福岡高等裁判所宮崎支部 昭和28年(う)151号・昭28年(う)152号 判決
所論(イ)の点につき原判決の説くところは、昭和二六年三月頃銀行預金通帳一通を偽造し、その頃これを行使したというのであり、偽造も、行使も、それぞれ同時に敢行されたものと認定したのであつて、原判決に「各偽造を遂げ」「各之を行使し」というのは、その銀行預金通帳の各日附毎に偽造及び行使が成立することを明らかにしたものに外ならないのであるから、所論のように証拠に副わない認定をなしたものとはいえない。次に、所論(ロ)について考察すると、文書の行使というのは、一定の文書を真正な文書としてその効用に役立たせることをいうのであるが、銀行預金通帳には、銀行に対する金銭の預入払戻の経過、並びに現在高を証明する作用があつて、町収入役が、その名義の偽造銀行預金通帳を正規の保管方法に従い町役場の金庫に備付けるときは、直ちにその証明的作用を発揮すべき状態に置かれるわけであるから、未だこれを他人に呈示しなくても、ここに偽造銀行預金通帳の行使ありというべきである。しかも、その金庫の保管者が何人であるかは問うところでない。又文書の備付が行使となるには、何人でも何時でも閲覧できる場所に置いた場合に限るとの所論は、銀行預金通帳については当嵌らない。即ち、偽造銀行預金通帳を町役場の金庫に備付けたことを以てその行使ありとなす原判決は正当で、論旨も理由がない。
(五) 同第五点について。
所論は、一通の銀行預金通帳を偽造する場合、預入又は払戻の日附が多数回に亙つても、その偽造及び行使が各同時に行われた時は、各一罪をなすとの見解のもとに、この点に関する原判決の法令違背をいうのである。しかし、銀行預金通帳の記載は、その各日附毎に預入又は払戻の金額、その年月日、差引残高を証明する各独立の文書をなすのであるから、その偽造行為が同時に行われた場合でも、各独立の私文書偽造罪を構成するものというべく、これを行使するときは、偽造私文書行使の点は一個の行為にして数個の罪名に触れる場合に該当するものと解するのが正当であるから、原判決の法令の適用に所論の誤はなく、論旨も理由がない。
(裁判長裁判官 山下辰夫 裁判官 二見虎雄 裁判官 長友文士)