福岡高等裁判所宮崎支部 平成23年(ネ)233号 判決 2011年12月21日
主文
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要等
以下、略称については当裁判所において新たに定めるほか、原判決のそれに従う。
1 請求、争点及び各審級における判断の概要
本件(平成22年3月16日訴え提起)は、亡Xが、平成17年6月にa群島のb公設事務所の弁護士であった控訴人に債務整理を委任したが、その際、控訴人が債務整理の方針等についての説明を怠り、過払金の回収事務以外の債務整理を放置したことにより、遅延損害金が増加するなどの損害が生じたほか、精神的苦痛を被ったとして、控訴人に対し、債務不履行に基づく損害賠償金455万4029円及びこれに対する平成22年3月29日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
亡Xは、本件訴訟を提起した後である平成23年3月20日に死亡し、法定相続人による遺産分割協議の結果、同人の妻である被控訴人が訴訟手続を受継している。
本件の争点は、①控訴人の説明義務違反の有無、②控訴人の事務処理懈怠の有無、③亡Xに生じた損害の有無及び数額の3点である。
原判決(平成23年8月18日言渡し)は、争点①について、平成18年6月2日までにアイフル、アコム及び武富士から合計159万6793円の過払金を回収し、楽天KC及びプロミスには利限残が残っていることを把握したものの、亡Xに対する説明もなく利限残の8割での分配通知による和解とし、和解に応じなかったプロミスに消滅時効を待つとの債務整理の手法を採ったことについて、同年7月31日ころの電話で一応は説明したものの、そのデメリットや利限残全額を支払うことで債務整理を終局的に解決できることを説明せず、また、預り金の返還分(48万7222円)から支払原資を残すよう説明しなかったことなどからすると、亡Xに対する説明義務違反が認められる旨の、争点②について、控訴人の事務処理によって債務整理が遅滞したことからすると事務処理懈怠に当たる旨の、争点③について、債務不履行によって亡Xが被った損害を賠償するには22万円(慰謝料20万円、弁護士費用2万円)が相当である旨の各判断をして、控訴人に債務不履行責任を認め、本訴請求につき、22万円及びこれに対する上記同旨の遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却した。
これに対し、控訴人が敗訴部分を不服として本件控訴に及んだものであるが、本判決は、争点①及び②について控訴人に亡Xに対する説明義務違反及び事務処理懈怠はいずれも認められない旨判断して、原判決中控訴人敗訴部分を取り消し、本訴請求を棄却するものである。
2 争いのない事実等、争点及び当事者の主張
この点は、原判決3頁14行目の「7月31日」を「8月1日ころ」に改めるほかは、原判決2頁10行目から5頁11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
証拠(各文末に後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(1) 亡Xは、平成17年6月30日、サラ金等に対する債務整理の相談のためにb事務所を訪問し、事務職員であるA(以下「A」という。)と面談した。亡Xが作成した法律相談受付カード及び債権者一覧表には、当時44歳で妻及び3子がいること、武富士、アイフル及びプロミスのサラ金3社に合計で約250万円の債務があり、国内信販(楽天KC)に約35万円の自動車のローン残がある一方で、さとうきび農業の自営により約8万円の手取月収があり、同居の妻は小学校の用務員で12、3万円の手取月収があること、毎月約5万円を借金の返済に充てていること、自宅は借家であることなどが記載されている(乙1、2)。
同日、控訴人はAの後に亡Xと面談し、アコムからの当初借入れやレイクへの完済の時期、当初借金の原因や返済状況、親から500から600万円程度を借りていたことなどについて聴取した後、過払金が生じている債権者から過払金を回収した上で、取り戻した過払金を用いて、利限残が残っている債権者に一括払での和解を持ちかける債務整理を行うこと、債務整理費用は30万円であり、過払金回収報酬は回収額の3割であることなどを説明した。これを受けて、亡Xは控訴人との間で債務整理を目的とする委任契約を締結した。
その後、Aは、亡Xに対し、車のローンを支払えるかは過払金の回収状況によること、弁護士費用の支払方法を妻である被控訴人と話し合い、被控訴人の借金の有無を確認してb事務所に連絡するとともに、家計簿を提出してもらう必要があることなどを伝えた(乙35の1及び2、36、40の1、A〔13ないし21、34ないし43、108ないし116、123ないし126項〕)。
(2) 控訴人は、亡Xの債権者らに対し、受任当日から同年7月11日にかけて「債務整理開始通知」と題する書面を送付し、取立行為の中止と、債権調査に要する書類等の送付を求めたほか、同年7月4日から同年10月7日までの間に、サラ金各社からそれぞれ取引履歴の開示を受けるなどした(甲15ないし20、乙3の1ないし5、4の1及び2、5の1ないし5、6の1ないし3、7の1ないし4、8の1ないし4)。
(3) 控訴人は、上記(2)で開示を受けた取引履歴等をもとに、利息制限法所定の利率により亡Xの債務を再計算したところ、楽天KC及びプロミスの2社については利限残が存在するが、アイフル、アコム及び武富士の3社からは過払金の回収が見込める事案であったことから、同年9月8日に武富士、同月27日にアイフル及びアコムにそれぞれ過払金返還請求訴訟を提起した。その後、同年10月17日にアコムが亡Xに25万7812円を支払う旨の、平成18年2月23日にアイフルが亡Xに25万1210円を支払う旨の、同年5月11日に武富士が亡Xに108万7771円を支払う旨の各和解に合意し、同年6月2日までに上記3社から合計159万6793円の過払金を回収した。また、Aは、アイフル及びアコムから計50万9022円の過払金を回収したころ、控訴人の弁護士費用が債務整理報酬30万円と上記過払金の3割である過払金回収報酬15万2707円の合計45万2707円になると計算した(甲21、22、24、乙9の1及び2、10の1ないし3、40の2)。
(4) 控訴人は、武富士等から回収した過払金によって利限残のある債権者への支払原資を確保できたことから、平成18年6月12日、楽天KC及びプロミスに対し、利限残の8割の金額(楽天KCは30万9000円、プロミスは控訴人の主張する一連計算に基づく9万4000円)を一括して支払う内容の和解を提案する文書をそれぞれ送付した。当該文書には、利限残の8割に当たる和解提示を行うほか、債権者側が和解提示に応じない場合は、預り金を返してしまい、5年の消滅時効を待つことにする、訴訟等の債権回収行為をしても構わないが、費用を回収できない可能性があるなどと記載されていた(乙11の1、A〔66ないし68項〕)。
(5) その後、楽天KCが前記(4)で控訴人が提案した和解に応じたことから、控訴人は、同月26日に30万9000円を支払った。これに対し、プロミスは前記(4)の提案に応じなかった。その後、控訴人は、プロミスに対しては時効待ちの方針に基づき、債務整理について積極的に交渉をしなかった(甲14、23、25、乙40の4)。
そのころ、Aは、亡Xにつき回収した過払金が合計で159万6793円となる一方で、控訴人の弁護士費用が債務整理費用30万円及び上記過払金の3割である過払金回収報酬47万9038円になると計算し、経過一覧表を作成した。当該経過一覧表には、回収した過払金額の合計が159万6793円であること、プロミスに対する債務は控訴人の主張する一連計算に基づく11万7821円又はプロミスの主張する分断計算に基づく29万7840円であること、楽天KCに対する債務は38万7000円であり、楽天KCに30万9000円を支払って解決済みであることが記載されている(乙40の3)。
(6) 控訴人は、同年7月31日ころ、亡X方に電話をかけ、同人に対し、武富士らサラ金3社から回収した過払金や楽天KC及びプロミスに残っている利限残の額、プロミスについて和解提示に応じてもらえないので5年の消滅時効が成立するまで待つ方針であり、その他の債権者については和解ができた、裁判所やプロミスから連絡があったら連絡してくれれば対処する、預り金を返還するが、プロミスとの交渉に際して必要になるかもしれないので保管したほうがよいなどと説明した(甲31、亡X〔101ないし106、130ないし132、152、153、316ないし328、340ないし346、458ないし462項〕)。
そして、控訴人は、同日、亡Xに対し、件名を「債務整理終了のお知らせ」とする連絡文書及び帳簿の写しを送付した。上記連絡書面には「頭書の件ですが、すべて終了しましたので、ご報告いたします。こちらで再計算したところ、アコム25万4512円、アイフル24万4222円、武富士108万4571円の過払金があり、和解金として、アコム25万7812円、アイフル25万1210円、武富士108万7771円の合計159万6793円を回収しました。また、未払分として、楽天KC38万7000円、プロミス29万7840円残りましたが、楽天KCは30万9000円を既に支払いました。プロミスは和解に応じてもらえなかったため、5年の時効を待とうと考えています。プロミスや裁判所から連絡があった場合は、私のところに連絡をください。回収した金額から、裁判費用(2万1218円)、楽天KCへの和解金(30万9315円)及び私の報酬(77万9038円)を差し引いた48万7222円を返金しますので、振込先を教えてください。」と記載されている(甲4、5、A〔74ないし79項〕、亡X〔93ないし95項〕、控訴人〔68ないし72項〕)。
(7) 控訴人は、同年8月1日、亡Xにつき回収した過払金合計159万6793円から、その3割に当たる過払金回収報酬47万9038円及び債務整理費用30万円の計77万9038円と楽天KCへの和解金等30万9315円(振込手数料315円を含む。)及び裁判費用2万1218円を差し引いて受領する経理処理を行い、残金の48万7222円から振込費用を除いた金額を亡Xに送金した(甲5、6、乙13の1及び2)。
(8) 控訴人は、平成20年5月のb事務所から静岡県のc市に事務所を移転させるに際し(以下、移転後の事務所を「e事務所」という。)、依頼者ごとの債務整理の方針等を記載した表を作成していたが、当該表には、亡Xにつき債務整理の方針は分配とされ、費用は足りており、プロミスには利限残の8割で和解を提案し、時効待ちの状況にあることが記載されている(甲25)。
(9) 被控訴人代理人は、同年12月22日、控訴人の他の元依頼者の代理人として、控訴人が債務整理を放置したことを理由とする損害賠償請求訴訟を提起し、その事実が同月23日及び24日に鹿児島県内のマスコミで大きく取り上げられた(乙24)。
(10) e事務所は、亡Xに対し、平成21年4月23日付けで、日本弁護士連合会が控訴人の依頼者に意思確認をするために、顧客の氏名や住所等が記載された名簿を提出するよう求められているが、意向調査のために住所・氏名等を連絡してよいかの意向を確認するアンケート用紙を、連絡文書に添付する形で送付した。これに対し、亡Xに代わって記載した被控訴人は、アンケート用紙に5年経てば時効で支払う必要がなくなると理解していたもので、控訴人にはしっかり仕事をしてもらいたいなどと記載して返送した(甲7、30、乙14の1)。
また、亡Xは、同月24日、e事務所に電話し、事務員に代わって電話に応対した控訴人から、プロミスに対する利限残として29万7840円が残っていること、何割引きかで和解の提案をし、応じるまで時効で払わないなどとして交渉していたものの、サラ金の経営が厳しくなったことで、以前よりも提訴される可能性が高くなってきたこと、12万円程度を用意することができれば、それをもとに一括払での和解交渉を行うことができるといった内容の説明を受けた(甲30、乙41、控訴人〔106項〕)。
(11) 控訴人は、前記(10)の後も亡Xから連絡がなかったことから、同年5月18日になって同人方に電話し、応対した被控訴人に対し、プロミスとの取引につき、亡Xにとって有利な計算をすると12万円程度の利限残となる一方で、プロミスに有利な計算をすると29万から30万円の利限残が残ることになり、和解がまとまらずに裁判を起こされるよりも、12万円ほどを用意してもらい、プロミス側に振り込んだ上で和解交渉をした方がよい、平成18年7月に精算した当時と異なり、サラ金の経営が傾いてきた状況からして提訴される可能性が高くなり、5年の消滅時効を待っていても提訴されるとストップしてしまうので、一括払のために金員を準備してもらった方がよい、夫婦で話し合ってほしいといった内容の説明をした。
その後、e事務所から、同年6月3日付けで亡Xに対し、プロミスにつき11万7821円の利限残があるなどと記載された経過一覧表等とともに、12万円の積立を求める連絡文書が送付された(甲9、乙41、控訴人〔106項〕)。
(12) 亡Xは、前記(9)の報道等を受けて、控訴人の債務整理に不安を抱くようになり、被控訴人代理人に相談し、同年6月12日、控訴人に解任通知書を送付した。その後、亡Xは被控訴人代理人に控訴人との交渉及び自らの債務整理を依頼した。控訴人は、同月15日に当該解任通知書を受け取り、同月22日付け報告書を亡Xに送付し、プロミスの債務整理を残して辞任することから、債務整理報酬30万円のうち10万円については返金するなどと記載された連絡文書を送付した。また、同月24日、控訴人はプロミスに辞任通知を送付した(甲10、乙15の1ないし4)。
(13) 控訴人は、同月22日、被控訴人代理人から亡Xの債務整理について経過説明や預かり書類、金銭等の返還を求める書面を受領し、同月29日、同代理人に対し、亡Xに回答書を送付済みであるなどと回答した。これに対し、被控訴人代理人は、同年7月9日に改めて債務整理についての経過説明を求め、控訴人は、同月17日付けで、プロミスについては他の債権者と同率(8割)の金員を一括で支払うとの提案をしたが、和解がまとまらなかったことから一旦預り金を返金し、その際に8割でまとまらなければ時効を待ってもいいと説明したなどと回答し、9万9265円を被控訴人代理人の口座に送金した(甲11ないし14、乙15の8)。
(14) 他方で、被控訴人代理人は、平成21年11月4日、プロミスに対して亡Xが13万0195円を一括で支払う内容の和解提示をし、これに応じないプロミスと交渉した上で、同年12月17日、和解金の総額を50万円とし、亡Xが初回に2万円、その後は毎月1万5000円ずつを32回分割で支払う内容で訴訟外の和解をした。
その後、亡Xは12万円を断続的に支払った後、平成23年3月20日に死亡したが、プロミスは亡Xに対する残債務の支払を免除した(甲26、27、62、64、66)。
2 争点①(控訴人の説明義務違反の有無)について
(1) 受任時における説明
上記認定のとおり、控訴人が、初回面談に際し、過払金が生じている債権者から過払金を回収した上で、取り戻した過払金を用いて、利限残が残っている債権者に一括払での和解を持ちかける債務整理を行うことについて亡Xに説明し、同人がそのような方針について了承した上で控訴人に債務整理を委任したことが認められる。
そして、本件では、控訴人が債務整理を受任した時点で、債権者から取引履歴の開示もなく、亡Xが債権者にどの程度の過払金を有するものか、どの程度の利限残が残るものかが不明であったもので、この段階で控訴人による説明が上記の限度に留まったとしても、そのことが委任契約上の説明義務に違反したとはいえない。
(2) 事件処理の経過に関する説明
ア 本件における債務整理について、控訴人は、債権者に対し、利限残から一定割合を減額して一括で支払うとの和解を提案し、応じなければ時効を待つという方法は、多くの弁護士の間で採用されている交渉術であって、時効待ちの方法を採った場合に債権者から訴訟提起され、遅延損害金の付いた敗訴判決を受けるといったリスクは存在せず、債務整理に時間を要して依頼者に不利益が生じるといったこともないから依頼者の選択には影響せず、そもそも説明責任を問われる手法ではないなどと主張する。
確かに、証拠(乙17の1ないし4、8、9等)によれば、クレジット・サラ金処置について弁護士等が利用している文献の中には、債務整理の方法として、提示した和解案や債務免除に債権者が応じない限りは利限残の支払を行わず、時間の経過により消滅時効が完成するのを待つといった方法が紹介されており、これに同調する弁護士がいることが認められることからすれば、控訴人がこのような方法を採用したことが、そのことだけで債務整理を担当する弁護士の受任事務における裁量を明らかに逸脱しているとはいえない。
しかしながら、弁護士に債務整理を依頼する依頼者は、経済的更生のためにできるだけ速やかに負債を終局的に処理したいと考えるのが通常であるが、分配通知や債務免除通知を出して消滅時効を援用する旨を告げただけでその後は債権者がこれに応じない限りは一切の交渉に応じないとの方法を採用した場合(本件における控訴人の手法であった。)、当該債務整理の終局処理は大きく遅延することになる。その結果、依頼者は債権者から訴訟を提起される可能性を残しながら日常生活を送ることを余儀なくされるほか、仮に敗訴判決を受ければ給与等の財産につき差押えを受ける危険性もある。また、依頼者の中には、勤務先や近隣住民との人的関係、家庭の事情等により、債権者から訴訟を提起され、そのことが周囲に知られることによって日常生活に少なからず悪影響が生じかねない場合も考えられるのであって、控訴人のいう債務整理の方法が依頼者たる債務者の生活設計において好ましくないこともあるというべきである。
そうすると、債務整理を依頼された弁護士は、債権者に対して分配通知等を送付し、これに応じない限りは消滅時効を援用する旨を告げるといった終局処理の遅延が避けられない方法を採用する場合においては、依頼者に当該方法のマイナス面を説明し、当該依頼者の意向や同人の置かれている状況、支払原資の有無、債権者側の対応状況等といった諸事情を踏まえて債務整理を進める義務があるというべきである。
イ そこで検討するに、上記認定によれば、控訴人は、初回面談に際し、取り戻した過払金を用いて、利限残のある債権者に一括払での和解を提案するとの債務整理の方針について説明しているし(上記1(1))、平成18年7月31日ころにも、亡Xに対し、サラ金から回収した過払金や楽天KCやプロミスに対する利限残の額、プロミスだけが和解提示に応じてもらえないので5年の消滅時効を待つ方針であること、預り金を返還するが、プロミスとの交渉で必要になるかもしれないので保管したほうがよいこと、裁判所やプロミスから連絡があれば控訴人の方で対処することについて説明し(上記1(6))、そのころ、上記説明とおおむね同内容が記載された連絡文書や帳簿写しを送付しており(上記1(6))、亡Xも、その記載内容に目を通していたものと認めることができる。
そうすると、そのような説明を受けた亡Xとしては、控訴人が、利限残のあるプロミスに対して一括払による和解提示を行っているが、プロミスが応じないため、このまま応じなければ消滅時効を待つとの構えで引き続き同内容の交渉を続ける方針であって、債務整理の終局処置に相当の時間がかかることが見込まれることや、消滅時効が成立するまでは利限残の支払義務が残り、裁判を起こされるかもしれないものの、その場合は控訴人に連絡すれば対応してもらえること、返金する預り金からプロミスへの返済原資を残しておいたほうがよいことについて一応の説明を受けた上で、そのような控訴人の債務整理の方針に異議を述べず、黙示に承諾したものと認めることができる。また、控訴人は、プロミスとの和解交渉が困難になった平成21年4月以降は、亡Xやその妻である被控訴人に対し、サラ金の経営が厳しくなり、プロミスから提訴される可能性が高くなったことや、提訴を避ける上で、一括払のために一定額の金員を準備した方がよいことについて説明している(上記1(10)、(11))。
以上によれば、事件処理の経過や方針について、控訴人に説明義務違反があったとまでは認められない。
3 争点②(控訴人の事務処理懈怠の有無)について
前述のとおり、亡Xは、控訴人がプロミスに利限残を割る内容の分配通知を出し、応じない限りは時効待ちをすることで終局処理に時間がかかることが見込まれるような債務整理の方針を黙示に承諾し、その上で控訴人は利限残の8割を一括で支払う内容の和解提示を維持したものであるし、プロミスとの和解交渉が困難になった平成21年4月以降は、亡Xやその妻である被控訴人に対し、サラ金の経営が厳しくなり、プロミスから提訴される可能性が高くなったことや、提訴を避けるために、一括払での和解交渉をするために一定額の金員を準備した方がよいなどと説明したが、結局、和解交渉の前提となる積立金の提供を受ける前に亡Xから解任され、債務整理を終えることができなかったものであって、この点で控訴人に事務処理懈怠があったとまでは認められない。
第4結論
よって、被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきところ、これを一部認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人敗訴部分を取り消した上、上記の部分につき被控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横山秀憲 裁判官 川﨑聡子 空閑直樹)