にかけての「危険性があること」を「危険性があることは公知の事実であること」とそれぞれ改める。

4  原判決14頁25行目の「その後間もなく」から15頁3行目末尾までを「その後間もなく,Aは,「飲酒運転での交通事故」「人身事故を伴わないもの」という記載では,飲酒運転をして検挙されただけの場合が含まれていないと解される余地があったことから,この点を明確にするために,上司の意見を聞いた上で,これを「飲酒運転での交通事故等」「人身事故を伴わないもの(検挙・自損事故等)」と改め,その差替えをした上で本件指針を作成したことが認められる。(甲3,乙2,乙16,証人A・49~101項)」と改める。

5  原判決15頁6行目と7行目の間に

「 控訴人は,Aによる本件指針の変更が,飲酒運転で摘発された場合につき,その非違行為の類型を「交通法規違反」から「飲酒運転での交通事故等・人身事故を伴わないもの」へと変更するものであり,これにより処分内容も異なることになるのであるから,このような実質的な変更は,被控訴人(の市長)に無断で行うことは許されないと主張する。

しかし,前記のとおり,被控訴人は,職員が飲酒運転で摘発されたことを受け,職員の飲酒運転については,免職又は停職とすることでその厳罰化を図ることとし,その趣旨に従って本件指針の改正を行ったものであるから,飲酒運転で摘発された場合については,当初から,「飲酒運転での交通事故等・人身事故を伴わないもの」として「免職又は停職」処分とする趣旨であったことは明らかであり,「交通法規違反」として「停職,減給又は戒告」処分とするものでなかったというべきである。そうであれば,Aが本件指針の字句を前記のとおり訂正したことは,むしろ,被控訴人の意思に沿うものであって,これをもって,本件指針が無効であるということはできない。」

を加える。

6  原判決16頁13行目と14行目の間に

「(4) 控訴人は,本件指針によれば,飲酒運転については,物損事故を起こして措置義務違反をした場合に免職すると記載されているのであるから,飲酒運転だけの場合に免職にすることは相当ではないと主張する。しかし,本件指針には「飲酒運転をした職員は,免職又は停職とする。」旨明記されており,飲酒運転の上,物損事故を起こして措置義務違反をした場合にのみ免職とする趣旨でないことは明らかであり,控訴人の主張は採用できない。」

を加え,14行目の「(4)」を「(5)」と改める。

第4結論

よって,上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横山秀憲 裁判官 川崎聡子 裁判官 山口和宏)

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