大判例

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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和32年(う)256号 判決

所論は原判決は被告人の捜査官に対する供述調書を証拠として引用している。しかし記録によると被告人は現行犯人逮捕手続により逮捕、勾留せられており右逮捕手続書によると被告人は刑事訴訟法第二一二条第二項第一号に該当するものとして逮捕せられた趣旨と解されるけれども被告人は右逮捕せられた当時「追呼され」ていたものではなく且犯罪終了後相当時間を経過しているから同条第二項第一号に該当しない該逮捕手続は違法でありかゝる違法逮捕勾留中に作成された前掲供述調書は「違法に蒐集された証拠」であり証拠能力を欠く。それで原判決は証拠力のない供述調書を事実認定の資料としたものであり右訴訟手続の法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。

そこで記録について被告人が逮捕せられた時の経緯を調査すると被告人の司法警察員に対する供述調書(昭和三二年五月一九日附)黒江一郎、野間幸の各司法警察員に対する供述調書被告人に対する現行犯人逮捕手続書によると被告人は昭和三二年五月一八日午後六時過頃鹿児島県姶良郡姶良町東餠田黒江一郎方で同人所有の鉄板一枚を盗みこれを同所地金商野間幸に代金四百九十円で売却し更に同日午後七時過頃同所附近で九州電力株式会社所有の中古アングル二本を盗みこれを売却する目的で前記野間地金商店に行つたのであるが黒江一郎は自己の鉄板が盗まれたことに気づき野間地金商を訪ねて右盗難の事実を話しているところに被告人が前記アングル二本を携えて同所に売りに来たので鉄板を盗んで来たものであるかどうかについて被告人を詰問していたところこれより先姶良町巡査部長派出所司法警察員警部補福留巖は野間商店使用人吉田実の届出により前記贓物販売の事実を知り即時野間商店に臨み黒江一郎から詰問されている被告人に鉄板を盗んだ事実を確めた上被告人を逮捕したことが認められる。しかして現行犯人逮捕手続書の記載内容からみると右の現行犯逮捕手続は刑事訴訟法第二一二条第一項の現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者または同条第二項第二号(贓物その他を所持しているとき)第三号(身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき)第四号(誰何されて逃走しようとするとき)の何れかに該当するものとして逮捕せられたとは認められないので(被告人は当時贓物であるアングル二本を所持していたのであるからこの点を明らかにして寧ろ同条第二項第二号により準現行犯人と認めるのが相当であつたと認められる)同条第二項第一号により逮捕したものと解するの外はない。そうであれば右の逮捕手続書については次の二点が問題となる。即ち右の場合「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるとき」に該るか「犯人として追呼されているとき」に該るかどうかである。先づ「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められ」るかという点であるが本件の場合は午後六時過に鉄板を窃取し午後七時過に逮捕せられておりその間犯罪終了後約一時間を経過している。しかしながら右の「間がない」とは必ずしも犯罪実行行為終了と接続した後だけに限るものではなく時間的に近接しておれば良いと解する。何故かというと憲法第三三条が現行犯人の逮捕を令状主義の例外として規定した理由は急速を要するという理由の外犯罪の嫌疑が明白であり特段の判断を俟つまでもなく過誤を生ずるおそれがないからであつて準現行犯に関する法令の解釈もこれとその規を異にするものではなくこのように理解することによりいわゆる「間がない」とは必ずしも犯罪直後に限ることを要しないと考えられるからである。要するに「間がない」とは犯罪実行行為の終了後時間的に接近していれば良いのであつて令状主義の例外として要請された「急速を要し」「犯罪の嫌疑明白」であることが充足せられておれば足ると考えられるのである。以上の見地からすると本件では逮捕について急速を要する場合であることは明らかであるしまた犯人が被害者から当該贓物を目前に置いて右盗難事実につき詰問されており犯人もまた自ら盗んだことを自供し犯人であることの明白性について疑のないような場合には仮令犯罪実行行為の終了後約一時間を経過していたとしても刑事訴訟法第二一二条第二項に「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められる」場合に該当すると解すべきである。

次に同条第二項第一号の「犯人として追呼されているとき」に該るか否かの点である。同号を文字どおり解釈すると犯人が犯人として追かけられている場合と解されるしまた実状もそのような場合が多いと考えられるけれども同条第二項第一号乃至第四号の規定が犯人であることの明白性について疑のない場合だけを挙示した理由からすると本件のように犯人が被害者から贓物を目前において盗難事実につき詰問せられ犯人も右窃盗事実を自認しているような場合はこれを同項第一号に「犯人として追呼」されている場合と解しても何等の支障はないというべきである。

以上説示のとおりであるから本件につき司法警察員が被告人を準現行犯人として逮捕したことに違法の点はない。従つて右逮捕手続の違法を前提として被告人の供述調書に証拠能力がない旨の論旨はその前提を欠くこととなるからこれを採用することはできない。

(裁判長裁判官 山下辰夫 裁判官 二見虎雄 裁判官 後藤寛治)

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