福岡高等裁判所宮崎支部 平成3年(く)5号 決定 1991年12月04日
少年 B・K(昭51.10.14生)
主文
原決定を取り消す。
本件を宮崎家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の趣意は、抗告人が差し出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。
抗告趣意(事実誤認)について
所論は、要するに、少年は、原決定の罪となるべき事実中第1及び第2の各窃盗を犯したことはないのに、いずれも少年の犯行と認定した原決定には、決定に影響を及ぼすべき重大な事実誤認がある、というのである。
そこで検討するに、一件記録によれば、原審が、少年の非行事実の第1として、平成3年4月2日午後8時30分ころ、宮崎市○○町○○××××番地所在の○○亭○○店駐車場において、A所有の原動機付自転車1台(時価5万円相当)を窃取し、その第2として、同月3日午前1時ころ、同市○○×丁目×番×号所在の○○市民会館北側自転車置場において、B外1名所有の原動機付自転車1台外3点(時価合計約14万2000円相当)を窃取したとの各事実を認定したこと並びに右認定に副う証拠として、被告人の自供書及び警察官に対する自白調書、被害者ら作成の各被害届等があったことが明らかである。
しかしながら、当審における事実取調べの結果によれば、右各窃盗に至る経緯及び犯行状況は、少年は、前同月2日午後10時30分ころ、女友達をその自宅に送り届けた後、前記○○亭前付近まで引き返し、同所で待っていた友人のCとDに落ち合い、共に自宅方向へ帰ることになったが、そこまで乗ってきた自転車が1台しかなかったことから、3人でいわゆる足代わりにするため原動機付自転車を盗むことを共謀し、Dにおいて、右○○亭横の駐車場に止めてあった前記A所有の原付自転車を付近の駐車場まで押し運んで窃取し、同所で、Cがいわゆる直結の方法でエンジンをかけたこと、その後、3人は、右原付自転車と前記自転車に分乗して出発し、同日午後11時30分ころ、前記市民会館前付近まできたが、同所でCが電話をかけていた際、その側にいたDにおいて、偶然傍らに鍵を付けたまま止めてある前記B所有の原付自転車等を見つけたことから、少年を呼び寄せ、Cを交えてその話をし、これを盗むことを持ち掛けて同人らとその旨の共謀を遂げたうえ、Dがこれに乗車して窃取したというものであったことが認められ、これに反する少年の自供書及び警察官に対する自白調書並びに当審事実取調べにおける供述部分は、当審証人D及び同Cらの各証言に照らし信用できない。
右事実関係に徴すると、少年が右各窃盗につき正犯としての責任のあることは原決定のとおりであるが、それは共謀共同正犯者としてのものであって、単独正犯者としてのそれではないのであるから、原決定は、共謀共同正犯を単独正犯と認定した点で、事実を誤認したものといわざるを得ない。
ところで、原審は、少年の非行事実として、前記2件の窃盗のほかに1回のシンナー吸入及び2回にわたる定員超過乗車のうえでの無免許運転を認定しているが、少年の非行のうちその処遇を決するうえで最も重要視される中心的で悪質な非行は、右2件の窃盗であることは明白であるところ、前示のとおり、少年の右各窃盗事件に対する関与の内容、程度は、少年が積極的に各窃盗を持ち掛けたものではなく、また、実行行為を分担したことも全くないのであって、付和雷同的に共謀者の一員に加わったという程度に止まっているのに、原審は、少年の要保護性の認定をするに当たって、それらが少年の単独犯行であることを前提にしていること、少年は、明年3月中学校を卒業することが見込まれているが、それにより少年を取り巻く環境に少なからぬ変動をきたす余地のあること及び少年はこれまで家庭裁判所への係属歴がなく、かつて家庭裁判所による指導、矯正、調整等の措置を受けたことがなかったこと等を考慮すると、少年を少年院に収容して相応の教育を施す必要のあることは首肯できるものの、そのために長期処遇に付するまでの必要性が存するか否かについては、更に慎重な審理、判断を要するものと認められるから、右誤認は、少年法32条の、決定に影響を及ぼす重大な事実誤認にあたると解せられる。
よって、本件抗告は理由があるので、少年法33条2項、少年審判規則50条により原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥村誠 裁判官 酒匂武久 小松平内)
抗告申立書
少年 B・K
右の者に対する窃盗、毒物及び劇物取締法違反保護事件について平成3年9月27日初等少年院送致の旨決定の言渡しを受けましたが、左記の理由によって不服につき抗告を申立てます。平成3年10月1日
抗告立人 B・K
福岡高等裁判所宮崎支部 御中
抗告の趣旨
1 私は、50ccバイクを2台ぬすんだことについて話しします。
自分は原付バイク2台窃盗したことと、なっていますが、その事件のバイク窃盗は自分がぬすんだわけではなく、○中学校のせんぱいがバイク2台を窃盗んだのです。そして、めんきょしょ、ヘルメットその他の物をどこかえすてたのです。
その日のことについてくわしくお話し、します。
原付バイク2台ぬすんだ日わ、自分の彼女を家までおくりに、せんぱい2人と、自分と、彼女で自転車2台でいってたのです。そして、せんぱいは2人で2人乗りをして、自分と彼女が2人乗りをして、彼女の家までおくりました。彼女の家は○○です。そして、行きは、よかったのですが、帰りの自転車がたりなくなり、せんぱいが原付バイクをぬすんだのです。
そして、原付バイクで家の方向え、せんぱいが原付に乗り、もお1人のせんぱいと自分は2人乗りを自転車でして帰るとちゅうで、もお1人のせんぱいが、市役所の所ろでまた「かぎ」付きの原付バイクを見つけてバイクをぬすんだのです。
自分は、そして、せんぱいたちに、バイクをかりて、友達のE君と原付バイク1台ずつのり、1台はエンストしたので、消防所のちかくに、とめました。
そして、また、自分とE君で2人乗りでのりまわしました。前には、E君がのりました。そして、夕方に、エンストしたバイクを見にいったら、警察の人が、はっていて、自分はつかまり、E君はにげました。そして警察のとり調べの時自分は、せんぱいのバイク窃盗のことをかばってしまいました。今とても、こおかいしています。そして、せんぱい達をかばった訳は、せんぱいが、「お前つかまったら自分がぬすみましたといえよ。」といわれたからです。
自分は、せんぱい達が原付バイクを窃盗するとき、せんぱいに、つかまるから「やめておいた方がいいですよ」と言ったのですがせんぱいわ、だいじょうぶといって、バイクを窃盗してしまったのです。やっぱりせんぱいの名前を出したら、なぐられるのは、いやだし「むし」されるのもいやだから、かばいました。
そして警察の人にとり調べをうけているときは、心の中で「だいじょうぶと」思って、せんぱいをかばいました。でもその後のけっかが今のじょうたいをまねいたのです。
2 そして、毒物及び劇物取締法違反で○○でつかまったことについて、ですが、警察のとり調べのときは、シンナーは、○○とゆう、とそう屋でぬすみましたと、いったのですが、シンナーはせんぱいからもらったものです。
でも○○でシンナーを吸ったのは、じじつです。
でも、あのとき、しょおじきに、こたえておけばと思っています。
そして自分は、社会にいるときは無邪鬼な気持で生活をおくっていましたが、鑑別所えはいってだいぶかわりました。気もちもおちつきました。
9月27日の審判では、いいたいことがあまりいえなく、本当のこともいえませんでした。
だから不服につき抗告を申し立てたのです。
そして、自分の家族は、父が体が悪く母がおらず、自分の下には弟いもうとが4人もいます。自分がいなくなったら、これからさき父や弟いもうとたちがとてもこまります。
そしてせんぱいの名前は、C君とD君です。
〔参考1〕原審(宮崎家 平3(少)7509号 平3.9.27決定)<省略>
〔参考2〕受差戻審(宮崎家 平3(少)7787号、977号、978号 平3.12.12決定)<省略>