福岡高等裁判所宮崎支部 平成23年(ネ)91号 判決 2011年7月20日
控訴人
甲山秋子(以下「控訴人秋子」という。)
控訴人
甲野夏子(以下「控訴人夏子」という。)
控訴人
甲野冬子
上記3名訴訟代理人弁護士
五嶋俊信
鈴木加奈子
被控訴人
日向市
同代表者市長
黒木健二
同訴訟代理人弁護士
殿所哲
山下秀樹
笹田雄介
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
以下,略称については,原判決のそれに従う。
1 請求,争点及び各審級における判断の各概要
甲野太郎(昭和41年8月14日死亡)は,大正14年4月15日当時,原判決別紙物件目録記載の土地(本件土地)を所有しており,同土地につき,太郎を所有者とする昭和16年11月12日受付の所有権保存登記がある。
岩脇村は,大正14年7月7日及び昭和20年7月7日経過時の各時点において,本件土地を占有し,本件土地は学校用地として長年使用されてきた。
本件(平成22年6月8日訴え提起)は,昭和26年4月1日合併により岩脇村の地位を承継した被控訴人が,岩脇村は大正14年4月15日売買又は同年7月7日時効取得により本件土地の所有権を取得したと主張して,太郎の相続人である控訴人らに対し,所有権に基づき,本件土地につき大正14年4月15日売買又は同年7月7日時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求める事案である。
本件の争点は,(1)太郎の母甲野春子が岩脇村に対して本件土地を売ったか,(2)岩脇村ないし被控訴人による本件土地の占有につき,外形的客観的にみて他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったとされる事情(他主占有事情)があるか,(3)被控訴人による本件土地に係る取得時効を援用するとの意思表示(本件時効援用の意思表示)が信義則違反ないし権利濫用となるか,の3点である。
原判決(平成23年2月24日言渡し)は,争点(2)について,岩脇村ないし被控訴人による本件土地の占有につき,他主占有事情は認められない旨の,争点(3)について,本件時効援用の意思表示が信義則違反ないし権利濫用に当たるとすることはできない旨の各判断をして,被控訴人の請求(登記原因は大正14年7月7日時効取得)を認容した。
これに対し,控訴人らが本件各控訴に及んだものであるが,本判決は,原判決と同旨の判断をして,これらをいずれも棄却するものである。
2 基礎となる事実,争点及びこれに対する当事者の主張
この点は,原判決3頁12行目の「消失」を「焼失」と改め,4頁19行目の「当時には」の後に「,土地には」を,同行目の「賦課されていた上,」の後に「昭和16年に太郎を所有者とする所有権保存登記がなされるまでは,本件土地に地租が課税されていなかったことは明らかであり,それ以降も本件土地に課税された記録はない。さらに,」をそれぞれ加えるほかは,原判決2頁5行目から5頁17行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
第3 当裁判所の判断
この点は,以下のとおり付加・訂正するほかは,原判決5頁19行目から12頁24行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決5頁22行目の「Z部落」の後に「(旧Z村。明治22年町村制施行に伴い岩脇村の一部とされた。)」を加える。
2 原判決6頁24行目の「原因」を「登記原因」と改める。
3 原判決7頁11行目「甲15ないし17」の後に「,23」を加え,13行目冒頭から16行目の「納付をやめた。」までを「控訴人らは,本件土地を含む太郎名義の各土地に係る平成18年度以降の固定資産税を納付していない。」と改め,20行目の「,乙5」及び「,被告秋子本人」をそれぞれ削る。
4 原判決8頁12行目の「被告秋子との交渉がまとまりそうであったため」を「控訴人秋子との間で交渉中であったため」と改める。
5 原判決9頁17行目の「Z小学校の」から18行目の「そのころ」までを削り,20行目の「上記後輩は」の後に「,被控訴人の教育委員会に所属していた当時」を加える。
6 原判決10頁11行目と12行目の間に
「控訴人らは,岩脇村は,大正14年7月7日に本件土地の占有を開始した後,昭和16年に本件土地につき太郎を所有者とする所有権保存登記が経由されるまでの間,本件土地につき岩脇村を所有者とする所有権保存登記手続をすることなく放置していたから,岩脇村による本件土地の占有につき,他主占有事情がある旨主張する。しかしながら,本件土地はZ小学校の運動場として使用されるものであることが外観上明らかであり,本件土地につき所有権を主張する者が出現するとは想定されなかったことに照らせば,岩脇村が本件土地につき自己を所有者とする所有権保存登記手続をしなかったとの一事をもって,岩脇村による本件土地の占有につき,他主占有事情があるということはできない。」を,同行目冒頭に「もっとも,」をそれぞれ加え,20行目の「(前記第2の2(2))」を「(基礎となる事実(2))」と改める。
7 原判決11頁4行目の「被告らからしてみると」から6行目の「しかし」までを「岩脇村は,大正14年7月7日及び昭和20年7月7日経過時の各時点において,本件土地を占有していたところ(基礎となる事実(2)),岩脇村ないし被控訴人が,本件土地を含む太郎名義の各土地に固定資産税を賦課するようになったのは,地方税法が施行された昭和25年以降であることは明らかであるから,上記固定資産税の賦課をもって,上記各時点における岩脇村による本件土地の占有につき,他主占有事情があるということはできない。その点を措くとしても」と改める。
8 原判決12頁7行目の「(前記第3の3(1))」を削り,8行目の「しかし」を「時効援用権者が,時効完成後に,相手方に対し,時効の援用をしないことを前提とする行動を取った場合には,相手方はこれを信頼するのが通常であるから,その信頼を保護するべく,その後の時効援用権の行使は信義則上許されないと解すべきところ」と,9行目の「他主占有事情の」から10行目の「よるものといえる。」までを「前記2において説示した事情によるものであって,被控訴人の上記対応をもって,被控訴人が,本件時効援用の意思表示をしないことを前提とする行動をとったということはできない。」とそれぞれ改め,20行目冒頭に「被控訴人が平成21年7月31日に控訴人秋子に訴訟を提起すると告げてからも,」を加え,同行目の「別の紛争の交渉がまとまりつつあった中」を「別の紛争につき交渉中であったところ」と,22行目の「合理的な期間内に訴訟が提起されたものというべきである。」を「被控訴人が,本件時効援用の意思表示をしないことを前提とする行動をとっていたということはできない。」と,23行目から24行目までを「そうすると,控訴人らの主張に係る上記諸事情をもってしても,本件時効援用の意思表示が信義則上許されないとはいえない。
また,前記1(3)に認定した本訴提起に至る経緯に加え,本件土地が学校用地として使用されるものであることや,被控訴人において大正14年の買収を裏付ける契約書や領収書等の資料が保管されていないことにも照らせば,控訴人らの主張に係る上記諸事情をもってしても,本件時効援用の意思表示が権利濫用に当たるということはできない。」
とそれぞれ改める。
第4 結論
よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件各控訴は理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横山秀憲 裁判官 川﨑聡子 裁判官 空閑直樹)