大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和27年(ラ)6号 決定 1953年1月12日

○○縣○○郡○○村○○番地

抗告人 甲

右代理人弁護士 乙

○○縣○○郡○○大字○○村○○番地

相手方 丙

右昭和二十七年(ラ)第六号離婚による財産分与の審判申立決定に対する抗告事件に付当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告は之を棄却する。

理由

抗告代理人は原審判は之を取消す相手方の審判申立は却下する本件審判並抗告費用は相手方の負担とするとの裁判を求め其の理由とするところは抗告人は相手方との婚姻関係は認めているけれども、抗告人の所有財産が相手方と夫婦となりて築き上げたものであること及其の品目数額については抗告人が極力争いたるに拘らず原審は漫然相手方の分与請求の一部を認容したのは家事審判規則第七条の調査義務を尽さないか又は法第七百六十八条の解釈を誤つた不法があると謂うに在る。

仍て記録を精査するに抗告人と相手方とは明治三十九年九月十一日事実上の婚姻をなし引続き夫婦として同棲したが其の間に子供が生れなかつたので大正十五年五月十八日に至つて始めて婚姻届出をなし法律上の夫婦となつたこと乃昭和二十四年八月頃から夫婦仲が悪くなり別居し同二十五年十月二日協議の上の離婚をしたことは当事者間に争のないところである。而して證人Aの證言と證人Bの證言の一部とに依れば抗告人の今日の資産の大部分は抗告人と相手方とが夫婦となり四十有余年の長期間に亘り相手方が抗告人の家業に専心従事して共に築き上げたものであることを認め得べく右に反する各證言並に陳述は当裁判所の信用しないところで其の他右認定を左右する證左がない。然らば本件当事者が右の如く協議上の離婚をなすに至つた動機原因は相互に感情の不和を来たしたに基くと見る以外に他に理由を求むべくもない本件に於ては抗告人は妻として婚姻継続中内助の功のあつた相手方に其の資産の一部を分与すべきであることは言をまたない。

然るに抗告人所有の不動産及動産は抗告人が農業を営む関係上物自体を分与することは相当でないから其の換算金額の内より分与すべきである。そこで分与額に付案ずるに相手方が抗告人の所有であると主張する不動産が抗告人の所有であることは成立に争のない甲第二号證により之を認むべく又相手方が抗告人の所有であると主張する有体動産が抗告人の所有であることは昭和二十五年十二月十六日当時宮崎裁判所日南支部戊裁判官が抗告人方に臨み右有体動産を指示し抗告人の所有なりとして鑑定人Cに価格の鑑定を命じたる際抗告人は之に立会いたるも何等の異議をも述べなかつたことは鑑定人訊問調書(記録二十六丁以下)に明だから之に依つて認むるに十分である。而して右不動産及有体動産の総価格が金一六二、一七〇円であることは鑑定人Cの鑑定に依り明かである。

茲に於て抗告人の資産の換算額を基礎とし当事者の婚姻の期間離婚後の生活能力其の他に顕れた諸般の事情を参酌するときは抗告人より相手方に分与すべき金額は金六万円を相当と認むべきである。従つて原審判には審理の不備又は法の解釈を誤つた瑕疵はないから本件抗告を理由ないものと認め主文の通り決定する。

(裁判官 甲斐寿雄 裁判官 二見虎雄 裁判官 長友文士)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例