大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和30年(う)26号 判決

所論中過剰防衛についての問題点は要するに被告人が被害者側からの急迫不正の侵害についてこれを防衛するため已むことを得ずしてなした行為であるか、或は又闘争の意思を以つて相手方を攻撃したものであるか、の点にかゝわる。原判決に掲げた証拠に依ると被告人が原判示の日時場所で瀬戸徹夫と口論したけれども友人の制止により一旦事なきを得たが、その約一時間後右瀬戸等から発見せられて同人が曩の口論のことに言及し被告人の前襟首を掴んだので突嗟に所携の匕首で瀬戸の上腹部を突き刺したことが認みられ、右の外形的の事実からすると正当防衛乃至過剰防衛が成り立つかも知れぬとの疑問がある。しかるに被告人は当夜祭礼の夜であり青年にあり勝の喧嘩があるかも知れぬことを予想しその場合の用意として匕首を携行していたものである点、右瀬戸を刺した後更に同人の同伴者である栫哲美に対して「お前も味方か」と云いながら匕首を持つて同人を刺す考えで追いかけた点、更に被害者瀬戸を追い同人が反抗したら尚も刺す考であつたことが認められる点を綜合すると被告人としては相手方の侵害に対して已むなく自己を防衛するためこれに反撥したというよりも寧ろ闘争する考で瀬戸徹夫を突き刺したものと認定するのが相当である。従つて被告人の所為を以つて過剰防衛であるとの論旨は理由がなく、原判決には所論の点について事実の誤認はない。

次に傷害致死の論旨について記録を調査すると、本件が全く突嗟の間に行われたものであつて被告人が初めから殺害の目的を以つてかゝる行為にいでたものではないことは正に所論のとおりである。しかして喧嘩闘争するに際し相手方を殺傷する場合には通常相当高度に精神の昂奮状態を惹起せられることは経験則上当然と認められるのであつて、かかる場合顕らかに相手方を殺傷しようとする目的ないし意識のある場合は別として、顕らかにかゝる目的ないし意識がない場合でも瞬間的に結果を予見したとき、即ち「相手が死ぬかも知れぬ」という考が瞬間脳裡に発現したときでもこれをいわゆる未必の故意と認めることができるものと解するのが相当であつて、右の観点からすると本件の場合においては、被告人の同伴者であつた川畑利美の司法警察員に対する供述調書、被告人の司法警察員に対する供述調書(昭和二九年七月三〇日附)並びに本件創傷の部位、程度、兇器の種類からすると本件被告人の場合は前段で説示した未必の故意よりも尚一段と高度の故意(同じ未必の故意であるにしても)が存したものと認めるのが相当である。従つて本件が傷害致死に相当するとの論旨はとることができない。

(裁判長判事 甲斐寿雄 判事 二見虎雄 判事 長友文士)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!