福岡高等裁判所宮崎支部 昭和25年(う)76号 判決 1950年4月21日
被告人
槌蔵こと
中島芳光
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中六〇日を本刑に算入する。
当審における訴訟費用は、全部被告人の負担とする。
理由
弁護人二宮喜久馬の控訴趣意第一点について。
刑事訴訟規則第一六四条第一項第一号によると、所論のとおり起訴状には被告人の年齢、職業、住居及び本籍を記載することを要求してはいるが、同条第二項において、右事項が明かでないときは、その旨を記載すれば足りることになつているし、なお、刑事訴訟法第二五六条によれば、起訴状には被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項を記載すればよいことになつている。蓋し、被告人は捜査の段階においても、公判の段階においても、黙否権を有しているし、時には、右挙示の事項につき、事実と吻合しない供述をすることも予想されるところであるから、被告人が素直に右事項につき真実を述べた場合は格別とし、真実に相違する供述のあつた場合には、一応その供述を基礎とするより外に何等の方法もないのである。しかも、捜査官において、犯人逮捕から公訴を提起するまでの法定期間はこれを厳守すべきことが要求せられているが、その短い期間内に、犯人の身元を正確に調査することの困難であることは容易に首肯し得られるところであるから、かかる場合は一応犯人を特定するに足る事項を記載すればよいので、若し、真実の年齢、職業、住居及び本籍が判明していれば、なるべくそれを記載せよとの趣旨であること言を俟たないところである。さすれば、起訴状に記載された、被告人の氏名、住居、本籍が、捜査の結果後日になつて虚偽なることが判明した場合には、被告人その者の同一性に支障のないかぎり、右事項は訴訟手続の如何なる段階においても訂正すれば足りるものと観るのを相当とする。今本件につきこれをみれば、検察官が原審第一回公判期日において、起訴状記載の被告人の氏名、年齢及び本籍を各訂正の上、起訴状を朗読したことは、所論のとおりであるが、右事項の訂正により、被告人その者の同一性については、何等の支障もないのであるから、前説示するところにより、検察官の右事項の訂正の妥当であることは勿論、原審の訴訟手続の適法であることは多言を要しないところである。論旨は、独自の見解のもとに原判決を非難するもので、採るに足らない。