福岡高等裁判所宮崎支部 平成23年(行コ)10号 判決 2012年2月15日
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 処分行政庁がX1に対し平成 21年3月 11日付けでした平成 19年分の所得税の更正のうち総所得金額 5782 万 2015 円,納付すべき税額 145 万 4800 円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の各処分をいずれも取り消す。
3 処分行政庁がX2に対し平成 21年3月 11日付けでした平成 19年分の所得税の更正のうち総所得金額 4081万 7138円,納付すべき税額 17万 9400円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定の各処分をいずれも取り消す。
4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
以下,略称については,原判決のそれに従う。
1 請求,争点及び各審級における判断の各概要
本件(平成 22 年8月 27 日訴え提起)は,贈与税更正処分取消請求訴訟(前件訴訟)に一部勝訴し,既に納付していた贈与税,過少申告加算税及び延滞税の一部の還付を受けるとともに,国税通則法58 条1項に規定する還付加算金の支払を受けた控訴人らが,平成 19年分所得税の確定申告において,上記還付加算金を雑所得として申告するに際し,前件訴訟に補佐人として関与した税理士に対する報酬(本件報酬)を必要経費に算入したところ,処分行政庁から本件報酬は本件還付加算金の必要経費に当たらないとして更正及び過少申告加算税の賦課決定(本件各処分)を受けたため,これを不服として本件各処分の取消しを求める事案である(なお,控訴人らは,本件報酬を本件還付加算金に対する必要経費に算入できないのであれば,控訴人らの私有財産は前件訴訟により取り消された処分(前件各処分)を受ける前の状態に服さないから,本件各処分は憲法14 条1項及び 29 条1項に違反するとも主張している。)。
本件の争点は,(1)本件報酬の必要経費該当性,(2)本件各処分の憲法適合性,の2点である。
原判決(平成 23年9月7日言渡し)は,争点(1)について,本件還付加算金と本件報酬との間には一定の対応関係が認められるものの,[1]更正処分の取消しは還付加算金発生の必要条件ではないこと,[2]更正処分の取消訴訟は,違法な課税処分の取消し自体を目的とするものであって,還付加算金の取得を目的とするものではないこと,[3]したがって,本件還付加算金の発生は,前件訴訟判決の確定による直接的な効果ではなく,同判決の確定によって遡って国が本件過誤納金を保有する正当な理由を失ったことによる反射的効果にすぎないと解されること等の事情からすれば,本件報酬が,客観的に見て,本件還付加算金を得るために「直接に要した費用」に該当すると解することはできず,また,還付加算金は,反復継続して行われる事務又は事業によって生じた所得とは認められないから,本件報酬が,「その年における販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当すると解することもできず,本件報酬が本件還付加算金の必要経費に該当すると認めることはできない旨の,争点(2)について,控訴人らの主張によっても,本件報酬を本件還付加算金に対する必要経費に算入できないことが,いかなる意味において憲法14条1項に違反するのかは明らかではない上,本件各処分が憲法29条1項に反するとの主張についても,そもそも「前件各処分を受ける前の状態」がどのような状態を指すのかが不明であるのみならず,「前件各処分を受ける前の状態」に復さないことが憲法29 条1項に違反する根拠についても明らかであるとはいえず,本件各処分の違憲をいう控訴人らの主張はいずれも採用できない旨の各判断をして,控訴人らの請求をいずれも棄却した。
これに対し,控訴人らが本件各控訴に及んだものであるが,本判決は,原判決と同旨の判断をして,これらをいずれも棄却するものである。
2 争いのない事実等及び争点
この点は,以下のとおり訂正するほかは,原判決中「第2 事案の概要」欄の「2争いのない事実等」及び「3 争点」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁 12行目及び 13 行目の「当庁」を「鹿児島地方裁判所」とそれぞれ改める。
(2) 原判決6頁 12 行目から 13 行目にかけての「903万 4934円」を「728万 1140円」と,同行目の「535万 4934円」を「360万 1140 円」とそれぞれ改める。
(3) 原判決9頁7行目から8行目までを次のとおり改める。
「b 平成 14 年ないし平成 18 年 4.1パーセント
c 平成 19年 4.4 パーセント
d 平成 20年 4.7 パーセント」
第3当裁判所の判断
【判示事項】この点は,以下のとおり訂正するほかは,原判決中「第3 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決 12 頁2行目,9行目及び 13 頁1行目の「前記第2の2」を「前記争いのない事実等」とそれぞれ改める。
2 原判決 12 頁の 10行目の「還付金等を」を「その」と,17 行目から 25 行目までを
「 なお,控訴人らは,還付加算金とは,過誤納金の納付によって違法に財産権を侵害された納税者に対する調整ないし救済措置として支払われるものであり,このことは,還付加算金が年 7.3パーセントという高い割合(特例基準割合が適用される場合でも通常の銀行借入利率の2ないし3倍の割合)に基づいて算定されることからも明らかであると主張する。しかしながら,既に摘示した事情に加え,還付加算金が過誤納金のみならず還付金一般に付されること等からすれば,控訴人らの主張を採用することはできない。」
とそれぞれ改める。
3 原判決 13 頁8行目から9行目にかけての「[1]更正処分の取消しは還付加算金発生の必要条件ではないこと」を「[1]還付加算金は,更正処分の取消しによって必ず発生するものではなく,過誤納金に係る国税等の納付がなければ発生しないものであること」と改め,10 行目の「目的とするものではないこと」の後に「,[3]上記(3)のとおり,還付加算金は還付金等に対する一種の利子と解され,還付金等の発生原因にかかわらず支払われること」を加え,同行目の「[3]」を「[4]」と,14行目の「反射的効果にすぎない」を「結果として発生したにすぎない」
とそれぞれ改める。
4 原判決 14 頁 17 行目の「服さない」を「復さない」と改める。
第4結論
そうすると,控訴人らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ,これらをいずれも棄却した原判決は相当であって,本件各控訴は理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 横山秀憲 裁判官 川崎聡子 裁判官 空閑直樹)