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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和39年(ネ)64号 判決 1965年12月10日

主文

原判決を左のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金一〇万七、四〇〇円、およびうち金三万二、五〇〇円に対する昭和三六年三月三日より完済に至るまで日歩金四銭の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審ともこれを五分し、その四を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、下記のとおり附加訂正するほか、原判決事実摘示どおりであるから、これをここに引用する。

一、被控訴組合の訴訟代理人において、

本訴請求金中、仔豚代金の合計額に相当する金七万四、九〇〇円は、控訴人が被控訴組合より貸付を受けて預つていた被控訴組合所有の仔豚を、擅に売却処分した不法行為により、被控訴組合に生じた損害の賠償を求めるものである、と述べた。

(立証省略)

控訴代理人において、

被控訴組合の事業内容が、被控訴組合主張どおりであることは認める、と述べた。

(立証省略)

二、原判決三枚目表七行目に「弁済期後」とあるのを「飼料引渡日以後」と訂正し、原判決三枚目表末行、同四枚目表九行目に、「宮脇澄男」とあるのを「宮脇澄雄」に、同四枚目表二行目に「宇野宮砂夫」とあるのを「内野宮砂夫」に、同四枚目表三行目に「福本叶」とあるのを「福元叶」に、同五枚目表六行目より七行目にかけ「宮脇澄男」とあるのを「澄男こと宮脇澄雄」と、いずれも誤記と認めるので訂正する。

理由

一、被控訴組合が、牛、馬、豚並びにその飼料等の購入、販売、およびこれに附帯する事業を営むものであることは、当事者間に争がない。控訴人は被控訴組合代表者遠矢景蔵は、被控訴組合を代表して本件訴訟をなす資格はない、と主張するので、まず右主張の当否につき判断する。

当審における被控訴組合代表者本人尋問の結果により成立を認める甲第一号証、同第七号証、原審証人守田美明、同内野宮砂夫の各証言、当審における被控訴組合代表者本人尋問の結果によると、被控訴組合は昭和三五年一〇月一九日組合員約五〇名(現在三七名)を以て創立されたものであるが、定款を有し、該定款によると被控訴組合は組合員の経済的地位の向上を図るのを目的として設立されたものであり(定款第一条)組合員は出資負担金として金二〇〇円を納入する義務があり(同第一三条)、役員として理事五名、監事二名がおかれ(同第一六条)、理事全員によつて構成される理事会により理事長が選任され理事長は被控訴組合を代表し、組合事務を執行する(同第一八条)と定められており、組合総会があり(同第二〇条参照)、右各役員は組合総会により選任される(甲第一号証参照)ものであること、遠矢景蔵は被控訴組合創立以来の代表理事であることが認められる。原審証人日高実衛の証言、当審における控訴本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前記各証拠と対比して措信できないし、他に右認定を覆えすにたる証拠はない。右認定事実によれば被控訴組合は社団の実質を有すること明らかであり、法人格を有しないことは被控訴組合の自認するところであるから、被控訴組合は所謂権利能力なき社団というべきであり、被控訴組合代表者遠矢景蔵は被控訴組合の創立以来の代表理事であるから、前記定款第一八条、民事訴訟法第四六条により、被控訴組合を代表して本件訴訟をなす資格を有するというべきである。よつて控訴人の前記主張は理由がない。

二、被控訴組合との間で控訴人が昭和三五年一〇月八日、同年同月一七日、同年一一月八日の三回にわたり、計五頭の仔豚を代金(この仔豚代金が売買代金か、後記清算代金かの点は暫く措く、以下同じ。)合計三万二、一四〇円と定め、訴外宮脇森三郎が昭和三六年三月三日三頭の仔豚を代金一万九、八八〇円と定め、訴外宮脇澄雄が右同日三頭の仔豚を代金二万二、八八〇円と定め、それぞれ被控訴組合から引渡しを受けたこと、また控訴人が昭和三五年一一月一三日から同年一二月一六日までの間に少くとも合計金八、九五〇円相当の、訴外宮脇森三郎が昭和三六年三月三日合計金一万一、四五〇円相当の訴外宮脇澄雄が右同日合計金一万二、一〇〇円相当の、それぞれ飼料を被控訴組合より買受けたことは当事者間に争がない。(ただし各仔豚引渡日、引渡仔豚頭数、各飼料売渡日については、控訴人は被控訴組合の主張を明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。)被控訴組合は合計金二万三、一二〇円相当の飼料を控訴人に売渡したと主張するが、前記金八、九五〇円を越える分についてはこの事実を認めるにたる証拠はない。

成立に争のない甲第六号証の一、二、原審証人内野宮砂夫、同福元叶、同宮脇森三郎(一部)、同宮脇澄雄の各証言、当審における被控訴組合代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨によると、被控訴組合はその主要事業として、組合員が被控訴組合より借受けた仔豚を成豚に達するまで自らの費用を以て飼育し、成豚に達したときはこれを被控訴組合に返還する。被控訴組合は返還を受けた成豚を訴外日本蓄産株式会社に売却し、その売却代金から予め定めておいた貸付仔豚の代金を控除した差額を組合員に交付する。組合員は別に手数料として仔豚一頭につき金二〇〇円を被控訴組合に支払い、また仔豚を借受けた日から豚代金が被控訴組合に入金済となるまで右貸付仔豚の代金に対する日歩金四銭の割合による利息を支払う、との約定のもとに、仔豚を組合員に貸付けていたこと、また貸付豚の飼育に要する飼料は被控訴組合が組合員に売却するが、その代金支払時期は貸付豚が被控訴組合により前記訴外会社に売却されたときであり、かつ飼料引渡しの日から支払済に至るまで右飼料代に対する日歩金四銭の割合による利息を支払うことと定められていたこと、控訴人および訴外宮脇森三郎、同宮脇澄雄は、いずれも被控訴組合の組合員であり、右約定のもとに被控訴組合より仔豚を借受けて前記のとおりその引渡しを受け、飼料を買受けたものであること、昭和三六年三月三日、控訴人は、被控訴組合の承諾を得て、豚飼育に関する前記約定による訴外宮脇森三郎、同宮脇澄雄らの債権債務を承継し、同訴外人らが被控訴組合より借受け飼育していた仔豚の引渡しを受け、かつ同訴外人らの被控訴組合に対する前記飼料代金債務を引受けたことがそれぞれ認められる。原審証人宮脇森三郎の証言、当審における控訴人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信できないし、他に右認定を左右するにたる証拠はない。

三、ところで控訴人は、被控訴組合は、組合員が国民金融公庫宮崎支所から借受けた金を組合員に無断で、本件仔豚、飼料の仕入代金に充てたものであるから、控訴人および訴外宮脇森三郎、同宮脇澄雄に対する前記貸付仔豚の所有権、飼料売却代金債権はいずれも実質上組合員に帰属するもので、被控訴組合のものではない、と主張する。原審証人日高義衛(一部)、同宮脇森三郎(一部)、同宮脇澄雄(一部)、同日高義衛(一部)の各証言、当審における控訴本人尋問の結果(一部)、当審における被控訴組合代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨によると、被控訴組合の組合員約三三名は、各自昭和三五年一一月頃から昭和三六年一月頃までの間に、国民金融公庫宮崎支所から金三万円位宛合計金三〇〇万円ないし金四〇〇万円位の融資を受け、この金を被控訴組合の専務理事守田義明にその運用を一任して預けたこと、被控訴組合は右守田より右金員を借受けて組合の運営資金となしたもので、被控訴組合が控訴人らに貸付けた仔豚、売却した飼料は、いずれも右資金により被控訴組合が仕入れたものであることが認められる。右認定事実に先に認定したとおり被控訴組合が所謂権利能力なき社団であることを考え合せると右仕入れ資金の元の金主が各組合員個人であつても被控訴組合の運営資金となつてその資金により仕入れた仔豚、飼料等はいずれも被控訴組合の所有であり、これを被控訴組合が売却した場合の代金債権は被控訴組合に帰属するものであるといわねばならない。よつて控訴人の前記主張も理由がない。

四、控訴人が被控訴組合より引渡しを受けた前記仔豚五頭、および訴外宮脇森三郎、同宮脇澄雄より引渡しを受けた前記仔豚合計六頭を昭和三六年五月中に、被控訴組合に無断で他に売却処分したことは、控訴人は明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。これら仔豚は、被控訴組合が控訴人および右訴外人らに貸与していたものであり、したがつて被控訴組合の所有であることは前記認定のとおりであるから、被控訴組合は控訴人の右不法行為により少くとも右仔豚計一一頭の前記仔豚の貸付代金の合計金七万四、九〇〇円(控訴人に対する貸付豚の清算代金三万二、一四〇円、訴外人らに対する同清算代金計四万二、七六〇円)の損害をこうむつたものというべく、控訴人は右損害を賠償する義務がある。被控訴組合はうち金三万二、一四〇円(被控訴組合が直接控訴人に貸付けた仔豚五頭の代金相当額)に対しては控訴人に対する最後の仔豚貸付日である昭和三五年一一月八日より、うち金四万二、七六〇円(控訴人が訴外宮脇森三郎らから引渡を受けた仔豚六頭の代金相当額)に対しては訴外人らに対する仔豚貸付日である昭和三六年三月三日より、いずれも支払済に至るまで前記仔豚飼育契約による日歩金四銭の割合による利息の支払を求めているが、右合計金七万四、九〇〇円の元金は、前記のとおり損害賠償債権であり、右利息の約定を適用すべき場合ではないから、右利息の請求は失当である。また控訴人が被控訴組合に対し自己固有の飼料代金債務八、九五〇円、前記訴外人らから引受けた同債務合計二万三、五五〇円を負担することは前記認定により明らかである。飼料代金債務については買受日より支払済に至るまで日歩金四銭の割合による利息(履行期到来後は損害金であり、被控訴組合の利息請求は、履行期後は損害金の支払を求める趣旨である、と解されるところ、右代金債務の前記履行期の定めによれば、履行期は不確定期限であると解されるから、被控訴組合が控訴人より貸付豚を回収し、これを訴外日本蓄産株式会社に売却することが不可能であることが確定した日、すなわち控訴人が貸付豚を無断売却した日に履行期が到来したというべきであり控訴人は昭和三六年五月中に貸付豚全部を売却しているので遅くとも同年同月三一日に期限到来したというべきである。)を支払う約定があつたことはさきに認定したとおりであるから、控訴人は飼料代債務合計金三万二、五〇〇円に対する昭和三六年三月三日より支払済に至るまで日歩金四銭の割合による金員を支払う債務を被控訴組合に負担したというべきである。

五、次に控訴人の消滅時効の抗弁につき判断する。前記貸付豚の無断売却を原因とする金七万四、九〇〇円の損害賠償債権については、産物あるいは商品の代価ではないのであるから、民法第一七三条第一号の適用される余地はない。また前記定款第一条に記載の、被控訴組合の目的、被控訴組合の主要事業である組合員に対する仔豚貸付、および右仔豚飼育に要する飼料の販売に関する前記約定の内容、および弁論の全趣旨に照らせば被控訴組合は控訴人や訴外宮脇森三郎、同宮脇澄雄の如き組合員に対し仔豚を貸付け、飼料等を販売しても、一定の手数料、手数料と同視すべき程度の利潤、一定の利息を徴するだけで組合員の経済的地位の向上を図る目的のもとにこれら取引をなすものであり、売却商品の買入価格と売渡価格との差額取得を目的とするが如き営利を目的として右取引をなすものではないことが認められるから、被控訴組合は組合員に対する関係では商人ということはできない。控訴人は本件飼料売渡代金三万二、五〇〇円につき、卸売商人若しくは小売商人が売却した商品代金債権であるから、民法第一七三条第一号によつてすでに時効により消滅したと主張するが、すでに被控訴組合が控訴人ら組合員に対する関係で商人でない以上、右主張の失当であることはいうまでもない。よつて控訴人の消滅時効の抗弁はすべて理由がない。

六、そうだとすると控訴人は被控訴組合に対し、損害賠償債務金七万四、九〇〇円飼料代債務金三万二、五〇〇円の合計金一〇万七、四〇〇円および右飼料代債務金三万二、五〇〇円に対する昭和三六年三月三日より支払済に至るまで日歩金四銭の割合による利息(期限後の損害金を含む)の支払義務があるというべく、被控訴組合の本訴請求は右限度において理由があるからこれを認容すべきであり、その余は失当であるからこれを棄却すべきである。しかるに原判決は右結論と一部抵触するから変更を免れない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九二条を適用して主文のとおり判決する。

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