福岡高等裁判所宮崎支部 昭和30年(う)136号 判決
所論の玉券(証第二号)は、被告人が窃取したものでないことは記録上明白であるが、原判決の挙示する柏田梅男の供述調書によると、被告人は、磁石を用いてパチンコ玉を不正に導出せしめているところを、店主の柏田梅男に取り押えられ、隙に乗じて逃走したが、その後で、被告人の同伴者であると思われる年の頃二二、三才位の男(被告人の義弟中村栄之助であることは、同人の検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書によつて明らかである。)が、その情を知らないで、被告人が循環皿に残しておいた右パチンコ玉を取り揚げ、玉券(証第二号)と交換して、これを持帰り、被告人に渡したところ、その翌日、小林喜代治が被告人の雇主である山口茂の依頼を受けて、右柏田方に謝りに行つた際、これを持参して同人に返したので、同人から捜査官に差出し、原審において証拠として提出されたものであることが明らかであるから、右玉券(証第二号)は、右柏田梅男の供述調書と相俟つて、被告人の原審公廷における自白の補強証拠となすに十分である。また、パチンコ遊技において、遊技の結果、パチンコ機の玉受皿(循環皿を含む、以下同じ。)に出て来た玉は、経営者の所持を離れて、遊技者の所持に移り、遊技者は、再びこれを使用し、或は景品と交換する等、慣習上定められた方法に従い自由に処分し得べき状態に置かれるわけであるから、パチンコ玉を不正に領得する意思を以て、磁石を用いパチンコ機の玉受皿に玉を導出せしめたときは、それによつて直ちに、窃盗の既遂となるものといわなくてはならない。被告人が、右柏田に取り押えられる以前に、既に玉受皿に玉を導出せしめていたことは、前説示のとおりであるから、これを以て、窃盗の既遂と目すべきは当然である。従つて、原判決に所論の理由のくいちがいはなく、また、証拠によらないで事実を認定した違法もない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 山下辰雄 裁判官 二見虎雄 裁判官 長友文士)