福岡高等裁判所宮崎支部 昭和25年(う)525号 判決
窃盜及び強盜罪は他人の物を不法に領得する罪であるから、それが成立するためには、客観的要件として領得そのものが不法であることを要するばかりではなく、主観的要件として犯人において右領得が不法であることの認識を必要とするものと解する。従つて、領得が正当の権限に基く場合はもとより、仮に領得が正当の権限に基ずかない不法のものであつても自己に権限があるものと信じてなした場合は、窃盜又は強盜罪の成立を阻却するものといわねばならない。原判決は、第一の二として、被告人は、昭和二五年二月末頃、判示原田尚良から、同人がさきに政元玄嘉と一しよに南西諸島大島に密貿易に行つた際、同地で仕入れた物品を内地に密輸入の上売却方を先に同地を引き揚げた政元に依頼したその売却代金六万円の取立方及び右取立ができないときは政元の妻名義の家屋一棟を代金の支払に代えて引渡を受けることの交渉方を依頼されたので、それを引き受け、その後政元に対し再三交渉したが、同人が言を左右にしてこれに応じなかつたので、同年四月三日夕刻、右政元が湯治中の鹿児島市唐湊温泉で、同人を脅して支払確約に関する証書を強取しようと考え、所携の判示ジヤツクナイフを同人の前に置き、「もう金も証文もいらんから俺と勝負をしろ」等といつて同人を脅し、更にその頭部等にインキびん、硯石、火鉢を次々に投げつけて暴行を加え、よつて、同人の反抗を抑圧して、同人名義の金六万円を四月十五日までに弁済する旨及び右期限までに弁済しないときは同人の妻名義の家屋一棟を支払に代えて引渡をする旨の被告人宛の判示預り証を作成させてこれを強取し、なおその際右暴行によつて同人に対し判示のような傷害を与えた事実を認定し、これを強盜傷人罪に問擬しているのである。もとより物品を密輸入の上売却方を依頼して交付したような場合は民法上いわゆる不法原因給付としてその売却代金等の返還を請求することができないというべきであつて、従つて右売却代金の取立等の委任を受けた者も法律上本人に代つてその請求をすることができないのであるから、本件被告人のなした証書の領得は客観的に見て不法のものであるということができるとしても、民法上不法原因給付については返還請求権がないというようなことは法律智識に乏しい一般人は普通知らないと見るのが常識であるから、被告人に不法領得の意思があつたことを認定するためには被告人が犯行当時本件取立等委任を受けた債権が右のように法律上請求権のないものであることを認識していた事実をも審理判断することを要するものといわねばならない。しかるに原判決はこの点についての判断を欠くのみならず、記録上も原審においてこの点を審理した形跡が認められないから、原判決は第一の二の罪について理由不備及び審理不尽の違法があり、従つて右罪及びこれと併合罪の関係がありとして処断した原判示第二の一、二の罪についての原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。